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破産法学習ノート

破産債権


関西大学法学部教授
栗田 隆

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1 概説  2 破産債権の要件  3 破産債権の順位  4 破産債権の行使
5 まとめと発展的問題  6 共同債務関係にある債務者の破産
7 別除権者・準別除権者の手続参加  8 破産手続外での破産者の財産からの弁済受領


1 概 説



破産債権の特徴は、要件の面と効果の面から述べることができる。 破産法は、破産債権を要件の面から定義している(2条5項)。

ある債権が破産債権であることに結びつけられた主要な効果は上記のこと(100条)であるが、その外に、次の効果も付与されている。
用語上の注意
  • 破産手続に参加する(103条1項)  直接には、破産債権を届け出て破産債権として確定してもらうことができることを意味する。原則として、配当手続に参加することもできる。
  • 配当手続に参加する(196条1項・198条)  配当表に記載してもらうことができることを意味する。破産手続に参加できても、配当手続に参加できない場合があり(198条)、その場合には、配当金を受領することもできない。
  • 配当を受ける(193条2項・202条)  配当金を受領することを意味する。配当手続に参加できた債権者は、配当を受けることができるのが原則である。しかし、異議等のある無名義債権については、債権者が破産債権確定のための手続(査定手続等)の係属を証明すれば、配当手続に参加することができるが(198条1項・199条1項2号)、配当金を受領するためには、その手続により最終的に破産債権の存在が確定されることが必要であり(202条1号)、その決着がつくまでに最後配当が実施されると彼への配当金は供託され(202条)、その後に債権が存在しないことが確定すると、その配当金は他の債権者への追加配当の原資となる。

2 破産債権の要件(2条5項・97条


2.1 基本

原則として、次のすべての要件を満たすものが破産債権であり、かつ、満たさないものは破産債権ではない。ただし、()の要件については例外がある。

金銭給付によって満足させられる性質の請求権(財産権上の請求権[2])  破産手続では、債務者の財産が金銭に換えられ、その金銭が破産債権者に平等に分配されることになるので、破産債権は、(α金銭給付によって満足させられる性質の請求権であることが必要である。この要件は破産債権者に給付されるべき金額の算定を伴うので、破産債権は、(β金銭に評価できる請求権であることが必要である(これら2つのことは、しばしば同義であると解されている)。
破産者に対する人的請求権  破産債権となるのは、破産者に対して一定の給付を求める権利(請求権)である。原則として、破産者が自己に属する財産(責任財産)を用いて実現することのできる義務の履行を求める請求権であることが必要である。財産に対する支配権(所有権など)自体あるいは支配権から派生する権利(妨害排除請求権など)は、破産債権にならない。人的請求権の例:
他方、次の権利は、破産債権にならない。
  1. 物的担保権  その多くは破産手続によらずに権利行使ができ、その点にちなんで別除権と呼ばれる(2条9項・65条)。別除権の被担保債権は破産債権となり得るが、一般債権者との公平を保つために、別除権者は、被担保債権のうち別除権を行使しても回収することができない部分(担保不足部分)についてのみ破産債権者として権利を行使することができるとの建前がとられている(108条)。この建前を、不足額主義と言う。
  2. 取戻権  破産者に属しない財産を破産管財人の支配から取り戻す請求権は、取戻権と呼ばれ、破産手続の開始によって影響されることなく行使できる(62条)。
    1. 権利者がその財産に対して直接の支配権(所有権等)を有する場合には、そのことが、(α)その支配権の限度で目的財産が破産者に属しないことを根拠付け、かつ、その支配権が(β)目的財産の返還等を求める請求権の基礎となる。
    2. 破産者に属しない財産について権利者が支配権を有するわけではないが、破産者に対してその返還等を請求する権利を有する場合にも、その請求権は取戻権であり、破産債権にならない。例えば、転貸人が転借人(破産者)に対して有する転貸借終了後の返還請求権は、取戻権である。
    3. 破産者に属しない財産を破産者が占有者から奪った場合に、占有者が有する占有回収請求権(民法200条)も同様に取戻権になる。
    4. 破産者が自己の所有物を賃貸したが、破産手続開始前に賃借人からその物を奪ったことにより、賃借人が占有回収訴権(民法200条1項)を有する場合に、破産手続開始後にその物が破産管財人の支配下にあるのであれば、賃借人はこの訴権(請求権)を破産管財人に対して行使できるべきである。この請求権は、目的物が破産者に属するのである62条の取戻権に該当しないが、破産管財人の支配を排除する権利という意味で、広義の取戻権に含めることができる。
上記2bの請求権は、民法の世界において人的請求権に含めるのが通常である。しかし、民法の世界における位置付けにかかわらず、破産法の世界では、この請求権は「破産債権となる人的請求権」から除外される[CL7]。なお、物権的請求権(上記2a)も、破産手続開始前に破産者の責めに帰すべき事由により実現されなくなれば、一般法に従い損害賠償請求権(金銭債権)に転化し、金銭債権になれば破産債権になる。

いくつかの例 執行することのできる請求権=掴取権能のある債権  これは、破産手続が包括的な執行手続(強制的な権利実現手続)の性格を有することに基づく要件である。

次のものは、破産債権にならない。
破産手続開始前の原因に基づいて生じた請求権  債権者の範囲は、いずれかの時点を基準にして固定しなければならない。そうでないと、手続の整理がつかない。破産法は、破産手続開始の時を基準にして、破産債権の範囲を固定した。破産手続開始当時に債権の発生原因の全部が具備していることが必要であるとの見解を全部具備説というが、この説は現在では否定されている。基本的構成要件が破産手続開始前に充足されていれば足りる(一部具備説ないし基本部分具備説)[6]。そのような債権である限り、条件付債権、期限未到来の債権でもよい(103条3項・4項参照)。
破産法は、破産債権として扱う必要があるが、破産手続開始前に原因があるかについて疑義の生ずる債権、あるいは破産手続開始前に原因があるとはいえない債権について、個別的に規定を置いている。次のものは、破産債権に含まれる(97条)。
  1. 破産債権に附帯する請求権(1号から3号)
    1. 破産手続開始後の利息の請求権
    2. 破産手続開始後の不履行による損害賠償又は違約金の請求権  破産債権に附帯するものに限られる。建物所有により他人の土地を不法占有している者について破産手続が開始された場合に、破産財団に属することになった建物により破産手続開始後も土地の利用を妨害されていることによる土地所有者の損害賠償請求権は、取戻権を基礎とする損害賠償請求権であり、このようなものは財団債権になる(148条1項4号)。
    3. 破産手続開始後の延滞税(国税通則法60条以下)、利子税(同法64条)又は延滞金の請求権  国税通則法2条4号に挙げられている附帯税は、(α)延滞税・利子税と(β)その他の税(後記b2)とに分けることができる。両者には基本的な性格の違いがあり(後者は罰金と同様な制裁の色彩が強いが、前者はそうではない)、この違いにより、前者は破産手続開始後のもののみが3号に含まれ、後者は無限定に5号に含まれ。しかし、いずれも劣後的破産債権である(99条1項1号)という点では同じである。他方、破産手続開始前の延滞税等は、劣後的破産債権にはならない。
  2. 租税等・罰金等の請求権(4号から6号)
    1. 租税等の請求権であって、破産財団に関して破産手続開始後の原因に基づいて生ずるもの(4号)  破産債権は、破産手続開始前に原因があるものに限られるとの原則の例外である。「破産財団に関して生ずる租税債権等」は、次のことを意味する。(1)「破産財団に属する財産に関して生ずる租税債権等」。(2)破産者が法人である場合には、法人に属する財産は全て破産財団に含まれるので、「破産財団に関する」は「破産法人に関する」を意味すると解釈すべきであろう。そうでないと、破産法人の破産手続開始後の所得[75]に係る租税債権の位置付けに窮することになるからである[76]。ただし、上記に該当するものであっても、148条1項4号に該当すると評価され得るものは財団債権になるので(例えば、(1)の該当する租税債権のうちの固定資産税)、それ以外のものがここにいう破産債権なり、かつ、劣後的破産債権になる(99条1項1号)。次の規定に注意
      • 破産者が個人である場合に、破産財団所属財産を破産管財人が換価したことによる所得は、おおむね課税対象にならない(所得税法9条1項10号。[伊藤*破産・民再v3]317頁以下参照)。
      • 法人税法59条2項(法人税令117条3号)により、破産手続に開始により解散した法人の債務免除益等については、所得金額の計算上、同額を損金の額に算入することが認められている[74]
    2. 本税が破産債権である場合の附帯税
      (国税通則法2条4号)等の取扱い
      97条 性質 破産手続
      開始前
      破産手続
      開始後
      3号の請求権 非制裁的 優先的
      破産債権
      劣後的
      破産債権
      5号の請求権 制裁的

      劣後的破産債権

      加算税(国税通則法2条4号所定の過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税)又は加算金(地方税法1条1項14号所定の過少申告加算金、不申告加算金及び重加算金)の請求権(5号)  罰金等の請求権と同様に、その原因が破産手続開始の前にあるか後にあるかを問わない(148条1項3号の最初のかっこ書参照)。
    3. 罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金又は過料の請求権(6号)  その原因が破産手続開始の前にあるか後にあるかを問わない。なお、罰金等の請求権についても、財団債権となるものが存在することが予定されている(114条2号参照)。 劣後的破産債権とするために、他の法律により過料の請求権とみなされる請求権もある(例:金融商品取引法185条の16)。
  3. 破産手続参加の費用の請求権(7号)  個々の破産債権者の手続参加費用の償還請求権である。破産手続開始申立ての費用は、共益費用の償還請求権として、財団債権となる(148条1項1号)。
  4. 双務契約の終了に伴う請求権や破産手続開始後に契約終了までに生ずる請求権等(8号から12号)
    1. 54条1項・58条3項所定の、相手方の損害賠償請求権
    2. 57条所定の、受任者の償還請求権   委任者について破産手続が開始された場合には、委任契約は、受任者との関係では、受任者が破産手続開始を了知したときに初めて終了する(正確には、それまでは破産手続開始による終了を対抗することができない(民法655条))。それまでは受任者との関係では委任契約は有効に存続しており、委任事務の処理により生じた費用償還請求権・報酬請求権は、破産手続開始前に有効に生じた委任契約の履行行為により生ずる債権(破産手続開始前に原因のある債権)として、破産債権になる(2条5項の破産債権の要件を充足する。ただし、「同項の要件は満たさず、本来は破産債権ではないが、57条により破産債権にされている」、と説明する見解もある)。
    3. 60条所定の、為替手形等の支払人等の償還請求権  破産手続開始前に締結された支払委託契約や保証委託契約に基づき、破産手続開始後に為替手形の引受け等の手形行為あるいは小切手行為がなされた場合の償還請求権は、これらの契約が委任契約の一種であることに鑑みれば、すでに57条により破産債権となりうるが、その特則として60条が要件を緩和して破産債権になるとした(例えば、民法655条は「通知」により委任契約が終了するとしているので、通知後の委任事務の処理により生じた債権が破産法57条により破産債権になることはないが、破産法60条は「通知」を要件の一部に含めていない。もっとも、通知があれば当然に「破産手続開始の事実を知った」と見るべきかの解釈問題は残るが、特則であることを強調すれば、そのように解釈しない方がよいことになる)。
    4. 59条1項所定の、交互計算終了による残額請求権   破産手続開始前に効力を生じた交互計算契約に原因のある債権であり、2条5項の破産債権の要件を充足している。
    5. 168条1項2号・3号所定の、否認の相手方の償還請求権

 財団債権でないこと
  破産手続開始前に原因がある請求権は、破産債権になるのが原則であるが、様々な政策的理由により、財団債権とされているものがある。財団債権とされている請求権は、破産債権ではない(2条5項末尾・97条柱書かっこ書)。例えば、次のものがこれに該当する:
その他  破産手続開始当時に満足を受けていないことも、もちろん必要である。債権者が、破産手続開始当時に未確定の仮執行宣言付判決に基づき、破産手続開始前に仮執行により満足を受けた場合に問題となる。この場合について、次の2つの見解が対立している(詳しくは、「破産財団に関する訴訟の中断・受継」の中の「3.4 仮執行による弁済の効力」の項参照)。
  1. 債務者について破産手続が開始されたこと自体を理由に仮執行による給付の効力を否定し、債権者は仮執行がなかった場合と同様に破産手続によってのみ権利を行使すべきであるとする見解。
  2. 仮執行宣言付判決が確定的に取り消されない限り、仮執行による給付は破産手続との関係では有効であり、その部分については比例的満足を強制されないとする見解。

次のように考えたい。仮執行による満足は、確定判決により債権の存在が肯定されることを停止条件とする仮定的満足であるが、この仮定的満足を破産手続開始前に受けているという債権者の地位は、破産手続においても尊重されるべきである。従って、破産手続との関係では、仮執行宣言付判決が確定すれば、破産手続開始前の仮執行による弁済の効力は、肯定されるべきである。すなわち、
  1. 仮執行により満足を得た部分は、破産財団から比例的満足を受けるべき債権(破産債権)に当たらない。当該訴訟手続は、破産手続開始決定により中断するが(44条1項)、破産管財人によって受継され(44条2項)、終局判決において債権の存在が肯定されれば、満足の効力は破産手続開始前に遡及して、確定的満足になる。
  2. 他方、仮執行による満足を受けていない部分は、破産債権となる。この部分については、当該訴訟手続は破産手続開始決定により中断し(44条1項)、債権調査手続において異議等が出された場合に、債権確定訴訟として異議者等により受継される(129条2項。44条2項も参照)。

債務者からの申立てにより執行停止がなされ、それにつき担保が提供されていた場合には、執行停止がなくても仮執行は破産手続開始時までに完了していなかったであろうとの事情がない限り、仮執行債権者は、執行停止による損害につき、当該担保に対し権利を行使することができる(最高裁判所平成13年12月13日第1小法廷決定(平成13年(許)第21号))。

2.2 発展的問題

責任限定債権
債権の満足に充てられるべき財産(責任財産)は、多くの場合に限定されていないが、例外的に、法律の規定により又は合意により特定の財産(限定責任財産)に限定されている場合がある(その合意は、しばしば「ノンリコース特約」と呼ばれる[4])。そのような債権を責任限定債権と呼び、その債権者を責任限定債権者と言うことにする。責任限定債権については、限定責任財産からの弁済について、その債権と他の債権との優先順位が問題となる。
  1. 責任限定債権のために限定責任財産に担保権(別除権となる担保権)が成立している場合には、責任限定債権者は、破産手続外で別除権を行使して満足を受ける。当該財産に残余が生ずれば、それは破産財団に属する。責任限定債権者は、当該担保財産から完全な満足を得ることができない場合でも、破産手続に参加することができないのが原則である。ただし、担保権行使前に責任限定債権者の責に帰すことのできない事由により担保権が消滅した場合に、目的物の価額を限度として破産債権となることを認めるのが適当な債権もある(例えば、商法812条の有限責任について、同813条により先取特権が失われた場合に、そのように扱うべきであろう)[3]。
  2. 限定責任財産上に責任限定債権のための担保権が生じないが、他の債権に優先することが定められている場合には、それに従う。例えば、限定承認がなされた場合には、相続債務の責任財産は相続財産に限定される。その相続財産からまず相続債権者が満足を得、残余があれば、残余財産は相続人の固有財産となり、固有債権の満足に充てられる(この場合には、相続債権者が完全な満足を得るまで、両財産は分別して管理される。242条1項)。
  3. 限定責任財産上に責任限定債権のための担保権が存せず、また優先的に弁済を受けるべきことが定められていないという事態は、配当処理が難しくなるので、あまり想定したくないことである。しかし、理論上はありうる(少なくとも合意により生じうる)。(α)責任限定債権者とその他の債権者とを同順位に立たせると、責任限定債権者が不利になるので、責任限定債権者が優先することについて他の債権者の黙示の同意を認定することができる場合には、そのように扱うのがよい。(β)しかし、そのような黙示の同意を認めることができない場合には、他の債権者は、限定責任財産からも破産手続開始当時の債権額を基準にして平等に配当を受けるのが原則となろう(責任限定債権者が不利益を受けるが、それは、責任限定が合意により生ずる場合には、責任限定特約を受け入れたことの結果である)。

手持債権を利用した資金調達(文献[53]
金融機関等は、資本の回転率を高めるために又は新規融資資金の調達のために、保有債権を売却したり又は担保に用いることがある(以下では、金融機関等を「原債権者」、その保有債権を「原資産」ということがある。「資産」という外延の広い言葉が使われているが、主として念頭に置かれているのは債権や証券である)。(α)債権の売却の際に、(α1)その債権について自らが保証人になったり、売戻特約ないし買戻特約を付す等の方法によりリスクを引き受けるか、それとも(α2)リスクを基本的に引き受けないかの選択肢がある。後者は、いわゆるバランスシートからリスク資産をはずすことになり、金融機関の自己資本比率を高める点では有利である。他方、(β)金融機関が保有債権をバランスシートからはずすことなく、これを担保にして証券(債券)を発行し、できるだけ低い金利で資金を調達することもある。証券を買い入れる投資家から見れば、金融機関の一般財産から弁済を求めることができる上に、担保となる資産から優先弁済を得ることもできる点で安心感がある。また、金融機関が担保である原債権の発生から回収まで責任をもつので、投資家の安心感はさらに高まる。

債権の売却(オフバランスシート)  債権の売却の際に、買手にとっては、(1)原債権者の倒産によって影響を受けないようにすることと、(2)買い取った債権の不履行によって不測の損害を受けないようにすることが問題となる。前者は、いわゆる倒産隔離の問題であり、日本では専ら会社更生手続との関係で問題になる。会社更生手続では、担保権者も手続に取り込まれ、担保権を手続外で行使することが否定されているからである。この問題に対処するためには、債権の売買が代金相当額を被担保債権とする譲渡担保と認定されないようにすることが必要である。後者の問題については、保証契約やこれに類似する契約を利用することも一つの方法であるが、この外に、売却される債権がある程度まとまった数の債務者を異にする債権である場合には、その内のどれだけの割合のものが不履行になるかは比較的把握しやすいので、不履行の確率を見込んで代金額を定めることも、一つの方法である。この場合には、(3)多額の資金を多数の小口投資家から調達することができるようにする必要がある。

上記の問題に対処するために、原債権者が有する多数の債権を投資家に直接売却するのではなく、いったんSPCに売却して、SPCがそれを裏付財産にして証券を発行し、その証券を小口に分割して売却するという方法が採られる。ここで、裏付財産は、証券の利払及び償還の原資となる財産を意味する。SPCが一つの証券しか発行しないのであれば、発行される証券に化体された債権を被担保債権としてその裏付財産に担保権を設定する必要は高くないが、それでも、SPCに対して他の者が債権を主張する可能性はあるので、裏付財産に担保権を設定しておくことが望ましい。SPCが複数の証券を発行する場合には、各証券についてそれぞれの裏付財産上に担保権を設定しておくことが不可欠になる。さらに、前記(α2)の選択肢を採る場合には、原債権者が投資家から責任を追及されないことを確実にするために、投資家が取得する債権の責任財産が裏付財産に限定され、原債権者の責任を追及し得ない旨の特約(責任財産限定特約)を付すこともある(さらに念を入れて、責任財産から弁済を受けることができない部分については、権利を放棄する旨の特約を付すこともある)。

「裏付資産」の語義は多様であり得る。ある資産Aから得られる金銭(収益及び当該財産自体の換価金)でもって証券Bの利払と元本の償還がなされる場合に、「資産Aは、証券Bの裏付資産である」といわれのであるから、裏付資産の基本的意味は、「特定の債権(特に、証券に化体された債権)の弁済原資となっている財産」(弁済原資財産)である。これに加えて、その債権の「担保資産」にもなっているとの意味を含めて用いられ、しばしば「責任財産限定特約付きの担保資産」にもなっているとの意味を含めて用いられる。時には、弁済原資財産であるという意味を脱落させて、単に担保資産であるという意味で用いられることもある。このように、債権を中心にした資産を裏付けにして発行される証券は、主としてアメリカで盛んに発行され、一般に、Asset-Backed Securityと呼ばれる。略して、ABSである。日本では、「資産担保証券」と訳されることが多い。ただ、モーゲッジ(抵当権)によって担保された住宅ローン債権などを裏付資産にした証券は、Mortgage-Backed Securityと呼ばれる。略して、MBSである。「モーゲージ担保証券」と訳されることが多い。

日本では、資産担保証券に関する法として、「資産の流動化に関する法律」(平成10年法律105号)が制定されている。同法では、SPCは「特定目的会社」、流動化されるべき原資産は「特定資産」、特定目的会社が発行する特定資産によって裏付けられた証券(ABS)は「資産対応証券」と呼ばれている。会社に代えて信託(特定目的信託)を用いることもでき、この場合には、特定目的会社に相当する「特定目的信託の受託者」である「受託信託会社等」が資産対応証券に相当する「受益証券」を発行する。

債権の担保化(オンバランスシート)  金融機関等(原債権者)が貸出債権を担保にして自ら証券を発行する場合には、証券保有者は、原債権者(証券発行体)の一般財産から弁済を受けるとともに、原債権者について倒産手続が開始された場合に、担保となっている原資産から優先的に弁済を得ることができる。貸出債権(原資産)は、金融機関の貸借対照表(バランスシート)に残る。主に欧州、特にドイツで盛行している資金調達方法である。原資産を担保財産とする証券は、ドイツ語ではPfandbriefと呼ばれる(Pfandは担保の意味であり、Pfandbriefは「担保付証券」を意味する。起源は古く、日本の抵当証券に相当するHypothekenbriefに由来するようである。10億ユーロ以上の証券が証券市場に向けて発行される場合には、Jumbo-Pfandbriefと呼ばれ、特別の制度が用意されている)。証券発行体が倒産した場合に担保資産から優先的に弁済を得ることをもって、「担保資産によってカバーされる」と表現し、その点にちなんでカバード・ボンド(担保付証券)とも呼ばれる(カバードボンドの範疇は広く、ドイツのPfandbriefはその一種である)。

貸出債権の担保化の方法は、国によって異なりうる。日本の現行法の下では、基本となるのは、担保の古典的方法である質権設定あるいは譲渡担保であり、動産債権譲渡特例法8条・14条がこの目的に役立つ。特定の少数の大口投資家から融資を受け、証券化の必要がない場合には、これで十分である。貸出債権を担保にして幅広い投資家から資金を受け入れるためには、証券化が必要となり、投資家保護のための措置を講ずる必要が生ずる。しかし、ここでは、この点にこだわらずに貸出債権の担保化を考えてみよう。現行法の下では、次のようなことが考えられる:
原債権者の保証付きABS  金融機関が保有する債権を裏付財産あるいは担保財産として用いて資金調達する場合に、それに応ずる投資家から見て最も有利なのは、原債権者の保証が付いた原債権によって裏付けられた証券(原債権者の保証付きABS)であろう(前記α1)。これであれば、裏付資産について債務不履行が生じても、(α)原債権者に保証債務の履行を求めることができ、裏付資産不足になることはない。保証のないABSよりも有利である。さらに、(β)原債権者について破産手続が開始されても、それに巻き込まれることなく裏付資産から弁済を得ることができる。また、(γ)原債権者(破産者)に対する保証債権が破産債権として行使される場合に、この保証債権のための担保権が破産者の財産上に設定されているわけではないので[68]、保証債権について不足額主義は適用されず、保証債権額(=被保証債権額、すなわち、破産手続開始時における裏付資産たる原債権額)の全額で破産手続に参加することができる。もちろん、原債権者とSPCとの間で締結される保証契約における合意にしたがい、相応の保証料が支払われることになる。

 保証人である原債権者について破産手続が開始されたが、被保証債権の債務者については破産手続が開始されていない場合に、SPCの有する破産債権をどのように考えるかの問題が生ずる。結論のみを述べれば、SPCが支払った保証料のうちで未償却分(保証期間のうちの未経過期間に対応する保証料)の返還請求権が破産債権になるとしてよい。SPCは、新たな保証人との間で保証契約を締結する必要がある場合には、その保証料を破産財団からの配当金と裏付財産からの収入(利払金)から支払うことになり、後者の分だけ、証券保有者は利払金が減少する。それは、保証人の倒産によって証券保有者が負担すべき損失である。

扶養料請求権
民法877条等の規定による扶養料請求権等は、(α)破産手続開始前に履行期が到来している支分権と、(β)開始後に履行期が到来する支分権及びこれを発生させる基本権とに分けて考える必要がある。前者が破産債権となることに問題はない(253条1項4号により非免責債権である)。

後者については、次の点を考慮する必要がある。
  1. これを破産債権とすれば、破産手続中の権利行使は許されず(100条1項・42条1項・2項)、また、免責手続中は新たな強制執行等は許されず、既にされているものは中止され(249条1項)、免責許可決定が確定すれば既にされている強制執行等は効力を失うことになる(249条2項。非免責債権のための強制執行も一旦効力を失うとされている)[55]が、その取扱いが扶養料請求権の性質に適するかは疑問である。
  2. 扶養料請求権は、一種の定期金債権ではあるが、本来、その時々の両当事者の生活状況を考慮してその内容が決定されるべきものであり、債務者について破産手続が開始されたという重要な事情変更があれば、そのことを考慮して扶養料請求権の内容が決定されるべきである(基本権としての扶養料請求権については、債務者が破産したという事情も考慮する必要があり、権利内容の変容を認めるべき場合もあろう)。そのような特質を有する扶養料請求権を破産手続開始前に原因のある通常の定期金債権と同様に扱うことには疑問がある。破産手続開始後の支分権は、破産手続開始後に発生したと考える方がよいのではなかろうか。合意による扶養料請求権については、事情変更の法理を適用して内容を変更すべきか否かが問題となるが、ともあれ変更の余地があり得るという点では法定の扶養料債権と同列に扱うことができる。
  3. 他方で、253条1項4号が扶養料債権を非免責債権として明示している現行法の下では、破産債権の中に基本権としての扶養料債権に含ませても、扶養料債権者が権利自体を失うことはない。そして、破産者が労働能力を喪失している等の理由により今後財産を得る見込みがない場合には、将来の扶養料請求権についても破産配当を得ておく方がよいことになる。ここでは、破産者と扶養料債権者の間の利害の調整よりも、他の債権者との利害の調整が重要である。

当事者の利害状況は個々の事件において様々であろう。
以上の理由によりいろいろ迷うことになるが、現行法の解釈としては、253条1項4号により非免責債権とされている各種の扶養料債権は、履行期が破産手続開始後に到来するものも含めて破産債権として配当に与からせつつ、破産手続中及び免責手続中の権利行使については、扶養料請求権であるとの特質により例外的にこれを許容する方向で議論を進めることが適切と思われる。

破産手続開始前の弁済による求償権と原債権
債務者のためにある債権者に代位弁済した者が、債務者に対して求償権を取得すると共に、求償を確実にするために、その債権者が有していた原債権を行使することができる場合に(民法499条・500条)、代位弁済後にその債務者について破産手続が開始されると求償権も原債権も破産債権になる。求償権者は、(α)求償権そのものを破産債権として行使することの外に、(β)求償権の範囲内において原債権を破産債権として行使することができる。(β)の選択肢は、原債権のために担保権が設定されていたり、原債権が財団債権あるいは優先的破産債権になる場合には重要である。しかし、それ以外の場合をどうであろうか。

求償権の金額と原債権の金額とが一致するとき(例えば、求償権者に負担部分がなく、債権者への弁済額の全額を求償できる場合)には、いずれの権利を行使しても結果は同じであるから、(β)の選択肢にあまり意味はない。

他方、弁済者に負担部分があり、弁済した金額の一部しか求償できないときには、(β)の選択肢の重要性は、弁済者はどの範囲で原債権を行使することができるかという民法501条の解釈に依存する。この点については、次のような見解がある;主債務者Sの債権者Gに対する債務をA・B・Cが連帯保証し、その負担割合が平等であり、Sにまったく財産がないためにAがGに300万円全額の弁済をした後で、BとCについて破産手続が開始された場合を想定することにしよう。
  1. 取得債権額制限説[46]  これは、≪代位弁済者は、求償権の金額を基準にして配当を受けるにとどまる≫との結論をとる見解である([山田*1992a]188頁以下、[八田*1997a]212頁以下、[山本*2002c]271頁・274頁注14)。次の2つの定式化が可能であるが、実質は同じである:(α)代位により取得する債権額は求償権の金額の範囲に制限される;(β)弁済者は、弁済額に応じて原債権を代位取得するが、破産手続等において配当がなされる場合には、求償権額を基準にして配当を受けるという意味で、原債権の行使は求償権の範囲内に制限される。前記の設例にあっては、Aは、300万円全額を代位取得するのではなく、BとCに対しては、それぞれに対する求償権100万円の範囲で原債権を代位取得するにすぎない。Bの破産手続において1割配当がなされる場合には、代位取得した原債権100万円を基準にして、その1割の10万円の配当を受ける。Cの破産手続において5割配当がなされる場合には、代位取得した原債権100万円の5割である50万円の配当を受ける。
  2. 受領金額制限説  全部義務者の1人が債務の全額を弁済した場合に、彼は弁済額に相当する原債権の全部を代位取得し、他の全部義務者に対して求償権の全額の満足に至るまで代位取得した原債権全額を行使することができる([福永*1986a]113頁、[長谷部*2011a]231頁注5、[栗田*2011a]98頁以下・102頁)。前記の設例にあっては、Aは、300万円全額を代位し、BとCに対しては、それぞれに対する求償権100万円の満足に至るまで、300万円の原債権を主張することができる。Bの破産手続において1割配当がなされる場合には、Bの破産手続において原債権300万円を基準にして、その1割の30万円の配当を受け、これは求償権額よりも小さいので、30万円全額を受領することができる。Cの破産手続において5割配当がなされる場合には、配当受領額は求償権額100万円に制限されるので、300万円の5割である150万円ではなく、それより小さい100万円のみを受領することができる。

多くの文献は上記の2つの見解の違いを明確にしておらず、したがって両説の違いを認識した上で取得債権額制限説を採用しているようには見受けられないが、それでも、取得債権額制限説が通説であると言われている(例えば[八田*1997a]212頁以下)。しかし、この見解では、求償権者の地位が弱すぎる。

設例を少し変えてみよう:債権者Gが連帯債務者A・Bに対して300万円の給付請求権を有し、A・Bの負担割合は平等であるとする;AがGに300万円を給付した後で、Bについて破産手続が開始され、7割配当がなされるものとする(なお、債権者は各連帯債務者について全部給付債権を有していることを前提にする)。
  1. 取得債権額制限説では、Aは、150万円の求償権範囲で原債権300万円を代位取得し、したがって、原債権を破産債権として行使する場合には、150万円の7割の105万円の配当を受けることになる。AとBの負担割合は平等であり、Bは負担割合に応じた負担をするだけの財産を有していたにもかかわらず、実際の負担は、195万円:105万円である。
  2. 受領金額制限説では、Aは、150万円の求償権の確保のためにBに対する原債権300万円をもって破産手続に参加することができ、210万円の配当金請求権をもって求償権150万円を確保するのであるから、150万円の配当を受けることができる。AとBは、負担割合に応じた負担をしたことになる。

「負担割合に応じた負担」という妥当な結論をもたらすのは、受領金額制限説であり、これが採用されるべきである。これら二つの見解は、おそらく、弁済者代位の根拠について異なる考えを基礎にしていると見るべきであろう。すなわち、
  1. 他人の債務を弁済したことにより求償権が発生するとともにその確保のために代位が認められると考えると、その他人との関係で弁済者が負担すべき部分は弁済者自身の債務の弁済であり他人の債務ではないから、その部分については代位は生じない。この考えを推し進めると、連帯債務者が3人以上の場合でも、弁済をしていない各連帯債務者に対して弁済者が債権者に代位するのは、各連帯債務者の負担部分に限られることになる。
  2. 他方、代位の根拠をその代位制度の目的論に置き、その目的を求償権への弁済をできるだけ多く確保することに設定すると、次のように説明することができよう:代位が認められるためには、(要件)ある者の弁済により他の者が債権者に対する弁済義務を免れこと、及び(α2)弁済者が他の者に対して求償権取得するという関係があれば足り、(効果)代位は、求償権をできるだけ多く確保するために、債権者がその他人に対して有していた債権全体について生じ、求償権の範囲内で弁済金を受領することができる。

第1の考えは、取得債権額限定説と結びつく。第2の考えは、受領金額限定説と結びつく。いずれも理論的に可能な説明であり、いずれを選択するかは結論の妥当性の評価に依存する。取得債権額限定説は、負担部分を有しない全部義務者(例えば保証人)の代位を対象とする範囲では妥当であっても、負担部分を有する全部義務者の代位(例えば連帯債務者)対象に含めると、妥当な結果をもたらさない。後者の場面では、代位権の行使を「自己の権利に基づいて求償をすることのできる範囲」に制約することには、次の2つの役割がある。一つは、第1は、過剰求償(自己の負担部分についてまで共同債務者から求償を得ること)の阻止であり、第2は、求償の循環の阻止である[CL11] [59]。これら2つ役割を果たさせるために、求償権の範囲内で原債権を取得する(取得債権額制限説)とすることが必要不可欠かと問えば、そうではない。代位取得した原債権を全額行使することができるが、受領することができるのは求償権の範囲内に限られる(受領金額制限説)とすることによっても、過剰求償も求償の循環も回避できることは自明であろう。したがって、受領金額限定説が妥当な結論をもたらす。これが採用されるべきである。

破産手続開始後に代位弁済をした第三者の求償権と原債権
全部義務者の1人について破産手続が開始された後に他の全部義務者が債務を弁済した場合(典型的には、主債務者の破産手続開始後に保証人が保証債務を履行し、それが主債務者のための弁済と評価される場合)については後述することにして、ここでは、破産債権を破産手続開始後に純然たる第三者が代位弁済をした場合について検討することにしよう。

)この代位弁済は、148条1項5号の事務管理にあたらず、その代位弁済による求償権は財団債権にあたらない。この代位弁済にによりこの求償権を財団債権とするほどの利益が破産財団に生ずる余地はないからである。

)この求償権が破産債権に当たるとすべきか否かについては、議論は分かれよう。[伊藤*破産・民再v2]377頁は、「原債権の存在という破産手続開始前の原因にもとづく破産債権」と位置づけた上で[64]、(α)これを自働債権とする相殺は許されるべきでないとして、72条1項1号を類推適用する。この説明は、(β)代位者が求償権の実現のために原債権を破産債権として行使することや、(γ)破産者が免責許可決定を受けた場合にその効力が求償権に及ぶことを説明するうえで優れている。

しかし、原債権の存在をもって求償権の原因と見ることには抵抗を感ずる。求償権の発生原因は、破産手続開始後の代位弁済にあるとみるべきであり、それを前提にして、後2者(βとγ)の説明を工夫する方が素直なように思える:(β')求償権が非破産債権であっても、その満足に必要な範囲で原債権を破産債権として行使することができる;(γ')破産者の意思に基づかない代位弁済によって破産者が不利益を受けることは許されないから、原債権に免責許可決定の効力が及ぶ場合には、求償権にもその効力は及ぶ(代位弁済が破産手続開始後の破産者の委託に基づきなされた場合には、別途考慮が必要である)。(α')相殺の不許は、自働債権たる求償権が破産債権でないことによる(67条1項参照)。

)この求償権を破産債権でないと位置づけると、破産債権に該当しない求償権を有する者は、原債権を破産債権として行使する(配当を得る)ことができるのかという問題が生ずる(無委託保証人についても、同様な問題が生ずる)。この問題については、次の2つ見解が可能であろう。
  1. 求償権者が原債権を破産債権として行使するためには、求償権が破産債権に該当することが必要であると考える見解(必要説)。
  2. 求償権者が原債権を破産債権として行使するためには、求償権が破産債権に該当することは必要なく、破産手続開始後に発生した求償権の満足を得るために、それに必要な範囲で、弁済により代位した原債権を破産債権として行使することができるとする見解(不要説)。

この問題については、必要説を前提にしてこの求償権は破産債権にあたるとする見解もあるが、この学習ノートは不要説に立つ。最高裁判例は、まだないようであるが、次の先例から類推すれば、不要説が採用されると見てよいであろう(少なくとも、最高裁が不要説を採用する可能性は、現時点では排除されない)。
間接強制金
民事執行法は、強制執行の方法の一つとして間接強制を認めており(民執法172条)、その金額は義務の不履行により生ずる損害額を超えることができるとされている(172条4項参照)。その点で、間接強制金は、債権者と債務者の間で合意される賠償額の予定(民法420条1項)と類似する(そのため、間接強制金は、裁判による損害賠償額の予定と説明されることもある[38])。この類似性は、破産手続との関係でも承認されてよいが、ただ、そもそも破産手続開始後に間接強制が許されるかが問題となり、その問題の答は、間接強制によって実現されるべき執行債権が何であるかに依存しよう[47]。

)執行債権が破産債権である場合には、破産手続開始前の不履行により生じた間接強制金は、普通破産債権になるが、強制執行は、執行債務者について破産手続が開始されることにより効力を失うので(42条2項)、開始後の不履行により間接強制金が生ずることもない。開始後の義務不履行により損害賠償請求権が生じうるが、これは劣後的破産債権(97条2号)になる。

)執行債権が取戻権であり、その権利の実現のために破産管財人が行為義務を負う場合には、間接強制が続行され、間接強制金請求権は財団債権になる(148条1項4号)。執行債権が人格権に基づく差止請求権である場合も同様である。

b')ただし、執行債権の実現のための行為義務を負うのが破産管財人ではなく破産者(個人)自身である場合には、間接強制は続行されるが、間接強制金支払義務の責任財産は、破産者の自由財産である。

例えば、破産者が夜間に騒音を出すことを差し止める請求権の間接強制は、(b')に該当する。動産の取戻権(引渡請求権)の強制執行について間接強制がなされる場合(民執法173条1項)に、その動産が破産管財人の現実の管理下にあるときは、(b)に該当し、間接強制金の責任財産は破産財団所属財産である。破産者自身が隠匿しているときには、(α)破産管財人が破産者から(必要であれば156条所定の手段を用いて)引き渡しを受けて、取戻権者に引き渡す義務を負い、間接強制金の責任財産は破産財団であるとするか、(β)破産管財人はその義務を負わず、間接強制金の責任財産は破産者の自由財産であるとすかが問題となるが、前者の選択肢では、破産財団に無用な負担が生じ、破産債権者が不利益を受ける。後者の選択肢をとるべきであり、(b')に該当する。不動産については破産者による隠匿は考えられないので、よほど特殊な場合でなければ、破産手続開始の時から破産管財人が不動産の占有を解いて取戻権者に引き渡す義務を負い続けると考えるべきであり、その強制執行として間接強制がなさされば(民執法173条1項)、その強制金の責任財産は破産財団であり、(b)に該当する。


3 破産債権の順位(98条−99条)


3.1 優先的破産債権と劣後的破産債権

破産債権は、配当を受ける順位の点から、次のように区分され、先順位の債権が満足を受けた後で、後順位の債権が満足を受ける(194条1項)。
  1. 優先的破産債権  99条1項所定の劣後的破産債権に該当するものないし該当する部分は除かれる。
  2. 一般の破産債権
  3. 劣後的破産債権
  4. 約定劣後破産債権

3.2 優先的破産債権

これに該当するのは、次のものである(98条)。
ここで、「一般の」という語は、「債務者の総財産を対象とする」ということを意味する。一般の先取特権等を別除権として扱って、破産手続外での権利行使(民執法181条1項4号・189条190条193条)を認めると、債務者の総財産を対象とする破産手続の追行を困難にする虞があるので、これらは別除権ではなく、優先的破産債権とされているのである。

一般の優先権が認められている債権であっても、破産手続開始後の利息又はこれに相当する延滞税、破産手続開始後の原因に基づいて生ずる債権、加算税・加算金は、財団債権に該当しなければ、劣後的破産債権になる(99条1項1号・97条1号・3号・4号・5号)。

日用品供給の先取特権
法人は、その規模・経営態様にかかわらず、民法306条4号・310条にいう日用品供給の先取特権の債務者に含まれない(最判昭和46.10.21民集25-7-969──個人経営の有限会社に対する水道代金債権の優先権が問題になった事件)。この先取特権の債務者は、多額の債務を負った者の生活の保護という法意に照らせば自然人に限られるべきであり、また、もし法人も含まれるとすればその範囲の限定が困難となるからである。

3.3 労働債権の保護


破産法上の保護
ILO173号条約(C173 Protection of Workers' Claims (Employer's Insolvency) Convention,1992)により、雇主の破産の場合における労働債権の保護が求められている[R77]。日本は、この条約をまだ批准していないが(2013年10月25日にILOのサイトで確認)、条約の趣旨にそう方向で改正を続けている。現在、次のような保護が与えられている[9]。
  1. 破産法149条により、雇主について破産手続が開始される前の3月間の使用人の給料は、財団債権となる。
  2. 破産手続終了前に退職した使用人の退職手当も、次の金額の範囲で財団債権として保護される。ただし、破産手続開始前に退職した者について、破産手続開始後の遅延損害金まで財団債権とするのは適当ではないので、「当該請求権の全額が破産債権であるとした場合に劣後的破産債権となるべき部分」は財団債権とはならない。
  3. 民法308条により、雇用関係に基づき生ずる使用人の債権全部に一般の先取特権の保護が及び、その順位が共益の費用に次ぐという高い順位が与えられている(民法329条)。
  4. 破産法101条により、優先的破産債権である給料債権又は退職手当債権について、裁判所の許可を得て、配当開始前に弁済することができる。

1から3は、173号条約5条から8条に対応するものであり、4はILO勧告(R180 Protection of Workers' Claims (Employer's Insolvency) Recommendation,1992)ACCELERATED PAYMENT PROCEDURES の第6条に対応するものである[R77]。

民法308条の保護を受ける債権
「雇用関係に基づいて生じた債権」が保護を受ける。雇用関係により雇用関係の存否は、契約の形式のみによらず、実質的な労務供給の実態をも総合し、使用従属関係に当るか否かを基準として判断される(名古屋高(金沢支)判昭和61年7月28日[19])[20]。次の債権は、これに含まれる。
社内預金や貸付金は、原則としてこれに含まれない(東京高判昭和62.10.27判時1256号100頁[81])。ただし、
なお、労働者の労働の成果が果実または製作物の形で債務者の財産中に存在する場合には、農業労働者は最後の1年分の給料債権について、工業労働者は最後の3月分の給料債権について、その果実または製作物の上に特別の先取特権を有する(民法323条324条)。

賃金立替払制度
未払賃金について、労働者健康福祉機構(旧:労働福祉事業団)が実施する賃金立替払制度がある[50]。これにより、破産手続開始申立ての6カ月前の日から2年間以内に退職した者の未払賃金のうちの8割が立替払される。ただし、退職時の年齢に応じて88万円〜296万円の範囲で上限が設けられている[R5]。立替払の対象となるのは、労働者が退職した日の6カ月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している次のものである[7]。
その他の救済策
 ()賃金の定期払  毎月の給料は定期に支払われるべきであり、定期に支払われている限り、会社の倒産時に未払賃金となる額は少ない。その点で、賃金定期払の原則は重要であり、これを裏付けるために賃金不払罪が規定されている(労基法120条・23条)。しかし、あまり多くのことを期待できないのが実情のようである([大山*2000a]96号322頁以下参照)。
 (a')最低賃金の支払をしなければ、最低賃金法4条1項違反となり、同法40条により50万円以下の罰金に処せられる。この容疑での書類送検の例は、時おり報道されている。例えば、従業員4人に最低賃金を支払わなかったとして最低賃金法違反の疑いで、プロバスケットボールチームの運営管理会社と、同社の男性社長が書類送検された旨の報道(2013年9月2日)がある<http://www.47news.jp/CN/201309/CN2013090201002204.html>。

 ()親会社等の責任追及  法人格否認の法理等により親会社等に対して賃金の支払を請求できる場合もあるが、これは、それらの法理の要件を満たす例外的な場合に有効な方策にとどまる([大山*2000a]96号321頁以下参照)。
Aは、B株式会社に勤めていたが、B会社についてまもなく破産手続が開始されるため、手続開始の1週間前に退職した。退職当時の毎月の給料は、25万円であった。AはB会社に対して30万円の未払給料債権と500万円の退職金債権とを有している。これらの債権は、破産手続上どのように扱われるか。

年次有給休暇を得る権利
労働者の年次有給休暇を得る権利(労基法39条)は、雇用関係が存続する限りは、金銭により満足を得ることができる権利ではなく、現実に休暇が与えられなければならない(有給休暇の買取禁止ないし買取予約禁止)。もっとも、法定日数を超える年次有給休暇を得る権利が雇用契約等により労働者に与えられている場合に、超過分を買い上げることは契約自由の原則の範囲内のことであり、また、未消化の年次有給休暇取得権を残したまま退職する場合に、残日数に応じて調整的に金銭の給付をすることも(あるいは、その旨の合意等を予めしておくことも)、労基法39条1項等における「有給休暇を与えなければならない」との規定に反するものではない。これを前提にして、使用者について破産手続が開始された場合に、次のことが認められるべきである。

3.4 劣後的破産債権(99条

これに該当するのは、次のものである(破産債権であるので、財団債権に該当しないことが前提になっていることに注意)。

)破産債権に附帯する請求権で、破産手続開始後の時期に係るもの(97条1号・2号・3号)
  1. 破産手続開始後の利息の請求権
  2. 破産手続開始後の不履行による損害賠償又は違約金の請求権
  3. 破産手続開始後の延滞税、利子税又は延滞金の請求権

)破産財団に関して破産手続開始後に原因のある租税等の請求権(国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権)(97条4号)  平成23年度破産財団に関して破産手続開始後の原因に基づいて生ずる租税等の請求権は、次の2つに区分され、破産債権となるのはbであり、aは含まれない。
  1. 破産財団の管理、換価及び配当に関する費用に当たるもの  148条1項2号により、財団債権となる。例えば、破産財団に属する財産についての固定資産税や、破産財団に属する財産を売却した場合に生ずる消費税。
  2. その他  99条1項1号・97条4号により劣後的破産債権となる。実際には、それほど多くないが、例えば次のものがこれに該当すると考えられている。

)公法上の制裁的請求権(97条5号・6号)  精確には、97条5号の加算税等の請求権、6号の罰金等の請求権である。これらは、主として、制裁を科された本人に苦痛を与えることを目的とするものであり、したがって非免責債権であり(租税につき253条1項1号、罰金等につき同項7号)、一般の破産債権者を圧迫してまで徴収する必要性は高くないので、一律に(つまり、破産手続開始後に原因があるか否かにかかわらず)、劣後的破産債権とされた。

)破産手続参加費用(97条7号)

)無利息債権・定期金債権の中間利息相当額(99条2号−4号)  利息付債権の破産手続開始後の利息が劣後的破産債権とされていることとのバランスをとるために、無利息債権については、本来の弁済期よりも前の時点で弁済を受けることによる利得を調整する必要がある。その利得の計算は、比較的単純な場合(2号の場合)については、法定利率を用いて計算され、一種の利息と観念されるので、中間利息と呼ばれる(「無利息債権についてなぜ中間利息を観念するのか」という質問を時折受けるが、破産手続開始時に弁済を受けると仮定した場合の、この時から本来の弁済期までの法定利率による利息を意味する(約定の利息ではなく、「仮想の利息」と言ってよく、端的に「中間利得」と言う方が分かりやすいかもしれない))。中間利息相当額が劣後的破産債権となる。
4号について補足しておこう。bの金額が負の場合には、劣後部分は、aの金額のみである。bの金額が正の場合には、aとbの合計額であるので、結局、劣後部分は、[各期の債権額の合計額(p)]−[法定利率によりその定期金に相当する利息を生ずべき元本額(q)]となり、普通破産債権になるのは、qの部分である。

特別法による順位の変更
特別法により、特定の破産債権の間で順位の変更が行われることがある。例えば、地下鉄サリン事件等において多数の者に惨禍をもたらしたオウム真理教に係る破産手続においては、被害者の救済のために、特別法(平成10年法律第45号)により、労働者災害補償保険法等により国が取得した損害賠償請求権等の一定範囲の債権は、「国以外の者が届け出た債権のうち生命又は身体を害されたことによる損害賠償請求権に後れる」ものとする措置がとられた[12]。

約定劣後破産債権(劣後ローン)
破産債権者と破産者との間において、破産手続開始前に、当該債務者について破産手続が開始されたとすれば当該破産手続におけるその配当の順位が劣後的破産債権に後れる旨の合意がされている債権を「約定劣後破産債権」と言う。このような合意も契約自由の範囲内にあり、当事者間の合意を尊重して、破産手続上もその効力が承認されている(99条2項)[8]。

約定劣後債権は、主として国際決済銀行(BIS)による自己資本規制との関係で導入されるものであり[13]、99条2項であげられている合意と異なる劣後合意が付されることはほとんどないと思われる。しかし、理論的には、それもありうることである。そのような債権劣後の合意についても、それが他の破産債権者の利益を害さなければ、破産手続上はその合意に応じた順位を認めるべきである。例:
その点からすれば、99条2項はそこに示された合意の効力を破産手続上も承認する規定であると同時に、劣後合意の解釈規定でもあると言うことができる。なお、あまりにも複雑な劣後合意で、破産配当になじまないようなものは、99条2項の劣後合意として扱うべきである[15]。

債権者間の公平の確保のための劣後化
明文の規定のない場合でも、債権者間の公平を確保するために、普通破産債権の一部の劣後化が必要となる場合がある。例えば、最高裁判所平成20年6月24日第3小法廷判決(平成19年(受)第1146号)は、≪反倫理的行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも許されない≫としている。しかし、加害者について破産手続が開始され、損害賠償請求権が破産債権として行使される局面では、債権者間の平等の視点から、損益相殺的な調整が必要となろう[24](裁判官田原睦夫の反対意見がこの問題を指摘している。破産手続外では損益相殺的調整を否定し、破産手続では肯定することは、同反対意見が指摘するように確かに、「実務処理上,非常に難しい問題を生じかねない」が、しかし、解決はなお可能であろう)。調整の方法としては、(α)利得相当額だけ破産債権額を減少させることも考えられるが(強い調整)、それでは最高裁判例の趣旨から離れすぎよう。(β)むしろ、利得相当額を劣後化するにとどめる方がよい(弱い調整)。また、この調整を、同種の反倫理的不法行為により損害を受けた債権者間でのみ行うべきなのか、それとも全ての破産債権者との関係で行うべきなのかが問題となるが、問題の簡明な解決のためには、全ての破産債権者との関係で利得相当額を劣後的破産債権とすることを原則とすべきである(公平の視点からの調整であるので、最終的な結論は事案に依存する)。

優先的破産債権の劣後的部分
優先的破産債権は、一般の先取特権等を認められた債権としての特質により、破産手続開始後の利息・損害金の部分をも普通破産債権に優先させることが考えられないわけではない。しかし、破産法は、普通破産債権者とのバランスを考慮して、99条1項の規定により劣後的破産債権となる部分については、優先権を認めないこととした(98条1項かっこ書)。例:
財団債権には前記のルールは適用されない。財団債権の破産手続開始後の利息・遅延損害金は、別段の規定がなければ、財団債権である。例:
劣後的破産債権間の順位
優先的破産債権の間の順位については98条2項、財団債権の間の順位については152条の規定があるが、劣後的破産債権については、特に規定はない。したがって、劣後的破産債権は、その債権額に応じて比例配分を受けることが原則となる(194条2項参照)。

優先的破産債権の劣後的部分と普通破産債権の劣後的部分との間では前者を優先させてもよさそうにも思えるが、特に規定がおかれていない以上、上記の原則に従い、平等であると解さざるをえない。

ただ、それでも、次の債権については、それが違反者に対する制裁であること、債権発生原因が破産手続開始の前後のいずれにあるかを問わず破産債権とされていること、及び免責許可決定の効力が及ばないことを考慮すると、配当の順位は他の劣後的破産債権に後れるとしてよいであろう。
法人の財産的基盤として拠出された財産の返還請求権は、法人の破産手続において、他の全ての破産債権に後れる(約定劣後破産債権にも後れる)。例:
優先特約付債権
劣後特約付債権の反対物として優先特約付債権も考えられないわけではないが、現行法上は、その特約は、特約債権者と債務者との間で債権的効力を有するにとどまり、破産手続において他の債権者に優先して弁済を受ける効力までは認められない(他の債権者の承諾ないし同意がある場合には、その特約とともにその同意が配当手続において考慮される余地はある)。他の破産債権者との関係でも優先権を主張することができるようにするためには、原則として、物的担保権の設定が必要である。

余談──トランシェ(シニア・メザニン・エクイティ)
一人の債務者に一人の債権者がある時に1回の融資をする場合には、通常は、その融資債権は1個であり、1個の債権内部で順位を付ける必要はない。他方、1人の債務者に複数の者が資金を出し合って多額の融資をするシンジケートローンにあっては、融資者の投資方針が異なることがある。
その場合に、各融資者が債務者と自分の投資方針にあった内容の融資契約を締結して、各融資者が債務者に対して直接に債権を得ることももちろん可能である。

しかし、債務者と投資家との間に一つの法人格(媒介法人)を置き、投資家から集めた資金を媒介法人が債務者に融資し、媒介法人が債務者から担保権の設定を受け、万一にも債務者が倒産した場合には、担保権を実行して回収した金銭と不足額に対する破産配当により得られた金銭とを投資家の間で予め定められた順位に従って分配する方が、各投資家の希望に柔軟に対応することができる。

例えば、ある者が100億円の融資を受けようとしていて、彼が提供できる担保の現在価値は100億円であるが、万一にも彼が倒産した場合に、担保権を実行して回収できる金額は90億円から70億円であると予想されるとしよう。この場合に、彼に対する100億円の債権のうち、70億円分は安全性が高い;20億円分は、担保権を実行して回収できるとは限らないが、回収できる可能性もある部分であり、その安全性は中程度である;最後の10億円部分は、債務者が倒産しない限り回収可能であるが、しかし、万一倒産すれば回収不能となる確率が高い部分である。媒介法人が債務者に対して取得する債権の実質的な内容がこのようなものであることを考慮して、媒介法人が回収した金銭をまず高い安全志向の債権者に支払い、残余があれば、中程度の安全志向の債権者に支払い、さらに残余があれば、低い安全志向の債権者に配当するとの条件を設定し、債務者から支払われる利息を安全性の低い債権者により多く支払い、安全性の高い債権者により少なく払うようにすると、各投資家の投資方針に合致した投資が可能になる[71]。

このように、安全(債務者が倒産した場合の回収金の弁済順位)とリターン(債権者に支払われる利息の率)等で差異を設けることにより一つの債権を切り分けた場合に、各々の切れ(部分)をトランシェ(フランス語)あるいはスライスと呼ぶ。各トランシェは、様々に名前を付けることができる。トランシェA、トランシェB、トランシェCでもよいが、しばしば、安全性の高いトランシェから順に、シニア、メザニン、エクイティと呼ばれる。シニア部分の債権者からみると、それは、「優先劣後構造」を利用した債権の安全性の向上である。

この手法は、1つの債権の内部的な順位付けと言うことができる。破産手続に直接登場する債権者は、1つの媒介法人であり、その破産債権は通常の順位の原則に従う。破産手続上は上記のトランシェを考慮しなくてもよい。本来ならば破産手続においてなされるべき配当を破産手続外で行うことになるのであるから、破産手続の単純化という視点からすれば、これは好ましい融資手法である。

上記の手法は、媒介法人が複数の債務者に融資して、融資債権を一つにプールする場合にも、使用することができる。この場合には、大きな経済変動がなければ複数の債務者が同時に倒産する確率は低いことを利用して、媒介法人の債務者に対する債権を無担保債権にすることも可能である。もちろん、こうした融資手法の安全性が過信され、信用が膨張しすぎると、その後に通常は信用収縮(バブルの崩壊)という大きな経済変動が生じ、多数の債務者が同時に支払不能に陥ることになり、安全なはずであった融資手法が少しも安全ではなかったことになる。アメリカ合衆国において2000年代に見られた住宅ローンの膨張とその崩壊(特に低所得者向けのサブプライムローンの崩壊──2008年9月にリーマン・ショックをもたらした)による金融危機・経済危機は、その代表例である[72]。


4 破産債権の行使(100条−103条)


4.1 原則

破産債権は、(α)その権利者が破産手続に参加して(債権を届け出て)、確定手続を経て、破産財団からその順位と債権額に応じた満足を受けることができる債権である。それとともに、(β)破産手続によらなければ行使することができないという制約を受ける。

権利行使の制約は、次のように説明される。

4.2 例 外

権利行使の制約については、次のような例外がある。

例外1  租税等の請求権(100条2項)
例外2  労働債権の許可弁済(101条
労働債権は、期間の限定なしに一般先取特権による保護を受け、優先的破産債権になるのが原則である。そこで、優先的破産債権である給料の請求権又は退職手当の請求権について届出をした破産債権者が、これらの破産債権の弁済を今受けなければその生活の維持を図るのに困難を生ずるおそれがあるときは、裁判所は、最初に配当をするまでの間、破産管財人の申立てにより又は職権で、その全部又は一部の弁済をすることを許可することができるとされた。この許可弁済が必要となるのは、給料債権のうち財団債権となるものの弁済を受けてもなお生活が困窮する場合である。この許可は、その弁済により財団債権又は他の先順位若しくは同順位の優先的破産債権を有する者の利益を害するおそれがないときに限り与えられる。

労働債権を有する破産債権者には申立権は与えられていない[14]。しかし、彼は破産管財人に、この申立てをすべきことを求めることができ、それを求められたときは、破産管財人は、直ちにその旨を裁判所に報告しなければならない。この場合において、その申立てをしないこととしたときは、遅滞なく、その事情を裁判所に報告しなければならない(101条2項)。

裁判所が職権ですることができるとされたことには、次の2つの意味を認めることができる:(α)労働者からの求めにもかかわらず、破産管財人が申立てをしない場合に対処するため;(β)労働者が101条の規定を知らない場合があり、労働者が破産管財人にその申立てを求めるのを待っていたのではその生活が破壊される虞があることに対応するため。

例外3  債権の種類を問わず、破産債権者は、破産手続外で次の態様で権利行使をすることができる。
なお、例外に含めるのが適当かどうかは微妙なところであるが、破産手続中に更に債務者について破産手続が開始された場合には、最初の破産手続の破産債権者は、第2の破産手続に参加することが認められていることにも注意してよい(108条2号後段参照)。

4.3 破産管財人による相殺(102条

破産債権者に対する債権が破産財団に所属する場合に、破産債権者からの相殺は、67条により、原則的に許容されている。しかし、破産管財人の側から相殺することは、それが破産手続によらない弁済と同等の効果を持つことから、原則として許されない。破産管財人は、破産債権者に対して、破産財団所属債権の弁済を求めるべきであり、もし破産債権者が相殺権を行使することなくそれに応じ、そして破産債権については比例配分的満足を甘受するのであれば、その方が破産財団にとって有利だからである。

しかし、破産管財人の側から相殺しても破産財団にとって不利でない場合には、それを許容すべきことになる。ただ、その要件規制を厳格あるいは明確にしすぎると、さまざまな場合に柔軟に対応することができなくなる。そこで、次の柔軟な要件の下で、破産管財人は、破産財団に属する債権をもって破産債権と相殺することが許容された(一般の民法等の規定により相殺が制限されている場合には、裁判所の許可があっても相殺できないことに変わりはない。民法509条以下、国税通則法122条参照):
例えば、
上記の裁判所の許可がない場合には、破産管財人が破産債権確定訴訟において相殺の抗弁を提出しても、その抗弁は許されない(旧法下の事件であるが、大阪高判昭和52年3月1日判例タイムズ357号257頁参照)。

なお、相手方が相殺することなく破産債権を届け出た場合に、その債権が確定して配当表に記載され、配当額の通知(201条7項)又は配当率の通知(211条)により配当金請求権になった段階では、管財人が破産財団所属債権をもって配当金請求権と相殺することは、配当金を支払うことと同等であり、これについては裁判所の許可は必要ないとしてよい。

4.4 破産債権者の手続参加(103条

破産債権者は、自己の破産債権をもって破産手続に参加することができる。すなわち、破産債権を届け出て、債権確定手続を経て、順位と債権額に応じた配当を得ることができる。

手続参加額
破産債権者が破産手続に参加して権利行使できる債権額として103条2項で規定されている額を手続参加額と言うことにしよう(手続参加額は、通常、「破産債権額」と呼ばれるが、103条2項の説明との関係で便宜上この言葉を導入しておく。同項の「債権額」の中に劣後的部分が含まれている場合(下記a1の場合)と、含まれていない場合(その他の場合)とがあることがポイントである。なお、以下の説明においては、優先部分がないことを前提にする)。

)「金額が確定している金銭債権」、つまり「103条2項1号に列挙されている債権以外の債権」については、手続参加額はその債権額である(103条2項2号)。債権額の中身は、債権の種類により異なる。
  1. 破産手続開始後に弁済期の到来する無利息債権の手続参加額は、劣後的破産債権額(99条1項2号)とこれを控除した普通破産債権額とに分けることができる。破産債権者が相殺に供することができるのは、普通破産債権額である(68条2項)。99条1項3号・4号の定期金債権についても、同様である。
  2. 破産手続開始前に弁済期の到来した無利息債権の手続参加額は、元本額と、手続開始までの遅延損害金が発生していればその損害金額との合計額である。このほかに、債権者は、破産手続開始後の遅延損害金を劣後的破産債権として行使できる。
  3. 破産手続開始前に発生した利息付破産債権の手続参加額は、元本額と破産手続開始までの利息・遅延損害金との合計額である。破産債権者は、このほかに、破産手続開始後の利息・遅延損害金を劣後的破産債権として行使できる。

)103条2項1号に列挙された、破産手続開始時に金額が確定していない債権については、評価額が手続参加額となる。債権者は、破産手続開始時における評価額を普通破産債権として行使できる。彼は、そのほかに、破産手続開始後の利息あるいは遅延損害金を劣後的破産債権として行使できると解すべきである。利率は、約定のあるもの(例えば、利息付き外国通貨債権)についてはその利率により、約定のないものは法定利率による。
  1. 金銭の支払を目的としない債権
  2. 金銭債権で、その額が不確定であるもの又はその額を外国の通貨をもって定めたもの
  3. 金額又は存続期間が不確定である定期金債権

4.5 条件付き破産債権(103条4項)

金額は無条件の債権と同様にして決定する(103条4項)。配当するか否かの決定基準は、次の表のようになる(198条2項)。
条件成就の時期 停止条件付き債権 解除条件付き債権
最後配当の除斥期間(*)の満了までに条件成就 配当 配当不可
その後に条件成就 配当不可。免責決定があれば、債務者に請求できない 配当。しかし、返還しなければならない(**)

(*) 除斥期間は、最後配当の公告等の日から2週間である。198条2項参照。
(**) この配当金は配当財団に属する財産であるので、原則として管財人に返還されて、追加配当の原資となるべきである。しかし、破産手続の終結から相当期間経過後は、破産者に返還されるべきことになろう。また、手続の終了を明確にする趣旨で、破産手続終結後に条件が成就した場合には、返還金請求権は破産財団に属さないと考えることも可能である。

4.6 破産債権者と破産債権行使者と配当受領者との分離

破産債権は、通常は、その帰属主体が行使する(債権を届け出て、確定手続で異議等が出されれば確定のための手続を追行し、また、債権者集会において議決権を行使する)。配当金も、彼が受領する。しかし、破産債権の帰属者と行使者と配当受領者とが異なる場合もある。

1破産債権が差し押えられている場合  例えば、債権者Aの債務者Bに対する金銭債権の全額をAの債権者X1とX2が同時に差し押さえ、X1又はX2のBに対する取立訴訟において供託を命ずる判決(民執法157条4項)が確定した後で、Bが破産手続開始決定を受けた場合には、X1又はX2がAのBに対する破産債権を行使することになる。

配当金は、供託の方法で支払われる。この場合に、どの規定により、どの供託所に供託すべきであろうか。
両者が異な場合の処理が問題となるが、債務者が破産手続開始決定を受けたことにより、破産配当の方法で弁済がなされる場合については、民執法156条2項所定の義務履行地は、破産法193条2項の配当金支払場所に変更されると解してよく、破産管財人は、自己の事務所の所在地の供託所に供託すれば、民執法156条2項の供託をしたことになると解すべきであろう。破産管財人は、その点も含めて、同条3項の届出をすべきである。

2第三者への金銭給付を求める請求権が破産債権である場合   当事者の一方Xが他方Yに対して第三者Zへの金銭給付を求める請求権を有するという法律関係は、さまざまな原因によって生じうるが、その請求権が契約によって生ずる場合には、その契約は第三者のためにする契約と呼ばれ、別段の合意がなければ、第三者が受益の意思表示をしたときに、第三者Zの債務者Yに対する権利が発生する(民法537条)。この場合に債権者Xの債務者Yに対する権利(第三者Zへの給付を求める権利)がどうなるかは、契約において自由に定めることができることであるが、ここでは、債権者Xの履行請求権は消滅しない場合を想定しよう。そして、債権者は、第三者との関係で、債務者の義務の強制履行の責任を負うとされることも十分にありうることであり、ここではそのような責任を負担しているものとしよう。

 この請求権の性質付けについては、金銭執行により実現されるべき請求権とするか、代替執行の方法により実現されるべき請求権とするかの問題がある。給付義務の内容を問うことなく実施することができる執行方法(その意味で一般的な執行方法)は、代替執行であるが、金銭給付が問題となる場合については、すなわち「第三者へ金銭を支払うことを求める権利」については、金銭執行により実現することができる請求権と性質付けてよいであろう(配当を受けることができるのは第三者である)。もし、代替執行の方法により実現されるべき請求権とすると、破産手続においては、「債権者に費用相当額の金銭を支払うことを求める請求権」に転化してしまい、本来の内容である「第三者へ金銭を支払うことを求める権利」から必要以上に離れてしまうからである。以下では、このことを前提にする。

 上記の場合に、債務者について破産手続が開始されたときは、第三者(受益者)ではなく債権者が破産債権者であり、彼が破産債権を届け出て、債権確定手続に関与し、債権者集会において議決権を行使するとすべきである。しかし、配当金は、第三者(受益者)に交付されるべきである。第三者が配当金を受け取りに来ない場合には、破産管財人は、配当金を供託することになる(破産法203条)。債権者と第三者との間で債務者が第三者の現在の住所地で給付することが予定されている場合(持参債務とされている場合)には、債権者と第三者との間で債権者の義務不履行の問題を生じさせることがあるかもしれないが、その問題は破産手続外の問題として債権者と第三者との間で解決を図るべきで あろう。例えば、債権者が第三者から配当金の受領について代理権を得て、債権者が配当金を第三者に持参することが考えられる。なお、第三者が受益の意思表示を破産管財人に対してし、第三者の権利が確定するとともに、権利の強制的実現の負担から債権者が解放されたと見ることができる場合には、第三者(受益者)と債権者とは共同して権利(ないし権利行使資格)の移転を届け出ることができ、その届出以降は、受益者を破産債権者として扱うことができるとしてよいであろう。

上記のように、破産債権の帰属者とその行使者と配当金受領者とが異なることがある。このような場合には、誰が何をすべきなのか、特に債権の届出、債権確定手続への関与、議決権の行使をするのは誰であるのかが明確にされなければならない。


5 まとめと発展的問題


5.1 破産債権の等質化

破産手続は、破産者の財産(破産財団所属財産)を換価して得られた金銭を破産債権者に公平に分配する手続である。そのために、内容の異なるさまざまな破産債権を金銭債権として等質なものにする必要がある。これを破産債権の等質化と言う。等質化の基準は、103条2項・3項および99条1項に示されている。破産債権の等質化のために、次の処理がなされる。
  1. 金銭化103条2項1号イ) 非金銭債権についておこなわれる。
  2. 現在化
    1. 期限の到来  弁済期未到来の期限付債権も破産手続開始の時に弁済期が到来したものとみなす(103条3項。民法137条1号も参照)。
    2. 数額の現在化  無利息債権等について、破産手続開始時に弁済されるとした場合に受けるべき金額(法定利率による中間利息相当額を控除した後の額)を算定し、これをその普通破産債権額とする(99条1項1号・97条1号-3号・99条1項2号-4号。なお、68条も参照)。
  3. 金額の確定(103条2項1号ロハ) 不確定金額債権、外国通貨金銭債権についておこなわれる。

破産債権の額
破産債権の額を整理すると、次の表のようになる。停止条件や解除条件の付されている債権については、そもそも配当を受けることができるか否かが問題となるが、債権額自体は無条件の破産債権と同様に定められる(103条4項)。
債権の種類 優先的破産債権額・
普通破産債権額
劣後的破産債権額
確定金額債権 下記以外のもの (a)元本額+破産手続開始の日の前日までの利息・遅延損害金 破産手続開始の日以後における利息・遅延損害金(99条1項1号・97条1号・2号・3号)
期限未到来の無利息債権 確定期限付き (b)元本額−中間利息相当額 中間利息相当額(99条1項2号)
確定期限なし (c)評価額 元本額−評価額(99条1項3号)
外国通貨金銭債権 評価額(103条2項1号ロ。上記a・b・cにより定まる債権額の日本円換算額(民法403条)) 上記により定まる額の日本円換算額
非金銭債権および
不確定金額債権
評価額(103条2項1号イ・ロ) (評価額を元本とする手続開始後の法定利息)
定期金債権(期限未到来の部分のみ) 金額または期限が不確定 評価額(103条2項1号ハ) (評価額を元本とする手続開始後の法定利息)
金額および期限の確定したもの 定期金の合計額−中間利息相当額
 または
定期金相当額の利息を生ずる元本額

のうちの小さい方の額
中間利息相当額
 または
定期金の合計額−元本額

99条1項4号)

(注) 「劣後的破産債権額」の中のイタリックの部分は、明文の規定はないが、そのように扱われるべきであることを意味する。
(注) 利息をどのように計算するかは、当事者の合意で定めることができる。貸付利息は、通常は、貸付日と返済日も含めて計算をする(これを「両端入れ」という)。例えば、銀行のATMで定期預金を担保に借り入れをすると、借入日に返済しても1日分の利息を徴収される。ある日の午後5時に借りて翌日の9時に返済しても、2日分の利息を徴収される。預金利息については、別途の合意がなされる(預けた日に引き出された場合に、1日分の利息を付与するわけにはいくまい)。破産手続において普通破産債権部分を算定する場合には、開始決定があった日の利息分は劣後的破産債権に含め、破産手続開始決定がなされた日の前日までの利息を普通破産債権に含める。


利息の約定のない金銭債権
破産法99条1項2号の適用を受ける無利息債権には、例えば次のようなものがある。
次のものは、破産手続開始の時点では利息付債権または遅延損害金(遅延利息)付債権となっているのが通常である。

5.2 発展的問題

ディープ・ディスカウント債
表面利率を低く抑えて割引率を大きくした債券は、「ディープ・ディスカウント債」と呼ばれる。例えば、2009年2月17日を申込期間とする「第43回日本高速道路保有・債務返済機構債券」は、期間30年、発行額1000億円、利率0.5%、発行価格58円30銭である)。償還金額は、100円につき100円であり、この債券を100億円購入した者は、58億円3000万円を払い込み、半年ごとに支払われる年0.5%の利息(年0.5億円)の外に、満期時に100億円を受領する。年0.5%というわずかな利率ではあるが、ともあれ無利息債権ではないので、99条1項2号の適用はない。そして、103条2項2号にいう債権額を弁済期に支払われるべき金額(100億円)及び年0.5%の割合による約定利息と考え、99条1項1項・97条1号の劣後的破産債権を破産手続開始後から弁済期までの年0.5%の割合による利息債権と理解するならば、債権が発行されてから1年後に発行者について破産手続が開始された場合に、債券購入者は、100億円の債権者として破産手続に参加することができることになる(破産手続開始前の利息は支払済みであるとして無視した)。しかし、これは明らかに不当であろう。別の解決が探られるべきである。次のような選択肢が考えられる。
  1. 法定利率に満たない利付債権について、法定利率と約定利率との差で計算した中間利息分を劣後的破産債権とする。
  2. ディスカウント特約は、時の経過に応じて順次発生すべき利息を弁済期まで積み重ねて、それを償還期に一括して支払う特約であると評価することができる(黙示的利息特約といってよい)。ディスカウント部分([償還されるべき金額]−[払込金額])を[払込みから償還までの年数]で除した値に[払込みから破産手続開始までの年数]を乗じた金額を破産手続開始前に発生した利息と評価し、それ以降の分を99条1項1号・97条1号の劣後的破産債権とする。

無利息債権の中間利息相当額を劣後的破産債権とする破産法の規律(99条1項2号)が必ずしも合理的でないこと(割引のために用いられる法定利率が経済状況に合わない場合があること、債権額が大きい場合に、1年に満たない端数の切捨てが無視し得ない金額の差をもたらすこと)などを考慮すると、bの選択肢がとられるべきであろう。これによれば、次の2つが劣後的破産債権となる。
ゼロクーポン債
ゼロクーポン債については、次の2つの考えが可能である。
  1. 無利息債権説  無利息債権の一種と見て、99条1項2号を適用する。
  2. 利付債権説  割引額([償還されるべき金額]−[払込額])は利息に相当し、利息を満期時に一括して受け取る利息付債権と見る考え。

両説の違いは、次のように現れる。例えば、市中の金利が年2%程度の時代に、2年後に100万円を受け取る割引債券を96万1538円(単利計算で年2%の利回り)で購入した場合に、債務者について1年後に破産手続が開始されたとしよう。
形式的に見れば、無利息債権説が採用されるべきことになるが、ゼロクーポン債の社会的機能からすれば、利付債権説の方が妥当であろう[39]。

相場価格のある停止条件付金銭債権
停止条件付債権者への配当について、限定承認等の場面では、条件成就の見込みも考慮して債権を評価し、その評価額を基準にして配当弁済をなすべきものとされている(評価主義。民法930条2項・947条3項・950条2項・957条2項)。他方、破産法は、最後配当の除斥期間満了までに条件が成就した場合にのみ配当を与えるものとし、非金銭債権及び103条2項1号ロ・ハ所定の金銭債権は評価額が破産債権額になり、その他の金銭債権は債権額が破産債権になる。破産法が採用するこの解決方法は、条件成就の見込みを考慮しなくてもよいので、破産債権額の算定が容易である点で簡便であり、立法論としても格別問題があるわけではないが、停止条件付金銭債権について市場の相場が形成されている場合には、評価主義を採用する余地があることは指摘しておいてよいであろう。

すなわち、金融取引の派生商品の一つであるCDSは、参照債務者等の倒産等を停止条件とする金銭給付債権と見ることができるが、その取引が比較的多数回なされていて、市場の相場が形成されている場合もある。その場合については、破産手続開始時での相場価格をもって破産債権額とすることも可能であろう。そうすることの利点は、次の点にある:
非金銭債権の評価
非金銭債権は、債権の内容に即して適切な方法で評価されるべきである。
概括的に言えば、破産債権者が有する非金銭債権を破産手続開始時に再調達するのに要する費用額が破産債権額になる。新たな契約が必要な場合に、契約締結に必要な費用(交渉費用や契約書作成費用)もこれに含めるべきかは迷うが、物の売主が義務を履行した後で買主について破産手続が開始され、代金債権が破産債権になる場合には、売主の代金債権の再調達のための契約は問題とならず、新契約締結のための費用を破産債権に含める余地もないことを考慮すると、つまり、金銭債権とのバランスを考慮すると、契約締結に必要な費用は破産債権額の評価に際して考慮すべきではなかろう。

若干特殊なものについて検討しよう。
対抗要件を具備していない地上権
地上権設定後に設定者が破産手続開始決定を受けた場合に、破産手続の関係において効力を有する対抗要件が具備されていなければ、破産管財人は、地上権者に対して、その地上権を否定して、地上建物の収去と土地の明渡しを請求することができる。この場合には、地上権設定契約に基づく土地の使用収益請求権が破産債権になると解すべきである。他方、建物の収去や土地の明渡による損害賠償請求権の取扱いには迷う。建物収去による損害の賠償請求権の処理の選択肢としては、次の3つ(A,B,C)が考えられる。
  1. 破産債権(地上権設定契約に基づく土地の使用収益請求権)について破産手続開始後に不履行があったものと考えて、97条2号・99条1号1号により劣後的破産債権とする。
  2. 破産管財人に対抗できない地上権を発生させた地上権設定契約は片務契約と見ることができることを前提にして、これらは双方未履行の双務契約とはいえないから53条・54条の適用はないが、しかし、54条1項を類推適用して破産債権とする。
  3. 対抗要件を具備していない地上権自体は第三者性を有する破産管財人に対抗できないとしても、地上権者は破産者との間では地上権設定契約に基づいて目的土地を占有する権限を有しており、破産管財人は契約関係については破産者の地位を受け継ぐと考えるべきであるから、破産管財人が地上権者に土地の明渡を求めるためには、53条1項により地上権設定契約の解除が必要であると考えることもできる。この考えを前提にして、建物収去・土地の明渡による損害は破産管財人による解除により生じた損害と考えて、54条1項により破産債権となる。
  4. なお、Cの前段に述べたことを前提にしつつ、破産管財人の解除により生じた損害として148条1項4号の財団債権とすることは、解除により消滅する権利が破産債権にすぎないから、無理であろう。

Aの選択肢が「債権者その他の利害関係人の利害・・を適切に調整」するとの理念(1条)に合致するのかは、疑問である。むしろ、この建物収去による損害の賠償請求権も普通破産債権とする方が公平に合するように思われる。それを可能にする法律構成として、BとCが考えられるが、Cが正当であろう。ただ、そうなると、土地の売主の破産の場合に、開始前に代金を全額支払って土地の引渡しを受けたが登記を経由していない買主が土地の上に建物を所有している場合についても同様にすべきことになろう。同様なことは、民法上片務契約に分類されている使用貸借契約に基づいて借主が地上に建物を所有しているときに、土地の貸主について破産手続が開始された場合にも生ずる。おそらく、これらの場合も含めて破産法53条・54条の適用を認めるべきものと思われるが、その前提として、破産法53条の双務契約における双務性(それぞれの当事者がどのような義務を負っている場合に双務性があるといえるか)について再検討が必要となろう。

地上権の問題に話を戻すと、政策的には、破産管財人と地上権者とが地上権設定登記についてあるいは土地の売却について交渉するように両者を誘導することが望ましい。前記の解決はその誘導の妨げになることはない。


6 共同債務関係にある債務者の破産(104条−107条)[CL5]


優先的債権の代位 事前求償権について

物上保証人の求償権・代位権

弁済者代位制度について

用語法
主債務者主債務  債権者に対して第一次的に給付をなすべき債務者/その者が負っている債務。通常は、保証人との対比で用いられるので、「主債務」は、「保証人によって保証された債務」と同じであり、「被保証債務」と言い換えることができる。

主債権者主債権  主債務者に対して債権を有する者/主債権者の主債務者に対する債権(主債務に対応する債権)(ドイツ法系の国々で用いられている表現である。単に「債権者」といっただけでは誰を指すのかわかりにくい場面で、指示される者を明確にするためにこの語が用いられる)。「主債権」の語は、主債務について保証がなされていることを前提にして用いられるので、「被保証債権」と言い換えることができる。これにならって「主債権者」は、「被保証債権者」と言い換えることができるが、冗漫であるので、「主債権者」のままにしよう。

全部義務者全部債務者)  一人の権利者が複数の者から1つの給付を受けることができ、どの義務者も全部の給付をなす義務を負っていて、ある義務者が全部の給付をすれば、他の義務者も給付義務を免れる関係にある場合に、各義務者を全部義務者という。「権利」を「債権」に、「義務」を「債務」に置き換えて、同様に「全部債務者」が定義される(全部債務の語は、不真正連帯債務の意味で使われる場合もあるが([内田*民法3v3]374頁)、破産法の世界では、真正連帯債務や保証債務(と主債務)を含む広い意味で使用される)。

共同義務者  全部義務者と同義で用いられる場合もあれば、「Aの共同義務者」のように、「Aと共に全部義務を負う者」(従って、「A以外の全部義務者」)の意味で用いられる場合もある。

全部義務履行請求権/全部義務請求権  債権者が各義務者に対して全部義務の履行を請求することができる権利/全部義務請求権は、その縮約表現である。全部義務請求権をさらに縮約して、「全部請求権」を用いることも考えられるが、この表現は誤解が生じやすいであろう。すなわち、「数人の者が一人の義務者から1つの給付(例えば全部で100万円の支払)を受けることができる場合に、その各自がその全部の給付を請求することできる権利」の意味で「連帯債権」が用いられており、「全部請求権」はこれと類似の性質の債権(複数の債権者の各々が有する一人の債務者に対する全部の給付を請求することができる権利)と誤解される虞れがある。この講義では、「全部請求権」の語は避けることにするが、論文等において、「全部請求権」(あるいは「全部債権」)の語を「全部義務履行請求権」の意味で用いることを明示した上で、この意味で用いることは許容範囲であろう。

原債権者/原債権  債権発生当時の債権者を「原債権者」といい、原債権者が有している又は有していた債権を「原債権」という。なお、債権が譲渡や代位により他者に移転した場合に、元の債権者を指して「原債権者」と言うこともある。両者は、通常、一致するが、債権が転々と移転するときには、2回目の移転以降の債権取得者から見た「原債権者」は異なる。債権の一部移転の場合には、移転した部分とまだ移転していない部分の双方を指して原債権ということもある。「原債権」の語は、求償権との対比で用いられることが多い。すなわち、ある債権の保証人が保証債務を履行すると、彼は、主債務者に対して求償権を取得するとともに、その確保のために、弁済者代位の規定により被保証債権を取得する。「原債権」の語は、この文脈において、「被保証債権」や「被代位債権」(「代位により弁済者に移転した債権」あるいは「代位された債権」)を指し、これらよりも簡潔な表現であるので、好んで用いられる。 債権者に代位する/債権を代位取得する  第三者(保証人等)が債務者に代わって債権者に弁済する場合に、第三者が弁済に係る債権を取得することを欲しない場合もあるが(この場合には当該債権は完全に消滅する)、通常は、債務者に対する求償権を確保するためにその債権を取得することを欲する(ローマ法に関する[クリンゲンベルク*2001a]109頁の説明が分かりやすい)。この場合の弁済は、債権を消滅させる意味での弁済ではなく、債権者が債務者から弁済を得たのと同じ結果が生ずるように第三者が債務者に代わって給付し、これにより弁済者が債務者に対して取得する求償権の確保のために原債権を弁済者に移転させることを前提にした弁済であり、「求償権の確保」という制約の下で原債権は存続することになる(経済的に見れば、弁済者が債権者にした給付は、債権移転の対価と位置づけることができる)。民法は、この形態の債権移転を認め、これを「弁済によって債権者に代位する」と表現している。その意味については様々な理解があるが[52]、端的に言えば、代位弁済によって債権を取得することである([我妻*債権総論]253頁)とするのが多数説である(「原債権者に代わって弁済者が債権者の地位につくこと」をもって「代位する」と表現しているのであり、弁済者からみれば、「債権を取得する」と表現することができる)。この形態の債権の移転を、債権譲渡(民法466条)や転付(民執法159条)と区別して、「代位による移転」あるいは「代位」という。代位による債権取得を「代位取得」という(代位取得とよばれるものには、他に、賠償者代位(民法422条)による取得・保険者代位(保険法24条・25条)による取得があるが、ここでは弁済者のみを扱う)。代位取得の特徴は、債権者は債権を全部取得(一部保弁済の場合には弁済額に応じて取得)し、取得した債権の全部を行使することができるが、これによる満足(弁済受領)が求償権の満足に必要な範囲に限定されることである(ただし、別の見解もある)。債権の代位取得(弁済による代位)は、共同債務者間でも生ずる(内部的負担割合が100%の共同債務者が弁済した場合には、他の共同債務者に対する求償権が生じないので、代位取得も生じない)。原債権者に代わって弁済者が債権者の地位につくことを「代位する」と表現しているのであり、弁済者からみれば、「債権を取得する」と表現することができ、「弁済により債権者に代位する」と「弁済により債権を代位取得する」とは、同じことの別表現である。ただ、前者よりも後者の方が用いやすいので、この学習ノートでは後者の表現を多用する。
(債権額100万円)        (破産)
 債権者A──全部義務請求権α──→主債務者Y
  |     (主債権)       ↑ 
  |                求償権γ
  |                 |
  └────全部義務請求権β───→保証人Z
       (保証債権)     (破産)

6.1 全部義務を負う債務者の破産の場合(104条

例えば、債権者(A)が、複数の債務者(YとZ)から全部で100万円を受領することができ、かつ、各債務者に対して、その全部(100万円)の支払を請求できるという債務関係を全部債務関係と言う。保証債務関係や連帯債務関係がそうである。

全部債務関係にある債務者の全員又は一部の者について破産手続が開始された場合の取扱いは、次のようになる[CL3]。なお、事例の単純化のために、委託を受けた保証の場合を主に取り上げることにするが、内部的負担割合の問題(特に、そのことに由来する求償権の問題(連帯債務者について民法442条参照))を除けば、以下の説明は、連帯債務者やその他の全部義務者にも妥当する。
開始時現存額主義の内容
  • 破産手続開始前の弁済額等は、破産者からの弁済額等はもちろんのこと、他の全部義務者からの弁済額等も考慮される(1項。当初債権額主義との相違点)  
  • 破産手続開始後の弁済額等(他の全部義務者からの弁済額等)は、考慮されない(2項)

(注)弁済額等:=弁済等による債務消滅額


α請求権の扱い(104条1項・2項)
債権者Aは、それぞれの破産手続にその開始時の債権額を基準にして債権を届け出て、配当を受けることができる。例えば、Yの破産手続開始前にZがXに保証債務の一部履行として10万円を支払っている場合に、破産手続開始時には、XのYに対する債権額は90万円になっており、債権額を90万円にしてYの破産手続に参加することができる(1項)。AがYの破産手続に90万円の債権額で参加した後で、Zが追加的に一部弁済(60万円)した場合でも、AがYの破産手続において行使することができる債権額は、手続開始時の債権額90万円のままである(2項)。これを「開始時現存額主義」[48]という(民法441条も、破産法104条と文言上の際はあるが、同趣旨の規定である[65])。

ただし、Aが受領する金額が、総計で、本来の債権額である100万円を超えることはできない。Yの破産手続における配当率が6割の場合には、開始時現存額の90万円を基準にすると、54万円の配当を受ける立場にあるが、
β請求権の扱い(104条1項・2項)
Zの破産手続が開始された後でYが一部弁済した場合にも、同様に、Aは、手続開始時の債権額を基準にして配当を受けることができる。ただし、この点については、主債務者Yが保証人Zに対して求償権を取得することはないことに鑑み、手続開始後の一部弁済額を控除した金額を基準にしてAに配当を与えるべきであるとする見解もあるが[70]、現行法の文言とは調和的ではない。

γ請求権の扱い
破産手続開始前に共同債務者Zが弁済をしたことにより破産者Yに対して取得した求償権は、Aが全部の満足を受けているか否かにかかわらず、Zが破産債権として行使することができる。このことは、この求償権がZの一般債権者の満足に充てられる責任財産になり、また、Zがその求償権を通常の順位の債権として(Yの破産手続においてXの債権と同順位の債権として)処分することができることを意味する。したがって、開始時現存額主義は、共同義務者一人について破産手続が開始される前に他の共同義務者が債権者に弁済をしたことにより取得した求償権との関係では、その求償権の財産的価値を尊重し、求償権の処分を可能にする制度であるということができる(当初債権額主義との相違点)。

破産手続開始後に共同債務者Zが債権者Aに弁済することによりZが破産者Yに対して取得する求償権(破産手続開始の時点においては、将来の事後求償権)あるいは代位により取得する原債権の行使については、債権者が破産手続に参加していない場合(3項本文)と、参加している場合(3項ただし書・4項)とに分けて規定が置かれている。

)債権者Aが参加していない場合(104条3項本文)  共同債務者Zが破産手続中に代位弁済をして現実に求償権を取得してからその届出をすることができるとしたのでは、その弁済が債権届出期間経過後になってしまったときに、彼の費用負担で特別の債権調査を行うことになり、彼の負担が重くなる。そこで、代位弁済前でも将来の事後求償権を届け出て、その全額について破産手続に参加することができることが明示された(3項本文)。

)債権者Aが参加している場合(104条3項ただし書)  債権者が全部義務請求権を届け出ている場合には、破産者の1つの給付義務(開始時の現存額における給付義務)に対して複数の者からの給付請求権の行使を認めるべきではないので、共同債務者は、将来の求償権について配当を得ることはできない。通常は、破産手続の参加を認める必要もないので、3項ただし書が、参加を認める本文の適用を排除する形で、その趣旨を規定した。

破産手続開始後に共同債務者が債権者に弁済をした場合には、これにより生ずる求償権と代位取得する原債権(民法500条)の取扱いが問題になる。

2a)破産手続開始後における共同義務者の弁済が債権者の全額の満足に至らないときは、債権者は、依然、手続開始時の債権全額を破産債権として行使することができる(2項)。他方で、一部弁済者は、一部弁済により取得する求償権について配当を得ることもできない[CL8]。また、彼は、債権者に代位することができない(104条4項、最高裁判所平成14年9月24日第3小法廷判決(最高裁判所平成12年(受)第1584号)[5])。なぜなら、(α)全部義務者の求償権は、債権者の債権に後れるべき性質のものであり、(β)彼は、全部義務者としての義務をまだ果たしていない段階では、債権者が全額の満足を得ることを妨げる結果になるような権利行使をすべきではないからである。このような結果に終ることを想定して(あるいは最後配当終了時から回顧して)、「共同債務者は、この場合には、一部弁済により取得した求償権を破産手続において行使することはできず、また、債権者に代位することもできない」と言う。設例:
  1. Xに対して各自100万円の全部義務を負うY(主債務者)・Z(保証人)の全員について同時期に破産手続が開始され、Zの破産財団から先にXに10万円が配当された場合に、本来ならばZはYに対して求償をなしうるが、その配当がYの破産手続開始後である限り、Zの破産管財人は、Yの破産手続における配当によりXが残債権額90万円を超える配当を受領しうる状況にならない限り、Yの破産手続においてその求償権を破産債権として行使することができず、またXに代位することもできない(104条4項)。
  2. Y(主債務者)とZ(保証人)がXに対して各自100万円の全部義務を負い、まずZについて破産手続が開始されて、Xに10万円の中間配当がなされ、その後にYについて破産手続が開始された場合に、Yの破産手続におけるXの破産債権額は90万円であり、Zの破産管財人は10万円の求償権を破産債権として行使することができ、Yの破産手続において2割配当がなされれば、Zの破産管財人がYの破産財団から受領する2万円は、Xを含めたZの債権者全体の平等な満足に充てられる。Yの破産手続開始後に、Zの破産手続において、Xにさらに10万円の配当がなされた場合には、これによる求償権と弁済者代位の処遇は、1の場合と同じである。

2b)破産手続開始後に破産者の共同債務者が債権者に弁済することにより、債権者が全額の満足を得たときは、共同債務者は、原債権者優先原則に制約されることなく求償権を行使することができる。のみならず、弁済者代位による原債権移転の効果が破産手続との関係でも生じ、債権者による債権届出の効果(届出期間内に届け出られている場合には一般の債権調査を受けることができること、その債権が確定している場合には確定の効果)を利用できるようにすることが便宜にかなうので、4項において、自己の求償権の範囲で原債権を行使することができる旨が明示されている。この場合に、原債権の行使は、届出名義の変更の届出(113条1項)により行うことができる。

2c)破産手続開始後に破産者の共同債務者が債権者に一部弁済をして破産者に対して求償権を有している場合に、破産財団からの配当により債権者が全額の満足を得たときにも、共同債務者は、原債権者優先原則に制約されることなく求償権を行使することもできる。設例:
  1. Xに対して各自100万円の全部義務を負うY・Zの全員について同時期に破産手続が開始され、債権者XがZの破産財団から配当(70万円)を得た後で、Yの破産財団から配当が債権額の7割に達する場合に、Xは債権額100万円を基準にしてその7割の配当金70万円を受けうることになるが、そのうちでXが受領することができるのは30万円にとどまり、残余の40万円については、Zが求償権の範囲で受領すべきである。(α)Zの負担部分がゼロの場合(例えばYが主債務者でZが保証人の場合)には、ZはYに対して70万円の求償権を有するので、その範囲内の40万円の配当を受ける。他方、(β)YとZが連帯債務者で、Zの負担割合が5割の場合には、最終的に彼は50万円を負担すべきであるので、弁済額の内でそれを超える20万円についてYに対して求償権を有する。Zは、この範囲内の配当金20万円を受領することができる。

全部義務の例


104条4項により原債権を行使する場合の求償権の届出の許否と要否
破産者の共同債務者が104条4項により原債権を行使する場合に、同項が「求償権の範囲内において」原債権を行使することができると規定しているので、時後求償権(以下「求償権」という)の行使について、次の2つの問題が生ずる。

許否の問題  求償権者は、原債権の外に求償権を破産債権として行使することができるか。この問題については、(A)「破産手続においては、権利行使機会の確保と手続の円滑・迅速な進行との調整から(二重の権利行使の否定と並んで)一つの債権の行使で一本化する必要が強く、手続開始の時点において行使債権が確定された以上は、基本的にその債権を破産債権として手続を進めるとの判断も可能」([沖野*2002a]30頁)であることを根拠に、求償権の行使を否定する見解がある(大正11年破産法26条に関し[沖野*2002a]30頁)、現行法に関し[勅使河原=杉本*2008a]371頁)。しかし、(B)保証委託契約において求償債権の利率を被保証債権の利率よりも高く定めることは許容されており、破産手続開始後の利息債権は劣後的破産債権になるが、劣後的破産債権に配当がなされる場合がないわけではないことを考慮すると、求償権額が被保証債権(原債権)額を上回る場合には、求償権の行使を認める必要がある。また、原債権が単に届け出られただけであり、まだ確定しておらず、債権届出期間が満了していないため求償権を届け出てもその調査に格別の負担が生じない場合には、求償権者は、求償権も破産債権として確定されることにより、求償権自体について時効期間の延長(民法174条の2第1項後段)の利益を得ることができる(原債権が確定しただけではこの利益は得られない。最高裁判所 平成7年3月23日 第1小法廷 判決(平成3年(オ)第1493号)参照)。これらのことを考慮すれば、債務者の破産手続開始後に代位弁済をした求償権者が原債権の外に求償権を行使することは、一般論としては肯定すべきである。もちろん、求償権者が原債権とともに求償権を行使する場合には、彼は、二重配当が生じないように、原債権と求償権の関係を明示して届け出るべきである[80]。

要否の問題  求償権者は、求償権の範囲内で原債権を行使するために、原債権の届出あるいは届出名義の変更とともに求償権も破産債権として届け出て、破産債権者間で確定させておくことが必要であるうか。これはあまり議論されていない論点である。次の2つの立場が考えられる。

  1. 求償権についても確定が必要であるとの立場(必要説)  破産者の共同債務者は、被代位債権を「求償権の範囲内においてのみ」行使することができるのであるから、求償権についても債権調査を経ておくべきであると考えれば、104条3項本文により届け出ることができ、同項ただし書は、原債権者が全額を受けるまで破産者の共同債務者は求償権について配当の受けることができないことを規定しているにすぎず、求償権の届出自体は妨げられず、債権調査も行うべきことになる。
  2. 求償権については確定が必要ないとの立場(不要説)  破産手続開始後の弁済により生ずる求償権は、開始時における原債権額によって限界付けられており、その原債権が債権調査を経て確定している以上、求償権についてまで調査・確定を経る必要はなく、求償権の存否・額等は破産管財人と共同債務者との間で解決すれば足りる。すなわち、民法501条柱書の本文の文言によれば求償権の存在・内容について求償権者が証明責任を負うことを考慮すれば、求償権者が確定済みの債権について届出名義の変更の届出(113条1項)をして、これへの配当金を受領するためには求償権の存在と内容を破産管財人に証明することが必要であり、証明があったと破産管財人が認めないときには、求償権者が破産管財人に対して提起する求償権確認訴訟により確定することが必要であり、それで足りる(債権調査を経て破産債権者間で確定する必要はない)。

条文の文言は、不要説に有利である。そして、実務は不要説に立っているように見える(最判平成7.3.23民集49-3-984は、≪破産手続において確定した原債権の時効期間が民法174条の2によって10年になる場合でも、これにより求償権の消滅時効まで10年になるのではなく、求償権が短期消滅時効により消滅すればその確保のために代位取得した原債権も消滅する≫との趣旨を説示している。これは、不要説を前提にして初めて生ずる問題である)。

迷いはあるが、破産法がこの問題について明確な規定を置いているとは言い難いこと、実務は不要説で運用されていることを考慮すると、不要説で良いであろう[57]。この立場に立っても、求償権について民法174条の2の適用の利益を得るために、原債権の代位取得者あるいは代位取得する予定の者が、現在の求償権又は将来の求償権を届け出て確定させることは許されるとすべきである。

(債権額100万円)
 債権者A───全部義務請求権α─→主債務者Y
  |
  |
  └────全部義務請求権β─→保証人Z
  1. Yが破産する。
  2. Aが100万円の債権をYの破産手続において届け出る。
  3. ZがAに一部弁済(20万円)をする。


Zは、AのYに対する債権20万円分を代位弁済により取得したが、これをYの破産手続において行使できるか。

104条5項
104条2項から4項の規定は、物上保証人に準用される[27]。すなわち、
主債務者の破産手続開始後に物上保証人が責任を果たしたが、債権者は未だ全額の弁済を得ていてな場合に、104条5項は、物上保証人の求償権を債権者の主債権に劣後させるものであるが、その根拠は、それほど強くない。すなわち、人的保証人が一部弁済をしたにとどまる場合の求償権については、債権全部についての弁済義務を果たしていないから、その求償権は主債権に後れると説明することができるが、物上保証人は、物上保証に供された財産の範囲でのみ責任を負っており、それが主債権の満足に充てられたことにより、責任をすべて果たしているからである。しかし、責任の集積により債権の効力を強化するとの目的に奉仕する点では、人的保証人などの全部義務者と異ならないとの理由で([小川*2004a]153頁)、物上保証人の求償権は、全部義務者の求償権と同列に置かれた。

一部保証の場合
責任の集積による債権の強化の議論は、1個の債権の一部保証の場合にも妥当しよう。まだ最高裁判例はないが、1個の債権の一部を保証した者が主債務者の破産手続開始後に債権者に対して保証債務の全部を履行した場合には、その求償権は、主債権者の手続開始時における主債権に後れると解すべきであろう。

小括
受託保証人が主債権者に弁済したことにより代位する被保証債権(原債権)と求償権との関係を整理しておこう。問題を明確にするために、求償権の利率は被保証債権の利率よりも高いものとする(例えば、前者は10%で後者は4%とする)。受託保証人が被保証債権の一部を弁済したにすぎない場合には、これらの2種の債権と主債権者が有する残存債権との間の弁済の優先関係が問題となる。問題となる場面は、これから弁済がなされる場合の原資が何であるかにしたがい、(α)被保証債権のために主債務者の財産上に設定されていた抵当権が実行される場合と、(β)主債務者が破産してその一般財産(破産財団)から弁済される場合、(γ)主債務者が未だ破産していない場合に、強制執行によりその一般財産から弁済される場合とに分けることができる。

表に整理しておこう。
弁済原資と手続 主債権者の残存債権と保証人が代位取得した債権との関係 主債権者の残存債権と事後求償権との関係 主債権者の残存債権と将来の事後求償権との関係
(α)担保執行の配当財団(担保財産) 主債権者の残存債権が優先する。 [求償権は被担保債権ではないので、問題にならない]
(β)破産財団 (β1)破産手続開始前に保証人が一部弁済 平等(破産法104条1項。開始時現存額主義) 平等(破産法104条1項。開始時現存額主義) [β2・β3参照]
(β2)破産手続開始後に保証人が一部弁済 主債権者が破産手続に参加する場合 主債権者の残存債権が優先する(104条2項) 主債権者の残存債権が優先する(104条2項)
主債権者が破産手続に参加しない場合

*1

事後求償権による破産手続参加が可能(104条3項の類推適用)(*2

将来の事後求償権による破産手続参加が可能(104条3項)
(β3)破産手続開始後に保証人が全額弁済 主債権者の残存債権はない。保証人は、破産手続に参加して、求償権を行使することも、求償権の範囲内で原債権を行使することもできる(104条4項)(*3
(γ)強制執行の配当財団(一般財産)

*4

*5

 

破産手続に関し、明文の規定のないのは、上の表の*1から*3の部分である。この部分の取扱いを検討しておこう。
*1 主債権者が破産手続に参加している場合(債権が届け出られている場合、特に、既に確定している場合)には、破産手続開始後の全額弁済によりその債権の帰属が変更されたことを届出ることにより、保証人(代位債権者)は、これまでの債権確定手続の進行の効果を享受することができる。しかし、被保証債権(原債権)の届出がない場合には、その効果の享受の余地はないので、被保証債権を破産債権として行使するよりも、求償権を破産債権として行使する方がよい(特に消滅時効の点でそうである)。
*2 破産手続開始後における一部弁済による求償権は、主債権者が破産手続に参加していない以上、破産債権として行使することができる。104条3項では、将来の求償権のみが挙げられているが、その趣旨は、破産手続開始後の弁済により発生している事後求償権にも当然に妥当する(ただし書所定の場合に該当しないから事後求償権をもって破産手続に参加することができる)。
*3 破産債権届出期間経過後に保証人が全額の弁済をした場合には、保証人は改めて求償権を破産債権として届け出るよりも、主債権者が届け出ていた原債権の移転の届出をするのにとどめる方が、負担が軽い(ただし、この場合でも、特別調査の費用を負担して求償権を破産債権として届け出ることは可能である。もちろん、求償権の範囲内で原債権を行使することができるにとどまり、求償債権額と原債権額の合計額が破産債権額になるわけではない。104条4項参照)。他方、主債権者が破産債権を届け出ていない場合には、原債権の届出も可能ではあるが、求償権を届け出る方がよいであろう(ただし、原債権が優先的破産債権である場合には、原債権を破産債権として行使する方がよい)。破産債権届出期間経過前の保証債務の履行の場合には、それが可能であり、期間経過前に保証債務を履行できない場合には、将来の求償権を債権届出期間内に破産債権として届け出ておくべきである(104条3項本文)。
*4*5については、略。

開始時現存額主義は、破産手続開始後に一部弁済をした他の共同債務者と債権者との利害の調整を図るための規定であるので、共同債務(あるいは共同責任)を負わない第三者が破産手続開始後に一部弁済をした場合には適用されず、原債権者の破産債権行使額は減少する。その代位弁済により原債権の一部が代位される(移転する)場合には、弁済者がその原債権の一部を破産債権として行使する(原債権が破産債権として届け出られている場合には、届出名義変更の届出(103条)で足りる)。

γ債権が生じない場合
破産した共同債務者が他の共同債務者に対して償還義務を負わない場合の処理は、簡単になる。例えば、債権者Aに対する主債務者Yの100万円の債務をZが保証している場合に、破産手続開始決定を受けたのがYではなくZであり、Zの破産手続開始前にYがAに20万円を弁済していたとしよう。Aは、Zの破産手続に開始時の債権額80万円で参加することができる。主債務者Yは、連帯保証人Zに対して求償権を有するわけではないので、AがZの破産手続に参加しない場合でも、Zの破産手続に参加することはできない。もっとも、主債務者と保証人との間に保証委託契約があり、保証人の破産がその契約の不履行と評価される場合は別である。

6.2 保証人の破産(105条

はじめの一歩
Sは、G銀行から1000万円を借り受け、毎月末に元本10万円の分割弁済と利息の支払を行う旨の消費貸借契約をA銀行と締結するにあたって、Tに保証人になってもらった。Sは、履行期に債務を確実に履行していたが、Sが元本を100万円弁済した段階でTについて破産手続が開始された。G銀行は、保証債権をもってTの破産手続に参加することができるであろうか。


hasanSaiken1_6.1.gif105条の規定の趣旨
保証人は、主債務者とともに全部義務を負い、その点では連帯債務者などと異ならない。しかし、(α)単純保証人の催告の抗弁権・検索の抗弁権及び(β)保証債務の附従性(民法448条)を考慮すると、「保証人について破産手続開始の決定があったときは、債権者は、破産手続開始の時において有する債権の全額について破産手続に参加することができる」(105条)と規定する必要がある(ただし、105条の規定の趣旨として、(α)の排除のみをあげ、従って同条は単純保証人にのみ適用があると文献も多い[32])。

単純保証人の催告の抗弁権・検索の抗弁権の消滅  単純保証人は、破産手続外での債権者の取立てに対して、催告の抗弁権、検索の抗弁権を有する(民法452条・453条)。しかし、単純保証人が破産した場合に、これらの抗弁権の行使を認めると、債権者の破産債権行使が遅滞し、不利益を受ける可能性がある。そして、単純保証人について破産手続が開始されたという異常事態を考慮すると、主債務者が履行遅滞に陥っていない場合ちちしでも、債権者は、これらの抗弁権の対抗を受けないとすべきである。105条の第一の意義は、このことを明確にする点にある。換言すれば、同条にいう「破産手続に参加する」は、「破産債権を届け出る」の意味である。

なお、主債務者について破産手続が開始された場合には、単純保証人について破産手続が開始されていなくても、単純保証人は、催告の抗弁権・検索の抗弁権を有しない(民法452条ただし書及び453条)。

保証債務の期限の到来  105条の規定の意義を次の場合について考えてみよう:主債務者(S)について資力の不安がなく、その債務の期限が未到来である状態で、保証人(T)について破産手続が開始され、この手続に債権者(G)が参加した。債権者(G)は、Tが無資力に陥ったことを理由に、Sに対して、資力を有する者を新たに保証人に立てることを要求することができる(民法450条2項)。Sは、それに応じなければ、期限の利益を失う(民法137条3号)のが通常である。しかし、常にそうなるとは限らない(民法450条3項参照。当事者は別段の合意をすることもできる)。また、代担保が提供されても保証人は免責されないままとなる場合もありうる。このように、保証人について破産手続が開始されても、主債務の期限が到来していない場合に、債権者は保証人の破産手続に参加できるのかが問題となる。民法448条の附従性の原則に従えば、債権者は主債務の弁済期が到来するまで、保証人の破産手続に参加できないのが本来であるが、破産法は参加を認めた。破産法150条により、履行期に関し民法448条の適用が排除されるのである([注解*1985a]117頁(加藤哲夫)、[注解*1998a]153頁(加藤哲夫))[29]。ただし、このことを103条3項により根拠付ける文献も有力である([伊藤*破産・民再v2]210頁)[40]。

主債権者が保証債権を届け出た場合の処理
債権者から債権届出があった場合には、保証人の破産管財人は、そのことを主債務者に通知し、破産手続開始前における主債務の弁済等について主債務者から通知を受けた場合には、それを債権確定手続の中で主張しておくべきである(民法462条・463条参照)。

保証人の破産財団から主債権者に配当がなされた場合に、主債務者に対する事後求償権が破産財団に属することになる。この求償権の換価については、難しい問題が生ずる[34]。

6.3 発展的考察

平成27年民法改正案502条1項・2項・3項
新設される第3項は、 次のように規定している:「前2項の場合に債権者が行使する権利は、その債権の担保の目的となっている財産の売却代金その他の当該権利の行使によって得られる金銭について、代位者が行使する権利に優先する。」。この規定の趣旨は、次の点にある:債権者に対して代位弁済義務を負う者が一部のみの代位弁済をし一部代位者になった場合に、彼は代位弁済義務の全部を果たしているわけではないことを考慮すると、彼よりも債権者を優先させるべきである。したがって、同項にいう代位者は、債権者に対して代位弁済義務を負う者又はこれに準ずる者であり、これに該当しない者が一部弁済をした場合については、同項の適用はないと考えるべきである。

規定の文言上、代位者が代位取得した権利に3項の適用があることは明らかである(そのことは、「その債権の担保の目的となっている財産の売却代金」によく現れている)。代位者が代位取得した債権自体を行使して債務者の一般財産から満足を得る場合に、一部弁済前に存在していた一個の債権について代位者と債権者は、502条1項・2項・3項により規律される特別の共同関係に立つ(連帯債権関係とは異なるが、これに比較的近い)。2項の規定により、債権者は、一部弁済のあった部分を含めて破産債権者として債権を行使することができ、このことは、一部代位者が破産手続に参加しない場合に特に重要である。

 ()1項では、一部代位者が原債権自体を行使する場合にも、原債権者の同意が必要であるかのように規定されている。しかし、疑問である。確かに、抵当権の実行については、原債権者の換価時期の選択権を尊重するために、原債権者の同意が必要であるが、原債権の行使については、原債権者の利益は3項の優先権規定により十分に保護されるのであるから、これについてまで原債権者の同意が必要とする。1項の同意は、原債権者の利益が3項の規定のみでは十分に保護されない場合に必要になるものと解したい。

 ともあれ、1項は、代位者の権利行使について「債権者とともにその権利を行使する」と定めているので、また、債権調査の手続と配当手続を簡明にするために、原債権者と一部代位者は、破産手続開始時の原債権額並びに一部代位弁済があったこと及びその金額を明らかにして、共同して届け出ることことを原則とすべきである。原債権者と一部代位者との間で一部代位の事実自体あるいはその金額について争いがあるため共同届出ができない場合には、一部代位者は、一部代位の原因事実を及び共同届出をすることができなかった事情を明らかにして、単独で届け出ることができると解すべきである。債権調査は、一部代位前の原債権自体について行うことになる。原債権が一部代位者に分属する割合ないし金額については、代位者と原債権者間で争えば足り、争いが配当時までに解決されないときには債権者を確知できないことを理由に供託をすれば足りよう。もっとも、一部代位者の主張にしたがっても、3項の規定により原債権者が配当金を全て受領すべき場合には、供託することなく原債権者に配当金を交付すべきである。

 ()一部代位者が破産手続に参加しない場合には、原債権者は、原債権の一部について代位弁済を受けていることを明示して原債権全部の届出をすることができる(2項)。原債権が優先的破産債権であるような場合には、原債権者が残債権全部の満足を得てなお余剰が生ずる場合もあろう。そのような場合には、一部代位者もできるだけ破産手続に参加しておく方がよいが参加していなかった場合に、余剰をどのように処理するかの問題が生ずる。予想される解決方法は、次の2つであろう:(α)連帯債権の場合と同様に、原債権者が原債権全体に対する配当金全額を受領して、余剰金を一部代位者に交付する(余剰金の分売は、原債権者・一部代位者間で解決すべき問題とする);(β)破産管財人は、原債権者の取分のみを原債権者に交付して、残余を一部代位者のために供託する。後者の選択肢を採るためには、一部代位の事実が破産管財人に知られていることが必要であるが、一部代位者からの届出がなければその事実が破産管財人に知られているとは限りないこと、その事実が破産管財人に知られているとしても、原債権者の取り分が予め確定されているわけではないことを考慮すると、(α)の選択肢をとるべきであろう。

 代位者が債務者の破産手続開始前の一部弁済により債務者(破産者)に対して求償権を取得していて、これを破産債権として行使する場合はどうであろうか。この場合も(a)の場合と同じ結果になるべきであるが、法律構成は、3項にいう「代位者が行使する権利」をどのようにとらえるかに依存しよう。

 ()民法502条3項にいう「代位者が行使する権利」は1項にいう「その権利」を指し、それは501条柱書にいう「債権(の効力)」を指し、したがって債権者が有していた債権を指し、502条3項にいう「代位者が行使する権利」には、501条2項にいう(代位者が求償のために有する)「自己の権利」を含まれないとの構成(原債権限定説)。この構成をとると、502条3項はこの場合を直接の適用対象とするものではなく、一部代位者は同条1項から3項にかかわらず、求償権に基づき原債権者と同順位で配当に与かることができるとの結論を得る余地が出てくる。

 ()しかし、それは今回の改正が予定する結論とは思われない。この構成をとっても、債権者は502条2項により一部代位弁済前の原債権を行使することができ、一部代位者が求償権を行使すると二重の権利行使になるので、いずれかの権利行使のみを認める必要があるが、502条3項の規定の趣旨により、債権者の原債権行使を優先されるべきであるから、債権者が原債権全体を行使する限りにおいて一部代位者は求償権を行使することはできないと解すべきであろう[82]。

改正過程においては、当初は、「保証人が取得する求償権は,債権者の有する原債権に劣後し,債権者が原債権の全額の弁済を受領するまで,保証人は求償権等を行使することができないことを条文上明確にするかどうかについて,更に検討してはどうか」との提案がなされていた(「民法(債権関係)部会資料 33−3」320頁)。この提案に対しては、意見照会の回答中で、賛成意見もあったが、「保証人が保証債務の一部を履行することにより,代位取得した担保権を単独で行使できないことについて異存はないが,求償権等を行使すること自体についてまで制限しなければならない理由はないので,反対する。(大阪弁)」等の反対意見ないし慎重な検討を求める意見も出され(同前322頁)、この提案は改正案に取り込まれなかった。そうした経緯からすれば、原債権限定説をとるべきであるが、しかし、保証債務の履行を完了していない保証人よりも主債権者の利益を優先させるべきであるとの規定の趣旨は尊重されるべきであり、求償権の行使を制約することが保証人に看過しがたいの不利益をもたらす場合は別として、そうでない限り、主債権者が原債権をもって破産手続に参加するときには、一部弁済をしたに留まる保証人が求償権を破産債権として行使することは制約されると考えとすることは解釈論として可能であろう(民法502条3項の類推適用。以下「原債権優先説」という)。平成27年民法改正が実現すると、上記の範囲では、破産法104条1項にいう「破産手続開始の時において有する債権」は、≪債権者と一部代位弁済者とに共同的に帰属する原債権全体≫(民法502条2項により債権者が単独で行使することができる「その債権」又は同条1項により原債権者と代位者とが共同して行使する「その債権」)になるため、破産法104条1項の改正なしに当初債権額主義が実現されることになると思われる。もっとも、他の場合にも原債権優先説を貫徹することができるかは、問題であり、それとのバランスにおいて破産手続参加の局面でも原債権優先説を採ることはできないとの見解も可能であろう。議論がいずれに収斂するかは予測しがたい。

他方、主債務者が一部弁済をした後で保証人について破産手続が開始された場合については、主債務者の一部弁済により保証債務は一部消滅し、かつ、主債務者が保証人に対して原債権を代位取得したり、求償権を取得することはあり得ないから、民法502条3項の存在を前提にしても、主債権者は保証人の破産手続へは開始時の現存額をもってのみ参加することができる。東証債権額主義は、この場合でも主債権者は保証の破産手続に当初債権額で参加することができるとするものである。この場合にも、主債権者が当初債権額でもって保証人の破産手続に参加することができるとするためには、破産法の改正が必要である。

したがって、民法502条3項により、当初債権額主義がある程度までは実現されることにはなるが、完全に実現されるわけではない。

求償権と代位弁済により取得した債権との関係
破産者の共同債務者(保証人等)の求償権と弁済者代位により彼が取得した債権(原債権、被代位債権)との関係についての議論は、錯雑としている。破産手続との関連で、両者の関係を確認しておこう(主として、受託保証人を念頭において説明する)。

消滅時効  求償権の根拠が破産手続開始前に生じた共同債務関係(保証委託関係、連帯債務関係など)にある場合には、破産手続開始後の全額の弁済により破産者に対して求償権を取得した者は、求償権を破産債権として行使でき、さらに、原債権を行使することもできる。代位弁済者に移転した原債権及びその担保権は、求償権の従たる権利にすぎず、求償権が時効等により消滅すると、原債権も当然に消滅する(最判昭和61年2月20日・民集40巻1号43頁)。

求償権者が裁判所になす原債権の届出名義の変更申出は、「求償権について、時効中断効の肯認の基礎とされる権利の行使」として、その時から破産手続終了までの間、求償権の消滅時効を中断する効力を有する。求償権の消滅時効は、破産手続の終了の時から進行するが、その期間は従前のままである。原債権者の届出債権が債権調査を経て確定し、民法174条の2により消滅時効期間が延長されても、求償権の存在まで確定されたわけではないから、その時効期間まで10年に延長されるわけではない(最判平成7.3.23民集49-3-984)。

上記のことを考慮すると、債権者に弁済をした保証人は、原債権と求償債権の双方を破産債権として届け出て、双方について破産債権としての確定を得ることができるとすべきである(届出の際に双方の債権の関係を明示すべきであることは、いうまでもない)。

原債権に認められた優先的権利[CL2]  原債権に優先権が認められている場合に、破産者のために弁済をした者の求償権にもその優先権を認めることは、一つの合理的な規律であり、これを肯定する立法例もある([CL2]参照)。その趣旨の明文の規定を有しない我が国においても、原債権が租税債権である場合に、代位弁済者からその趣旨の主張がなされた公表裁判例は1件あるが、裁判所は、求償権が優先権をもつことを否定した(神戸地判平成14年1月23日(平成13年(ワ)第62号))[63]。

我が国では、私債権を被担保債権とする抵当権について接木説(優先弁済効を享受する債権(被担保債権)が原債権から求償権に入れ替わるとする説)が否定されていることもあって、多くの裁判例及び文献では、議論はもっぱら「求償権者が代位取得した原債権について代位前に存在した優先権は、代位後も維持されるか」という形でなされている。下級審判例及び学説は分かれていたが、最高裁は、()雇用契約上の債権及び()注文者の請負人(倒産者)に対する前渡金返還請求権について、これを肯定した:

  1. 雇用契約上の債権は、優先性が認められており(98条、民法306条・308条)、また、149条1項により破産手続開始前3月分の給料債権が財団債権とされている。最高裁判所平成23年11月22日第3小法廷判決(平成22年(受)第78号)は、従業員の給料債権が財団債権となる場合に,破産者からの委託に基づき破産手続開始後に給料債権(原債権)を弁済することによりこれを代位取得した者は,求償権が破産債権である場合でも,求償権について満足を得るために,原債権を財団債権として行使することができるとした。同判決以前に、横浜地方裁判所 平成22年4月23日 川崎支部民事部 判決(平成21年(ワ)第458号)がある(賃金債権については、破産手続開始後に労働者健康福祉機構が法律の規定に従い立替払をすることがあるが、この場合に、機構は、求償権の満足に必要な範囲で原債権たる賃金債権を行使することができ、立替払された原債権が破産法149条により財団債権であるときは、機構も原債権を財団債権として行使することができるとしたものである)[58]。
  2. 請負工事の注文者が請負人に代金の一部を前払し、その返還請求権について保証人が保証をしたが、工事の途中で請負人について破産手続が開始され、破産管財人が請負契約を53条の規定により解除した場合に、前払された代金のうち工事出来高を超える部分の返還請求権は財団債権になると解されている(反対説もあるが、ここでは立ち入らない)。請負人について再生手続が開始された事例であるが、最高裁判所平成23年11月24日第1小法廷判決(平成22年(受)第1587号)は、求償権が再生計画によって変更されるとしても、これに影響されることなく、保証人は代位取得した原債権を共益債権として行使することができるとした。

その理由付けは、両判決ともほぼ同じである:(α)弁済による代位の制度は,代位弁済者が債務者に対して取得する求償権を確保するために,法の規定により弁済によって消滅すべきはずの原債権及びその担保権を代位弁済者に移転させ,代位弁済者がその求償権の範囲内で原債権及びその担保権を行使することを認める制度であり,原債権を求償権の確保のための一種の担保として機能させることをその趣旨とするものである;(β)したがって、弁済者代位により財団債権を取得した者は,同人が破産者に対して取得した求償権が破産債権にすぎない場合であっても,破産手続によらないで財団債権を行使することができる(再生手続との関係では、再生法177条2項の参照が指示される);(γ)このように解しても,他の破産債権者は,もともと原債権者による上記財団債権の行使を甘受せざるを得ない立場にあったのであるから,不当に不利益を被るということはできない(24日判決金築補足意見は、反対に解すれば、他の債権者が「棚ぼた的に利益を得ることになる」と指摘する)。

原債権の非免責性  253条1項ただし書各号の非免責債権について債権譲渡あるいは弁済者代位により債権が移転した場合については、まだ判例はないようであるが、非免責債権の取得者も非免責性を主張できるとすべきである([杉本*2007a]228頁)。

租税債権の代位取得及び優先権の承継の可能性
租税債権は、公法上の債権であるので、特別の考慮が必要となる。まず、(α)租税債権を代位弁済した保証人が納税者から求償を得るために原債権たる租税債権を取得して行使することができるかが問題になり、(β)できるとして、原債権の優先的特質が維持されるかが問題となる。いずれの問題についても、未だ最高裁判例はない。見解は分かれている([杉本*2007a]及び[長谷部*2011a]がアメリカ法の紹介も含めて詳しい)。

(α)の問題を否定する見解も有力である(前掲22日判決田原補足意見は否定説であり、その趣旨の下級審先例もある[60])。肯定説を前提にした場合に、(β)の問題はどうなるか。本来は優先性の承継が認められてしかるべきであるが([杉本*2007a]221頁)、原債権の代位取得を否定しない下級審先例も、その優先性の承継は否定している[61]。優先権によって保護されるだけの公共性を有しないことが主たる理由となっている。学説上も、優先性の承継を否定する見解が有力である([長谷部*2011a]は、代位した原債権を財団債権として行使することを否定し(252頁以下)、優先的破産債権として行使できるかについて結論を留保する(254頁))。

しかし、(α)(β)の双方とも肯定すべきである([上原*2006a])。なぜなら、代位弁済により租税徴収に大きく貢献しているのであるから、その限度では租税債務の保証人には優先性(財団債権性と優先的破産債権性の双方)の保護を受けるだけの公共性があると言うべきである)[35]。また、前記最高裁判決の理由付けは、基本的にこの場合にも妥当する。特に(γ)の理由付け(「棚からぼた餅」論)を考慮すると、租税債権を代位弁済した者が優先的に求償を得ることができないとすることは、政策論として妥当でない([栗田*2012b]170頁以下参照)。

現行法の下で優先権否定説を前提にした場合の現実的な解決は、次のようになろう:保証人は、納税者から委託を受けて保証人になる際に、自己の求償権又は弁済者代位により取得する租税債権について優先権を主張できないことを前提にして、保証料を約定する[33]。

104条3項・4項
104条3項の規定については、種々の問題がある。受託保証人の事後求償権を例にとって、(α)同項本文の趣旨と(β)同項の求償権が停止条件付請求権等の配当に関する規律(198条2項・214条1項4号)に服するかに関する見解の状況を見てみよう。
  1. 104条3同項本文は、破産手続終了後に代位弁済をして事後求償権を取得する者が破産財団からまったく配当を得ることができないという不利益を受けることを回避するための規定であると説く見解がある([加藤*1952a]82頁)。この見解に従えば、同項の求償権は、停止条件付請求権等の配当に関する規律(198条2項・214条1項4号の適用)に服ないことになろう(そうしなければ、前記の目的が達せられない)。
  2. 104条3項は、受託保証人に事前求償権を認めている民法460条1号の規定の趣旨を他の全部義務者にも拡張する規定であると説明するが、配当についてこの求償権が停止条件付請求権等に係る規律に服することを明示しない見解がある(例えば、[山木戸*1974a]92頁、[加藤*破産v5]282頁、[中島*2007a]152頁[42])。これによれば、同項の求償権は、将来請求権の配当に関する規律(198条2項・214条1項4号の適用)に服するか否かは明瞭ではないが、事前求償権と同様に服さないとする趣旨であると理解する余地が生ずることは否めない。
  3. Bと同趣旨を説きつつも、その配当は将来債権の配当規律に服することを明示する見解がある([伊藤*破産・民再v2]210頁本文及び注93)。この見解にあっては、「民法460条1号の規定の趣旨を拡張する」というのは、「破産法104条3項の求償権は現在の債権である」いうことを意味せず、「最後配当の除斥期間内に弁済を行うことにより事後求償権を取得する者の求償権行使を容易にする」ということを意味することにとどまる。
  4. Bと同趣旨(「委託を受けた保証人の事前求償権(民460条1号)を破産手続上は他の全部義務者に拡大し」たのが104条3項本文(旧26条1項本文)であること)を説き、かつ(α)その実質的根拠として、事後求償権を行使することができるだけでは「破産手続が進行してしまった場合(ことに免責決定がなされた場合)には、求償権者が満足を得ることは困難となる」ことを述べつつも、(β)破産法104条3項の求償権は停止条件付請求権等の配当に関する規律に服することを明示する見解がある([注釈*1997c]59頁(上田徹一郎)、[注解*1998a]155頁以下(加藤哲夫))。しかし、(α)と(β)とは整合的でない。
  5. 受託保証人が代位弁済をする前において、民法460条1号の事前求償権は現在の請求権であるのに対し、事後求償権は将来の請求権(法定の停止条件が付された債権)にとどまるが([森田*2005a]141頁参照)、停止条件付債権や将来の請求権を有する者も、その権利の効力が生ずる前でも破産債権者として破産手続に参加できることは、一般的に認められている(破産法103条4項)。そのことを前提にすれば、将来の求償権者が同様に破産手続に参加することができるのは当然のことである。本項本文は、それを確認したにとどまり、規定の実際上の意義は、むしろただし書にあると見るべきであると説く見解がある。

γ)ただし書により破産手続参加が許されないことの意味については、次のような見解がある。
  1. 破産手続参加は、破産債権を届け出て、債権調査を受け、異議等があればその確定のための手続を追行し、配当金を受領するとともに、債権者集会において議決権を行使することができることを意味するが、主債権者が破産手続に参加した場合に、保証人は債権届出そのものが認められなくなると説く見解がある。また、主債権者が届け出ている場合には、そのこと自体が将来の求償権に対する異議事由になるとする見解もある([加藤*破産v5]283頁)。
  2. 他方で、破産手続中に保証人が保証債務を履行する場合のことを考慮すると、求償権がどのような求償権か(民法459条・462条1項・2項のいずれの適用を受けるのか)を債権調査において確定しておく必要があり、主債権者から届出がなされている主債権に係る求償権として引き続き債権調査を受けるべきである(保証人が主債務の全額を代位弁済した場合には、主債権を代位行使できるが、この場合でも「求償権の範囲内において」行使できるのであるから、その求償権の範囲を破産手続において確定するのが本来である)とする見解もある。

δ)破産手続において、受託保証人の事前求償権の行使が許されるかも問題になっている。民法460条1号は、主債務者が破産手続開始決定を受けたことを事前求償権の発生原因としているのであるから、その行使が許されることも前提にしていると解すべきであろう。しかし、[杉本*2004a]119号116頁は、否定説をとる(破産法104条「3項本文によって弁済前の事後求償権を将来の請求権として権利行使する余地を認める以上、事前求償権行使は破産手続において一切封じられていると解釈すべきである」と説く)。

ε)全部義務債権者が破産手続に参加した後で、破産者の共同義務者が全部の弁済をした場合に、彼は代位取得した原債権を行使できるが、その外に、事後求償権も行使できるかが問題となっている。法文は、この求償権の行使を否定していない。しかし、[杉本*2004a]119号115頁は、否定説をとり、次のように説く:「権利行使機会の確保と手続の円滑・迅速な進行との調整の観点から、破産手続において一つの債権行使で一本化するため」、「事後求償権それ自体を別途行使することは封じられる」(ただし、将来他の全部義務者がする一部弁済と合計すると全部義務債権者が全部弁済を受けたことになる場合に備えて、一部弁済をした者が事後求償権を予備的に届け出ることは肯定する(127頁注16)。なお、[森田*2005a]141頁以下も参照)。

次のように考えたい。
議論の前提の確認――求償権額と被代位債権額との関係  1000万円の主債務を保証した受託保証人に対して主債権者が保証債務履行請求の訴えを提起した場合に、主債務者はすでに300万円を弁済済みであったが、このことを保証人に通知していなかったために、また、保証人が主債務者に対して訴訟告知をしたにもかかわらず補助参加がなされなかったために、保証人に対して1000万円の支払を命ずる判決が確定し、その後に主債務者に対して破産手続が開始されたとしよう。主債権者が破産手続おいて行使できる債権額は、保証人に対する判決にかかわらず700万円である。破産手続開始の翌日に保証人が強制執行を回避するために主債権者に1000万円支払ったものとしよう(その支払の際にも、主債務者に事前に通知したものとする)。この場合には、保証人の求償権は、1000万円である。このように、主債権者の破産債権(104条4項により保証人が行使する債権)の額よりも、破産手続において行使できる求償権の額の方が大きい場合があることは、認められるべきである。他方において、連帯債務者の場合に典型的に見られるように、代位する原債権の額よりも求償権の額の方が小さい場合もある。そして、両者の額が基本的に同じである場合もある。

保証人が破産手続開始後に保証債務を履行した場合には、彼が取得する求償権の金額と代位取得する原債権の金額とは、基本的に同じである。保証債務履行後の時期に係る求償権の利率と原債権の利率との差異は、重要ではなかろう。この時期についての利息債権は、劣後的破産債権になるからである。また、原債権について破産手続開始後に生ずる利息も保証人は弁済しなければならないが、この利息部分に係る求償権は、劣後的破産債権に含めるべきであろう。そうしなければ、破産手続開始から後の時点で保証債務が履行されると、それだけ普通破産債権として扱われる求償権額が増加するという不都合が生ずるからである(この不都合だけで十分な法的説明になりうるかの点はさておき、結論はこれでよいであろう)。したがって、104条3項本文にいう「将来の求償権」のうち普通破産債権になるのは、破産手続開始の直後に保証債務が履行されたとした場合の求償権額である。全部義務者一般に拡張して言えば、そこにいう「将来の求償権」のうち普通破産債権になるのは、「破産手続開始の直後に弁済がなされたとした場合の求償権額である。

受領金額制限説を前提にすると、破産者と負担割合が平等な共同債務者が破産手続開始後に債権者に弁済したような場合には、通常、「求償権額 < 代位債権額」であり、代位弁済により取得した原債権を行使する方が有利である(取得債権額制限説を前提にすると、この場合には「求償権額 = 代位債権額」となる)。

他方、「求償権額 > 代位債権額」の場合には、求償権者には、次のことが認められなければならない。
  1. 求償権の範囲内で原債権を破産債権として行使すること
  2. 求償権を破産債権として行使すること(原債権が破産債権として行使される場合には、その行使主体が原債権者であるか求償権者であるかにかかわらず、原債権を超える範囲で求償権を行使すること)

aは、104条4項で認められている。破産法104条3項は、将来の求償権について破産手続参加を認める規定であるが、破産手続中に弁済をした場合には、求償権全額を現在の債権として破産手続において行使することを許容されるべきである。3項は、その趣旨を含んでいると理解すべきであろう。aとbとが重なり合う部分について、二重に行使することは許されないことはいうまでもない。前記の設例では、保証人は求償権のみを行使する方が、手続が単純になってよいであろう。

(b)104条3項ただし書  主債権者が破産債権を届け出ている場合でも、その後に保証人が判決に従い保証債務を履行する可能性を考慮すると、保証人は104条3項本文に従い将来の求償権を破産債権として届け出て、債権調査を受けることができるとしておくべきである。そのためには、3項ただし書にいう「この限りでない」即ち「破産手続に参加することができない」は、「破産債権を届け出て債権調査を受けることはできるが、議決権を行使すること及び配当を受けることができない」を意味すると解すべきである。

104条3項の適用範囲  104条3項は一般に無委託保証人の求償権にも適用されると解されている(例えば、[加藤*破産v5]282頁)。しかし、104条3項は、将来の求償権が破産債権であることを当然の前提とした規定と見るべきであろう。そして、破産法104条3項は、将来の求償権をすべて破産債権とみなすという趣旨の規定と理解するのも適当とは思われない。将来の求償権が破産債権に該当するか否かは破産債権の通常の要件を満たしているか否かにしたがって判断されるべきである。無委託保証人の破産手続開始後の弁済による求償権は、後述のように、破産債権ではない。しかし、それでも、彼は破産手続開始後の弁済により主債権を代位により取得し、求償権の範囲内で行使することができるのであるから(104条4項)、将来取得することのある主債権の全額について破産手続に参加することができるとすべきであろう。それは、「104条3項は、無委託保証人が将来取得することの主債権(被保証債権)にも類推適用される」と説明されるべきものである[21]。

104条4項  「求償権額 ≦ 代位債権額」の場合には、求償権の範囲内で、代位債権を行使することができる。「求償権の範囲内で行使する」の意味については、次の2つが考えられるが、受領金額制限説が妥当である。
  1. 受領金額制限説  弁済により代位した者は、弁済額に応じて原債権を取得し、代位取得した原債権額を基準にした配当を受領することができるが、受領することができる金額は、求償権額の範囲に限られる。
  2. 取得債権額制限説  弁済により代位した者は、求償権の範囲内で原債権を代位取得するにすぎず、その金額を基準にして配当を受けるにすぎない。

受託保証人の事前求償権
主債務者について破産手続が開始されると、受託保証人は、事前求償権を破産債権として行使することができる(民法460条1号)。この事前求償権[30]は、法文上現在の求償権と構成されていて、またそのようなものと理解されている。ただし、主債権者が破産手続に参加する場合には、主債務者の一つの給付義務について2人の者から二重の権利行使がなされることになるので、主債権者の権利行使が優先され、受託保証人は配当に与かることができない。この事前求償権の法的性質については争いがあるが、沿革的には、主債務者が主債務を履行しないことにより保証人が損害を受けるおそれがある場合に、その損害を避けるために認められた権利(損害回避・免責請求権、解放請求権)であるとみるのが正当であろう([國井*1988a]、[西村*1993a])。ただ、そのような目的のために認められた権利ではあるが、日本法は、求償金を保証人に支払うことを求める権利と構成した[36]。その上で、保証人が代位弁済を行わない場合に主債務者が損害を受けることがないように、主債務者に多様の対抗手段を与えている(民法461条)。保証人は、この求償権により無条件で即時に求償金を得ることができるわけではない。

問題は、主債務者の破産管財人は、その対抗手段をどのように行使すべきかである[31]。重要なことは、保証人が受領した事前求償金を主債権者に支払わずに費消することを回避することであり、主債務者が二重払を強いられることを阻止することである。破産管財人は、民法461条により与えられた対抗手段を任意に選択して行使できるのではなく、この目標の達成に最も適切な方法を選択しなければならない、と解すべきである。それは、通常、受託保証人の事前求償権への配当金を主債務の弁済に当てて、保証人を免責すること(民法461条2項)であろう。具体的には次のようになる:破産管財人は、主債権者を配当金受領資格者と見てこの者に配当の通知をすれば461条2項の免責行為をしたことになり、主債権者が配当を受け取らない場合には破産法202条3号の供託をすれば足りるものと解すべきである(義務履行地は破産管財人の事務所であり、その地を管轄する供託所に供託する)。[43][45]

主債務者の破産手続中に受託保証人が一部弁済をした場合
主債権者が主債務者の破産手続に参加している場合の取扱いは、104条で明示的に規定されている。では、主債権者が参加していない場合に、受託保証人が債権者に一部弁済をしたときはどうなるか。
主債務者の破産手続開始後に保証債務を履行した無委託保証人の求償権
無委託保証人の求償権は事務管理者の費用償還請求権の性質を有するとの通説的見解を前提にすれば、何が主債務者のために行われた事務であるかが問題になる。次のような見解が考えられる。
  1. 主債権者と保証契約を締結すること自体が事務管理に該当すると見る見解。
    大阪地方裁判所平成20年10月31日第3民事部判決(平成19年(ワ)第6131号)及びその控訴審である大阪高等裁判所平成21年5月27日第7民事部判決(平成20年(ネ)第2971号)は、この立場である。 上告審の最高裁判所 平成24年5月28日 第2小法廷 判決(平成21年(受)第1567号)は、この点に立ち入ることなく、無委託保証人の求償権を破産手続開始前に締結された保証契約に基づくものとして破産債権になるとしたが、千葉補足意見は、「保証契約締結の時点で主債務者のための事務管理がされたといわざるを得ない」と述べている。
  2. 事務管理と評価されるのは、通常は、保証債務の履行行為(主債務者のための代位弁済)であり、求償権の原因は、その行為の中にあると考えるべきである。 保証契約の締結自体が事務管理になるのは、そのような法的評価を根拠付ける特段の事情がある場合に限られる。

後者の見解が正当であろう。たしかに、主債権者と保証契約を締結すること自体が事務管理に該当すると見ることのできる場合もありうるが、しかし、それはそのように見るのが適当な場合に限られるべきである(例えば、主債務者が保証人を立てる義務を負っており、保証人を立てなければ期限の利益を喪失する場合に、ある者が主債務者からの委託なし主債務者のために債権者と保証契約を締結し、その結果主債務者が期限の利益を免れたときは、保証契約の締結自体が主債務者のための事務管理になると評価してよい)。一般的には、主債務者から委託を受けていない保証契約の締結は、主債権者のためになされるのであって、主債務者のための事務管理には当たらないと評価すべきである([栗田*2010c]67頁以下参照)。したがって、通常は、無委託保証人が主債務者の破産手続開始前に保証債務を履行した場合の求償権は破産債権になるが、開始後の履行による求償権は破産債権にならない。

これを前提にして、次のことが認められるべきである。

 ()無委託保証人が破産者に対して債務を負っている場合に、破産手続開始後の保証債務の履行による求償権を自働債権として相殺することは許されない(67条1項の反面解釈。弁済により代位した主債権を自働債権とする相殺も72条1項1号により許されない)。なお、最高裁判所 平成24年5月28日 第2小法廷 判決(平成21年(受)第1567号)は、求償権の破産債権性を肯定しつつも、72条1項1号の類推適用によりこれを自働債権とする相殺は許されないとした。この結論は、是認すべきである。

 ()無委託保証人が破産手続開始後に保証債務を履行した場合には、彼は、弁済者代位により取得する原債権を104条4項により行使できるとすれば足りる。もっとも、同項は「求償権の範囲内において」と規定しているので、求償権が破産債権でない場合に、代位債権を破産債権として行使できるのかという疑問は生ずるが、同項はそれを許容する趣旨を含んでいると理解してよい。なぜなら、破産手続開始後でも破産債権の譲渡や第三者の弁済による代位は一般に許容されていることであり、無委託保証人をこれらの者よりも不利に扱う必要はないからである。無委託保証人が破産者に代わって弁済をした以上、彼が原債権を破産手続において行使することを認めるべきであるが、その内容は民法で規律された求償権の範囲内に制限されるとの趣旨の規定であると見るべきである。もちろん、無委託保証人も主債権者から見れば全部義務者の一人であるので、主債権者の受けた満足が一部の場合には、主債権者が破産手続に参加すれば、彼の残存債権行使が優先する(104条2項)。

 ()無委託保証人は、保証債務を履行する前でも、主債権者が破産手続に参加していない場合には、破産法104条3項の拡張解釈により、代位取得する予定の被保証債権を破産債権として届け出ることができると解すべきである(最後配当の除斥期間までに保証債務を履行して代位取得しなければならないことは、104条3項の本来の適用対象である将来の求償権の場合と同じである)。

 ()代位により取得した原債権は、求償権を確保するための権利であるが、他方で、無委託保証人の求償権は、主債務者の関与なしに発生するのであるから、主債務者の関与の下に発生する原債権を超えることは許されないと解すべきである。たとえば、(d1)原債権が時効により消滅すれば、求償権も時効により消滅する。(d2)免責許可決定により主債務者が原債権の責任を免れる場合には、求償権の責任も免れると解すべきである。破産手続開始後に第三者(債権者に対して全部義務を負わない者)が事務管理として債権者に弁済した場合に、これにより弁済者が取得する求償権と代位取得する原債権とについても同様である。

なお、最高裁判所 平成24年5月28日 第2小法廷 判決(平成21年(受)第1567号)は、「無委託保証人が主債務者の破産手続開始後にした弁済による求償権が破産債権に当たるか否かについては争いがあるが、当たらないとする立場に立てばもちろんのこと、当たるとの立場に立ったとしても72条1項1号の類推適用により相殺は許されない」との文脈の中で「無委託保証人が主債務者の破産手続開始後にした保証債務の履行による求償権は、破産債権に当たる」との判断をしたものである。したがって、この判断は、いわゆる傍論と位置づけるべきである。破産債権性についての判断が正当であるか否かは、無委託保証人が破産者に対して債務を負っていないため相殺が問題とならない場面で試されることになろう。次の場面がこの問題を考える上で適例とは言えないが、議論を進める役には立とう。
この場面において、最高裁が本件要旨1に従い破産債権性を肯定する確率は高い。ただ、信用リスクの移転が無委託保証契約ではなく債権買取予約の方式でなされた場合には、信用リスク引受者の求償権は問題にならないのであるから、これとのバランスで、無委託保証契約による信用リスク引受人の求償権(破産手続開始後の保証債務の履行による求償権)は破産債権にならない(あるいは、破産債権になるとしても償還すべき現存利益はない)、と判断される可能性はなお残されていると見てよい。
 A−−5億円の主債権−→Y(主債務者)
 ↑           ↑
 ‖           |
(2億円弁済)     2億円の求償権
 ‖           |
 ‖========== Z(保証人) 


開始時現存額主義の当否
日本では伝統的に開始時現存額主義が採用されている[66][67]。例えば、Aが主債務者Yに対して5億円を貸し付けるに当たって、Zが連帯保証人になり、Yについて破産手続が開始される前に、ZがAに2億円を弁済したとしよう。AはYの破産手続に債権額3億円でもって参加することができる。Zは、2億円の求償権をもって破産手続に参加することができる。2割配当がなされる場合には、Aは6000万円、Zは4000万円の配当を受けることができる。

これが最善の処理かといえば、もちろん疑問である。なぜなら、
当初債権額主義(成立時債権額主義)  全部義務者の一人について破産手続が開始された場合に、破産手続開始前における破産者からの一部弁済等による債権額の減少は考慮するが、彼の共同義務者からの弁済や相殺は考慮せずに、当初の債権額をもって破産債権額とする建前を当初債権額主義という。この立法主義を採用している国もあるが[CL6]、日本は採用していない。当初債権額主義の下では、例えば共同義務者から4億円の弁済を受けていて、残債権額が1億円であったとしても、当初の債権額5億円でもって破産手続に参加することができる。もし2割配当であれば、1億円の配当を受けることができる。3割配当であれば、配当金は1億5千万円となるが、債権者が受領することができるのは、残債権額に相当する1億円であり、残りは求償権者に交付される。このように、当初債権額主義は、債権者優先原則の一つの実現方法である。

現存額主義よりも当初債権額主義の方が優れている、あるいは立法論として考慮の余地があると述べる見解は少なくない[41]。さらに進んで、現行法の解釈論としても、当初債権額主義の趣旨を述べる見解もあるが[49]、日本の現行破産法がこの立法主義を採用していると解釈するのは難しい。なぜなら、(α)現行破産法の前身である大正破産法が制定される当時(1922年)、スイス債務取立・破産法(1889年制定)が採用する当初債権額主義も既に知られており([加藤*研究1]245頁以下(1908年初出)参照)、大正破産法は、それを採用することなく開始時現存額主義を採用し、それが現行法に引き継がれているからである。

開始時現存額主義の意義  成立時現存額主義との対比において、開始時現存額主義の意義はなんであろうか。次のことを挙げることができる:保証人が主債務者に代わって一部弁済をしたことにより発生する求償権は、彼の一般財産に属するのであり、彼はそれを譲渡し、あるいは担保として利用することが認められるべきであり、彼は、これによる利益を享受し、また、一般債権者が差し押えることができる責任財産の増加による信用力の向上の利益を享受することができるべきである;ところが、当初債権額主義のもとでは、その後に主債務者について破産手続が開始されたときに、求償権が主債権に劣後するため、主債務者の破産手続開始前においても求償権の取引価値は著しく低下するために、保証人が受ける前記の利益は、開始時現存額主義の下で受ける利益と比較して、著しく小さくなる;保証人が上記の利益を十分に得ることができるようにするためには、主債務者の破産手続において求償権の順位を主債権のそれと同じにする必要があり、そのためには開始時債権額主義を採用せざるを得ない;主債務者の破産手続開始前に保証人が一部弁済したことによる求償権を彼の責任財産として利用することを許すことと、開始時現存額主義とは、分離困難な関係に立つ。

したがって、開始時現存額主義の意義は、当初債権額主義との対比では、償還義務者の破産手続開始前に発生した求償権の責任財産性(求償権者の責任財産の一部として利用することができること)を確保することにあるということができる。償還義務者が破産することなく弁済者に償還することもありうることを考慮すると、開始時現存額主義を採用することには、それなりの合理性があると言うことができる。

開始時現存額主義の下では、主債権者に破産手続開始時における債権額と保証人の求償権額との合計額で破産手続に参加することができるとの地位を与えることは、当事者間のその旨の特約に委ねざるを得ない(最も簡便な方法は、債権者の主債務者に対する債権を被担保債権にして、保証人が取得する将来の求償権上に質権の設定を受けることであり、これも、保証人の責任財産に属することになる求償権の利用の一つの方法として許される[28])。ただし、その特約は、保証人の一般債権者による求償権の差押え後になされた場合には差押債権者に対抗できないので、それ以前にしなければならない。

このように、当事者の合意により開始時現存額主義を当初債権額主義に近づけることができるが、それでも次の点で両者に差異が残ることに注意しておく必要がある。
別除権の行使手続との関係  前記の例において、主債権者Aの主債務者Yに対する債権についてAがYの不動産上に第一順位の抵当権を有していて、抵当権を破産手続外で実行した結果1億万円の配当原資が得られた場合に、この1億円は、3億円の残債権を有するAと破産手続開始前の代位弁済により2億円の求償権(及び抵当権への代位権)取得したZとの間でどのように配分されるのであろうか。別除権の行使は破産手続外で行われるのであるから、この場合には、破産手続内での破産債権への平等配当の原則は妥当せず、債権者優先原則が妥当する。債権者Aの債権が保証人Zの求償権に優先し、Aが1億円全額を受領することになる。ここでは、他の債権者との関係では(つまり対外的には)、主債権者と求償権者(保証人)とは一体となって一般債権者に優先し、配当時の被担保債権の現存額(3億円+2億円)の範囲内で優先配当(1億円)を受けるが、主債権者と保証人との間では(つまり内部的には)、主債権者が優先し、残存債権額3億円の範囲内である1億円全額を受領する。

複数口債権の一部の全額弁済の場合
AがYについて複数の債権(f1,f2)を有していて、Zがその全部について保証人になり、Yについて破産手続が開始された後でZがその一部の債権(例えばf1)の全額について代位弁済をした場合は、どうか(こうしたケースは、ZがA・Y間の一定の取引から生ずる債権について根保証人になっている場合のみならず、Zが根抵当権をもって物上保証人になっている場合に生じやすい。後者も前者と同じ処理に服する(104条5項参照))。この場合の取扱いについては、次のように見解が分かれている([杉本*2009a]参照)。
  1. 債権単位主義(口単位主義)  開始時現存額主義は、この場合にまで及ぶものではない。設例について言えば、破産手続開始後に全額弁済がなされた債権f1については、保証人Zが破産手続開始後の取得者として破産債権者となり、主債権者Aは、f2についてのみ破産手続開始時の債権額で破産債権者となる。[伊藤*破産・民再v2]216頁注88・218頁注91など。
  2. 債権者単位主義(総債権額主義)  主債務者について破産手続が開始された場合について、利益状況は一個の債権について一部弁済がなされた場合と同じであると考えて、債権f1とf2とを一一体化して開始時現存額主義を適用し、債権者はf1とf2の債権額でもって配当を受けることができ、彼が破産手続においてf2の全額の弁済を受けるまで、保証人はf1の求償権を破産手続において行使することができない。[杉本*2009a]1273頁以下。 保証人は主債権者に対してなお保証債務履行義務を負っているので、保証人の求償権よりは主債権を優先させるべきであるとの政策的判断を根拠としており、保証人について破産手続が開始された後で主債務者が債権f1を完済した場合については、主債権者Aは、f2についてのみ破産手続開始時の債権額を基準にして配当を受けることができるとする。

判例の立場  同一の保証人が同一の債権者に対して、別個の契約で複数口の債権を保証したのではなく、一つの保証契約により複数口債権を保証して、そのうちの一口の債権の全額について弁済がなされた場合は、一個の債権について一部弁済がなされた場合と利益状況が似ており、債権者の債権回収を優先させるために、複数口の債権全体について開始時現存額主義(104条2項)を類推適用して、保証人の求償権は主債権者の主債権に後れるとすることにも一理あり、主債務者破産の事例について、この立場を採用した下級審判例もある(大阪高等裁判所平成20年4月17日判決(平成19(ネ)第2032号))。

しかし、その上告審である最高裁判所平成22年3月16日第3小法廷判決(平成20年(受)第1202号)は、次のように説示して、これを否定した:「破産法104条1項及び2項にいう「その債権の全額」は,特に「破産債権者の有する総債権」などと規定されていない以上,弁済等に係る当該破産債権の全額を意味すると解するのが相当である」;「債権者が複数の全部義務者に対して複数の債権を有し,全部義務者の破産手続開始の決定後に,他の全部義務者が上記の複数債権のうちの一部の債権につきその全額を弁済等した場合には,弁済等に係る当該破産債権についてはその全額が消滅しているのであるから,複数債権の全部が消滅していなくても,同項にいう「その債権の全額が消滅した場合」に該当するものとして,債権者は,当該破産債権についてはその権利を行使することはできない」。これに先行して、保証人破産の事例について、大阪高等裁判所平成20年5月30日第14民事部判決(平成19年(ネ)第2033号)も同趣旨を説示している。

保証人の破産手続開始後における主債務者による一部弁済
保証人について破産手続が開始された後で主債務者が一部弁済をした場合にも、開始時現存額主義の適用は肯定されるべきである。しかし、最近は否定説も有力である。否定説は、次のことを根拠とする([杉本*2009a]1274頁以下、[小原*2009a]430頁以下[26])。
  1. 主債務者は保証人に対して求償権を有しないので、保証人の破産手続開始後に主債務者が一部弁済をした場合に、開始時現存額主義の適用を否定して、配当時における現在額(手続開始後の主債務者からの弁済額を控除した現在額)をもってのみ破産債権者になるとすれば、保証人の一般債権者の負担が軽減される。
  2. 上記事情を考慮すると、保証人の破産手続において開始時現存額主義を適用することは、一般債権者の利益を害することになるので、否定すべきである。

しかし、この見解には賛成できない(詳しくは、[栗田*2010b]参照)。(α)債務保証制度の趣旨からすれば、主債務者が無資力の場合には、保証人が代位弁済をして求償権を取得し、その求償権の行使により主債務者から弁済金を回収するという形で、主債務者の無資力から生ずる損失の危険を引き受けるべきである。(β)問題は、保証人が破産した場合に、その破産財団は、いつの時点の債権額について主債務者の無資力の危険を引き受けた考えるべきかであるが、破産法に別段の規定がない以上、この場合にも開始時現存額主義が適用され(104条1項・105条)、保証人の破産財団は破産手続開始時における債権額について危険を引き受けたと解すべきである。(γ)否定説は、保証人の破産財団が引き受ける危険を配当時における債権額に限定しようとするものであり、立法論としてそれが可能であることは認めなければならないが、しかし、解釈論としては、その見解は特に105条の文言に反しよう。(δ)否定説を徹底させると、主債務者と保証人の双方について破産手続が開始されている場合には、債権者は、まず主債務者の破産手続において配当を受けるべきであり、不足額についてのみ保証人の破産手続において破産債権者として権利を行使すべきであることになる。さらに、債権者が主債務者の財産上に担保権を有している場合には、その担保権を行使して、その不足額が保証人の破産手続において破産債権として行使されるべきことになる。いわば、主債務者の財産に対する担保権及び破産債権が、保証人の破産手続との関係で、不足額主義の適用を受ける準別除権とされるべきことになる。しかし、11条3項・108条2項は、これらの権利を準別除権としていない。もちろん、拡張解釈の余地はあり、また、そもそもそこまで徹底しないと否定説は意味がないというわけではないが、気になるところである。

受託連帯保証人が複数いて、そのうちの一人が破産した場合
)100万円の主債務について2人の連帯保証人AとBが存在し、そのうちの1人Bについて破産手続が開始され、さらに主債務者についても破産手続が開始されたとしよう。その後に、他の連帯債務者Aが主債権者に100万円全額の弁済をすると、Aは、
(b)100万円の主債務について2人の連帯保証人AとBが存在し、主債務者についてのみ破産手続が開始され、主債権者はこれに参加しないものとしよう(したがって、104条3項ただし書・4項の適用はないものとする)。この場合に、
破産した保証人の求償権の処理
保証人について破産手続が開始された場合には、手続開始時現存額説をとるか、配当時現存額説をとるかにかかわらず、次のような面倒な問題が生じうる。すなわち、保証人の破産手続において債権者に配当すると、保証人は配当額と同額の事後求償権を主債務者に対して取得し、これも破産財団に属するので、破産管財人はこれを取り立てて配当をしなければならず、この配当により再び求償権が生じ、これも破産財団に属することになる。適当な時点で打ち切りを行わなければならないが、破産法はこの点について規定を設けていない[62]。

この問題は、()主債務者についても破産手続が開始されていて、債権者がその破産手続に参加している場合には、原則として生じない(104条3項ただし書により、求償権を行使できない。ただし、主債権者が保証人及び主債権者の双方の破産手続において受領する配当額の合計額が債権額を超過する場合は別である)。しかし、()主債務者についても破産手続は開始されているが、債権者がその破産手続に参加しない場合、及び()主債務者について破産手続が開始されていない場合には、この問題が生ずる。もっとも、主債務全部について履行期が到来している場合には、主債務者は主債務全額を弁済すべきであり、それができないのであれば、彼についても破産手続が開始されてしかるべきであることを考慮すると、(c)の場合として想定されるのは、(c1)主債務について長期の分割弁済の合意がなされていて、主債務者は遅滞なく債務を履行している場合、あるいは(c2)主債務の分割弁済の約定はないが履行期未到来の場合に、主債権者が105条の規定により保証人の破産手続において保証債権を破産債権として行使するときである。

前記(c)の場合に破産管財人がこの事後求償権を(配当金交付の時から)主債務者に対して即時に行使できる(取り立てることができる)とすることは、主債務者の関知しない事由により彼の義務履行期を早める結果になるので、許されるべきではない[25][44]。このことを前提にして、弁済者代位の規定により取得した原債権の履行期がかなり先のことである場合について、事後求償権の処理方法を考えることにしよう。これについては、次の方法が考えられる。

[方法1] 主債務者が事後求償権を一定の掛け目で買い取る(正確には、履行期未到来の事後求償権について、求償権者の求めに応じて繰上弁済をする)ことを約束して、保証人の破産管財人が主債務者から事後求償権見込額を上回る金額を預かって最後配当を行い、これにより事後求償権額を確定させ、預り金からこの金額を差し引いた余剰を返還するという方法である。この場合の事後求償権額(p)は、次の方程式から算出される。

  主債権者への配当額すなわち事後求償権額をp
  求償権買取額をq
  主債務者が求償権を買い取るときの掛け目をr(1≧r>0)(r=q/p)
  保証債権の手続開始時の現存額をa
  その他の破産債権額をb
  求償権を含めない配当財団の額をc
とする。

  [求償権額]=[配当額]=[保証債権額]×[配当率]
であり、
  q=[求償権買取額]=r×[求償権額]=r×[保証債権額]×[配当率] ・・・(1)
  [配当率]=(c+q)/(a+b)
である。これを(1)式に代入すると(以下では、乗算記号を省略する)、
  q=ra(c+q)/(a+b)
さらに、q=rpであるので、
  rp=ra(c+rp)/(a+b)
  rp(a+b)=ra(c+rp)
  p(a+b)=a(c+rp)
  p(a+b−ar)=ac
  p=ac/(a+b−ar)=a(c/(a−ar+b)

r=1のとき(掛け目なしで買い取るとき)は、p=a(c/b)
r=0のとき(買い取る者がいないとき)は、p=a(c/(a+b)

例えば、a=1000万円、b=9000万円、c=1000万円のとき、主債務者が求償権を掛け目なしに買い取るとすると(r=1)、
  p=a(c/b)=111万1111円
  r=1であるので、p=qであることに注意して配当率を確認すると、
  配当率=(c+p)/(a+b)=(1000+111.1111)/(1000+9000)=0.11111111

他方、前記(b)の場合(主債務者についても破産手続が開始されているが、債権者がそれに参加しない場合)には、保証人の破産管財人が主債務者の破産手続において求償権を行使しても、部分的な満足しか得られず、その割合も不確定であるので、上記の計算式は妥当しない。保証人の破産管財人としては、問題の簡明な処理のために、債権者に主債務者の破産手続にも参加することを要請するのが最善である。しかし、債権者が主債務者の破産財団から多くの配当を得る結果、保証人の破産財団から手続開始時現存額を基準に配当を受けると過払になるような場合(実際上はあまりない場合)以外は、保証人の破産財団の負担が軽くなるわけではないことにも注意すべきであろう。ただし、「保証人の破産手続開始後における主債務者による一部弁済の場合には、開始時現存額主義を否定して、配当時現存額主義を適用すべきである」との見解([杉本*2009a]1274頁以下)を前提にすれば、保証人の破産管財人が債権者に主債務者の破産手続に参加することを勧奨することには、大いに意味がある。

[方法2] 法律関係の決済の方法としては、上記のように債権者が保証人の破産手続に債権全額で参加し、破産管財人が主債務者に対して取得する求償権を行使あるいは譲渡するという方法が本来的な決済方法であるが、ただ、次のような簡便な決済方法も考えられる(主債務者が代保証人を立てる義務を負わないことを前提にする):[保証債権額]×[主債務者の不履行の確率]は、保証債務が履行不能になることにより債権者に生ずべき損害額と解釈できるので、その金額を破産債権として届け出させる;債権者は、引き続き債務者に対して債権全額を行使することができ、破産管財人は主債務者に対して求償権を有しない。この方法は、保証債権全額で破産手続に参加した債権者に配当することにより破産財団に属することになる債権(弁済者代位により取得する債権)を保証人のない債権として評価して債権者が買い取り([求償権の評価額]=[保証債権への配当額]×[主債務者の履行の確率])、その代金を債権者への配当金の一部と相殺することと等価である。それは、保証契約の不履行による損害賠償請求権(ないしは、保証契約を損害担保契約(後述6.4で説明する意味での損害担保契約)に転換して、損害担保契約が不履行になることの損害賠償請求権)を破産債権として行使させるのと、実質的には同じである。
ところで、[主債務者の不履行の確率]は、債権者が新たな保証人(保証を業務とする会社)を見いだして、その者に支払う保証料に反映されると考えられるから、現在の保証人が保証債務を履行することができなくなったことによる損害額は、
となる。新規保証料そのものを損害額とするか、それともこれには保証会社の利益も含まれるから1よりも小さい適当な係数を乗ずべきかは、見解の分かれるところとなろうが、ここでは、状況に応じ適切に定められるべきものとしておこう。

なお、法人保証において保証料が一定期間ごとに支払われる場合には、保証はその期間ごとになされたものと解してよく、そして、各保証期間の開始前にその期間に応じた保証料が支払われることを前提にすると、保証人の破産により債権者に生ずる損害は、破産手続開始時点において未経過期間に対応する保証料額と解してよい。

損害保険
例えば物の損害保険の目的物が第三者の行為により滅失し、その後に加害者について破産手続が開始される場合を考えてみよう。保証との差異を明瞭にするために、加害者の過失割合を8割とする。保険価額を1000万円とし、被保険者は、加害者に対して800万円の損害賠償請求権を有するとともに、保険者に対して1000万円の保険金請求権を有するものとする。保険者が被保険者に保険金を支払った場合に、保険者が加害者に対して求償権を取得すると観念するのがよいのかが問題になる。加害者と保険者の間の契約はあり得ないので、求償権の発生根拠としては、もっぱら保険金1000万円の支払を加害者の800万円の債務の事務管理としての弁済と評価しうるかが問題となるが、この点の判断は留保し、保険者の加害者に対する求償権は観念しないものとし、保険者の請求権代位(保険法25条)により問題が解決されるものとしよう。(α)もし保険者が1000万円の保険金全額を支払えば、保険者は、被保険者債権(被保険者の加害者に対して有する800万円の債権)全部を代位取得する。(β)保険者が400万円しか支払わない場合(一部填補の場合)には、被保険者には未填補の損害600万円があり、被保険者はこれを加害者の財産から回収しなければならないので、保険者が代位取得することができるのは、800万円から600万円を控除した200万円となる(保険法25条1項2号カッコ書)。保険者は、支払済み保険金額より多くの利益を代位により得るべきではないので、代位することができる金額は支払済み保険給付額を限度とするとされているが(同条1項1号)、上記の設例ではこの要件は充足されている。一般的な形で述べると、(1) 代位は被保険者債権額から不足額を控除した残額についてのみ認められ、かつ、(2) 保険給付額を超えて代位を認め必要はないので、保険者は両者のうちの少ない方の額で被保険者債権に代位する(保険法25条1項。後者の要件は、民法501条柱書の「自己の権利に基づいて求償をすることができる範囲内において」に相当するものである)。また、損害賠償請求権(被保険者債権)は、彼と保険者との間で上記の金額で分有されることになるが、被保険者が確実に損害を回復することができるように、被保険者の債権は保険者が代位取得した債権に優先するとされている(保険法25条2項)。

以上のことを前提にして、保険者が保険給付を行う前に加害者又は保険者が破産手続開始決定を受けた場合について、破産法104条の適用ないし類推適用を考えてみよう。
信用保険
貸付債権等の債務不履行により債権者に生ずる損害の填補を目的とする保険も、損害保険の一種であり、信用保険あるいは保証保険と呼ばれる。保険法25条1項は、保険対象となる債権(前述の当該貸付債権等)も請求権代位の対象になることを明示している。信用保険については、債務者の委託を受けて保険契約が締結されることもありえ、その場合には、信用保険委託契約の中で保険者の債務者に対する求償権が合意されることも考えられる。その点を除けば、損害保険について前述したことが基本的に妥当しよう。

6.4 保証人の複数、一部保証及び保証の順位設定

保証人間に連帯関係がない場合(分別の利益がある場合)  主債務者Yの債務1000万円をAとBとが保証した場合には、民法456条により、AとBは別個の500万円をそれぞれ保証したことになるのが原則である(このように、共同保証人の各々の保証債務額が減少することを「分別の利益」という。AとBとが共同して(同時に)債権者と保証契約を締結する場合が典型例であるが、各別に保証契約を締結した場合にも、原則として民法456条の適用がある)。この場合には、主債務者と各保証人との間で各500万円の範囲で104条が準用されるが、保証人間では、破産法104条の準用はない。

保証人間に連帯関係がある場合  この場合には、保証人間でも104条が適用される。これに該当するのは、次のような場合である。
一部保証
主債務者が債務不履行に陥った場合に、債権の全額が不履行になるとは限らず、多くの場合には、その一部についてのみ弁済が得られなくなるだけである。さらに、保証の対象が、主債務者を異にする複数の債権をプールしたもの(債権群)である場合には、債務不履行が生ずる可能性がある部分は小さく、大数の法則により予見可能性が高まる。そこで、保証の必要な債権あるいは債権群の一部についてのみ保証を付すことも考えられる。保証人からみれば、保証債務額を限定することにより、自己に生ずるリスクを限定することができ、債権者にとっては、これにより保証料を節減することが期待できるという利点がある。

この場合に、主債務者から一部弁済がなされたときに、保証人の義務は、(α)弁済額の範囲で消滅するのか、(β)未弁済額がある限り存続するのか、(γ)一部弁済の割合に応じて消滅するのかは、リスク引受契約の解釈の問題である。別段の合意がなければ、(β)と解釈される([内田*民法3v3]348頁)。例えば、1000万円の債権について、300万円の一部保証がなされた場合に、主債務者が800万円の一部弁済をして破産したときは、債権者は、保証人に対して未弁済額の200万円について保証債務の履行を請求することができる。この場合に関して言えば、債権回収の確実性は、一部保証のあった部分よりは、なかった部分(主債務者から既に弁済がなされている部分)の方が高かったことになる。もっとも、主債務者が保証のない部分について必ず弁済をするとは限らないので、その場合(上記の例で、主債務者の弁済額が500万円にとどまる場合)を想定して言えば、安全性の順位は、 (1)主債務者が一部弁済した部分、(2)一部保証のあった部分、(3)いずれにも該当しない部分になる。

一部保証の契約において、主債務者の破産手続開始後に一部保証額の全部を保証人が支払えば、当該部分については保証人が債権を取得し、破産手続において行使することができると合意することは、契約自由の原則の範囲内である([内田*民法3v3]348頁参照)。その合意は、一定金額の破産債権を債権者と保証人との間でどのように分割するかを定めるにすぎず、他の破産債権者の利益を害しないからである。しかし、その合意がなければ、一部保証人は、責任の集積により債権の回収を確実にすることを約束した者として、物上保証人と同様に、債権者が債権全部(保証されていない残部を含む)の満足を受けるまで、主債務者の破産手続において求償権を行使することはできず、債権者に代位することもないと解すべきである([内田*民法3v3]348頁参照)。

一部保険
前述のことは、一部信用保険についても理論上は妥当する。ただ、保険法25条2項が、保険者の代位取得債権よりも被保険者の未補填債権を優先させることを規定し、同法26条が25条を片面的強行規定としているので、保険者の代位取得債権の順位をこれよりも高める合意をすることができない([萩本*2010a]141頁)。もっとも、同法36条4号が「法人その他の団体又は事業を行う個人の事業活動に伴って生ずることのある損害をてん補する損害保険契約」を26条の適用対象外としているので、これに該当するものについては、保険者の代位取得債権の順位をこれよりも高める合意をすることができる。どのような信用保険契約が36条4号所定の損害保険契約に該当するかは明瞭ではなく([萩本*2010a]145頁参照)、判例を待つ必要がある。

保証の順位設定
債権全体について保証を受ける場合でも、(α)主債務者の財産自体から回収が可能な部分と(β)そうでない部分とをある程度予想することができるときに、前者については保証料の低い無担保保証ですませ、後者については保証料は高いが確実に補填を受けることができる保証にする(例えば、保証債権を被担保債権にして保証人の財産上に担保を設定する)ことが考えられる。

こうしたことは、通常の保証契約実務の中で行われることは少ないと思われるが、後述のその他の信用リスク移転契約の世界ではすでに行われていることである。標語的に言えば、「予想されるリスクの度合いに応じて債権を細分し、リスクの度合いに応じてリスク移転方法を選択する」ということになる(リスク細分型リスク移転)。

6.5 その他の信用リスク移転契約


貸倒れリスクの移転の最たるものは債権を売り切ることであるが、ここでは、債権を債権者に帰属させつつそのリスクを他に移転させる契約を中心に取り上げることにしよう。保証契約は、主債務者の信用を補完する契約であるが、債権者から見ると、債権の貸倒れリスクを保証人に移転させ、自己に生ずる損失を軽減する結果をもたらす契約である。特に、債権者が、主債務者への融資実行後に、主債務者からの委託を受けない保証人と保証契約を締結し、保証料を受取利息の中から支払う場合がそうである。リスク移転のための契約類型は、これ以外にもある。

また、一人の債務者に対する多額の信用リスクを債権者が一人で背負うことは、危険である。信用リスクは、多数の債務者に分散させ、多数の者により分担するのが賢明である。リスクを分担する者を不特定多数の投資家にまで拡大することができれば、さらによい。こうした目的を達成するために、新種の証券化商品(デリバティブ商品(派生型商品))も開発されてきている。

損害担保契約(損失補填契約)
債務者の債務不履行によって生じた損害を第三者が補填することを内容とする契約を損害担保契約と呼ぶことにしよう。第三者は、貸倒れの発生の確率を考慮して決定される担保料を受け取ることになるが、それを支払うのが債権者であるか債務者であるかは、ここでは重要でない。

上記のように定義された損害担保契約は、破産手続との関係で、次のような特色をもつ:この契約の純粋な形態にあっては、


損害担保契約と保証契約との差違は、債務者と買取義務者が同じ時期に破産手続開始決定を受けた場合に現れる。保証契約にあっては、開始時現存額主義が適用され、債権者は、主債務者の破産手続で得た配当額に影響されることなく保証人の破産手続の開始時における保証債権額を基準にして配当を受けることができる(ただし、少数ではあるが異論のある点である)。他方、損害担保契約の場合には、その契約の趣旨に従い、債務者の破産財団からの配当額を控除した残額を基準にして配当を受けることになろう。この点を厳格に貫けば、債務者の破産手続における配当額が確定するまで、担保義務者の破産財団から配当を受けることができないことになる。しかし、それは現実的ではないので、担保義務者の破産手続開始時の債権額で破産手続に参加することを認めた上で、債務者の破産財団からの配当額分だけ破産債権額が減少する解除条件付債権として扱うのがよいであろう(債権者は、債務者の破産財団からの配当の結果、担保義務者の破産財団に配当額を返還する義務が負うことがある)。

債権買取予約・停止条件付債権買取契約
債務者の財産状況の悪化を示す事由(破産申立て等)が生じた場合には、買取義務者に債権買取りを請求できる契約(債権者が予約完結権をもつ予約)あるいは当然に買い取る契約も、信用リスク移転の機能をもつ。どの金額で買い取るかは、契約自由の原則の範囲内である。典型的には、額面額で買い取るとの合意がなされよう。

債権買取予約等と保証契約との差違は、債務者と買取義務者の双方について破産手続が開始された場合に顕著に表れる。保証の場合には、主債務者及び保証人の双方の破産手続に主債権及びこれと同額の保証債権額をもって参加することができるのに対し、債権買取予約等にあっては、一方の破産手続にしか参加できない。両破産手続における配当率が同じである場合には、保証契約によりリスクを移転させた債権者が回収できる債権額は、債権買取契約によりリスク移転を図った債権者の回収額の2倍になる[51]。

クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)
これは、米国の金融取引や国際的な金融取引の中で発達してきた新種の信用リスク移転取引であり、いわゆるデリバティブ取引の一種であるとされている(基本的な仕組みについて、[大久保=井伊*1996a]15頁以下、[寺山*2001a]、[杉原=細谷=馬場=中田*2003a]2頁、[中山=河合*2005a]2頁、[ピムコ*2007b]などを参照)。こうした取引も、日本の民法や倒産法の中で、適当な居場所を与えることが必要である。本来ならば、取引社会において用いられている標準的な契約書から基本的特質を抽出して、その法的性質を議論すべきであるが、今はその余裕もないので、いくつかの文献から知りうる範囲で、その破産法における位置付けを考えてみることにしよう。

最高裁判所 平成28年3月15日 第3小法廷 判決(平成26年(受)第2454号)は、次のように説明(定義)している:「CDSとは,参照対象となる企業その他の組織(以下「参照組織」という。)につき,その倒産,不払等のリスクを回避したい者(保証の買手)がそのリスクを引き受ける者(保証の売手)に対し保証料を支払い,その参照組織につき倒産,不払等の事由が発生した場合に保証の売手が保証の買手に対し上記事由に応じた所定の金額を支払うことなどを内容とする金融商品のことである。そして,複数のCDSの市場価格を平均値により指数化したものを用いたものがインデックスCDSである。」。この説明における「保証」は、「プロテクション」ともよばれる。民法446条以下が規定する「保証」と機能的に近く、同一と言いうる場合もあるが、常に同一であるとまではいえないので、以下では、「プロテクション」の語を主として用いることにする。

CDS取引の最も基本的な形態は、保証契約ないし損害担保契約に類似する([大久保=井伊*1996a]参照)。債権者が債務者に対して債権を有していて、債務者が債務を弁済することができなくなることにより債権者に生ずる損失を保護(補填)することを他の者が約束する。債権者はプロテクションの買手(あるいはリスクの売手)と呼ばれ、保護を約束する者はプロテクションの売手(あるいはリスクの買手)と呼ばれ、プロテクションの買手が売手に支払う対価は、プレミアムと呼ばれる。リスクの要因となっている債務者は、通常は法人であり、参照法人と呼ばれる。プロテクションの売手が買手に保護を与えるべき事由をクレジットイベント(信用事故)といい、参照法人の倒産や支払不履行が代表例である。クレジットイベントが参照法人ではなく、特定の債務について定められる場合もあり(ノンリコース特約がある場合には、そうする必要がある)、その場合には、その債務を参照債務と言う(債権債務関係は証券に化体されていることが多く、上記の説明における「債権」は「債券(に表章された債権)」に置き換えていくことができる)。

CDS取引を抽象化ないし一般化していけば、プロテクションの買手が参照法人に対して債権を有することは必要ない。抽象化を推し進めれば、参照法人にクレジットイベントが生ずることによりプロテクションの買手に損失が生ずるという関係も必要なくなる。クレジットイベントも、倒産に限られず、参照法人の信用低下を示す事由であれば何でもよいことになる(例えば、債務減免交渉の開始でも、株価が一定の水準を下回ることでもよい。ただ、その発生を明確に判定できることが必要である)。CDS取引は、きわめて一般的な形でいえば、参照法人の信用に関わる事由の発生を停止条件とする参照法人以外の者の間の給付契約と言うことができる(給付は、金銭給付でも債権買取りでも、その他の給付でもよい)。

法的性質と有効性  CDS取引はその基本的形態において有効であることに問題はなかろう。その法的性質は、リスク保護の買手が参照法人に対する債権(被保護債権)を有するか否か、及びクレジットイベントが生じた場合の決済方法に依存しよう。

)決済方法  リスク保護の買手が参照法人に対する債権を有している場合の基本的な決済方法として、次の2つがある。


現金決済の場合には、プロテクションの買手に生ずる実損害は、参照法人の倒産処理手続を経て確定することが最も正統的である。しかし、それ以前に売手が買手に金銭を支払うことが約定される場合があり、その場合には、クレジットイベントの生じた債権(多くは債券)の評価額(時価)でもって買手に生ずる損害が算定される。評価を公正に行うために、対象債権を競売(競争売却)にかけることもある(多数の買受希望者を集めるために、売却対象となる債権も集合させておくことが望ましい)。プロテクションの売手も買手もこの競売に参加できるようにしておけば、評価の公正性を期待できよう。

参照法人に対して債権を有しない者がプロテクションを購入する場合に、仮想的に元本額を定めておき(この元本額は「想定元本額」と呼ばれる)、クレジットイベント発生後に行われる債権の競売等により確定した回収不能率を約定された想定元本額に乗じてプロテクションの売手が買手に支払うべき現金決済額を算出することも可能である。債権を有しない者が現物決済の合意のあるプロテクションを購入した場合でも、競売で債権を購入して決済することも可能であろう。

)法的性質  (α)プロテクションの買手が参照法人に対する債権を有している場合に、現金決済が約定されているときは、その法的性質は、損害担保契約の一種である。現物決済が約定されているときは、停止条件付債権買取契約の一種である。これらの場合に、プロテクションの買手が参照法人に対して有する債権がプロテクションの売手に移転することは、保証債務の履行による被保証債権の代位取得と類似する。代位取得と同性質のものと観念されれば、日本民法の下では、代位取得された原債権の行使については「求償をすることができる範囲内において」という制約が付く(501条柱書本文)。他方、代位取得ではなく債権の買取りと同性質のものと観念されれば、原債権の行使についてはそのような制約がないことになる。CDSは、プロテクションの売手による原債権の取得が代位弁済による取得と同性質のものと観念され、かつ、プロテクションの売手が銀行でその倒産が予想し得ない状況にある場合に限り、保証契約に類似する。しかし、決済方法が現金決済であっても、現物決済であっても、参照法人とプロテクションの売手の双方が共同債務者の関係に立つわけではなく、双方について破産手続が開始された場合に破産法104条1項・105条が適用されることはないから、保証契約ではない。CDSがこのような内容のものである場合(真性の保証契約ではない場合)には、CDSの経済的機能は、保証契約に近いが、それは、損害担保契約や停止条件付債権買取契約の経済的機能が保証契約に近いという以上の意味を有しないであろう。

 (β)プロテクションの買手が参照法人に対する債権を有しない場合には、CDS契約は保証契約ではあり得ない。しかしこの場合でも、参照法人の倒産等によりプロテクションの買手に損害が生ずるという関係がある場合には、そのCDS契約は、損害担保契約に類似し、その有効性を肯定してよい。例えば、前述の損害担保契約の例において、債務者に対して債権を有せず将来も求償権等を取得することのない損害担保義務者が、債務者の倒産リスクを他に移転するためにCDSを利用する場合がそうである[16]。

 (γ)上記の(α)にも(β)にも該当しない場合には、CDSは、おおむね、射倖契約の中に分類することができる停止条件付金銭給付契約や停止条件付債権売買契約である。

)有効性  (α)クレジットイベントが参照法人の倒産で、プロテクションの買手が参照法人に対して債権を有する場合を典型例として、クレジットイベントの発生によりプロテクションの買手に損害が生ずる関係がある場合には、CDS契約は有効としてよい。ただ、こうしたCDS契約が有効となることを前提にして、多額の信用リスクが引き受けられ、信用リスクの移転が幾重にも積み重なていくと、リスクの所在がつかみにくくなる。例えば、銀行が債務者Aに対する多額の債権のリスクをBに移転させたが、Bがさらにそれを他に移転させ、最終的な移転先がZであり、銀行がそれを知らずにZに多額の融資をしていると、Aの倒産がZの倒産となって現れ、Zに多額の融資をしている銀行が結局リスクの最終的な引受手となる。この場合には、リスク移転の事務作業は、浪費である。そして、リスク移転手段があることをよいことに最初の債務者に多額の融資を続けると、その債務者が倒産したときに社会に生ずる損害も大きくなる(一人の債務者の倒産により社会に生ずる損失は、その債務者の負債額に比例するのであり、債権者が倒産リスクを他に移転したところで、このことは基本的に変わらない)。

 (β)参照法人についてクレジットイベントが生じてもプロテクションの買手(リスクの売手)に損害の生ずることがない場合(プロテクションによって保護されるべき利益(被保全利益)がない場合)には、そのCDS取引は投機性・賭博性を帯びる。株式市場においては、投機行為も株式の流動性を高める効果があり、その有効性に疑問がもたれることはない。CDS取引も同様に考えるべきかは、迷うところである。こうしたデリバティブ取引は、現在は、契約自由の原則の下に取引当事者の創意工夫により様々な商品ないし取引が開発されている段階である。その取引が定型化される過程で、あるいは定形化が完了した段階で法的規制が加えられることになると思われるが、現在のところは、当事者の創意工夫による自由な発展に委ねておく方がよいと思われる。従って、CDS契約は、それが他者の倒産を材料とする賭博性の高い行為であり公序良俗(民法90条)に反すると評価されたり、あるいはCDS取引において高いプレミアムが支払われている参照債権であるから不履行のリスクが高いと投資家に思わせることにより債券の価格を意図的に引き下げる手段として悪用されるのでないかぎり、有効としてよいであろう[CL9]。

プレミアムの算定にあたっては、参照法人あるいは参照債務の評価が重要となる。その評価がプロテクションの買手に不当に不利あるいは有利になるように不公平な手続でもってなされると、モラルハザードの問題が生ずる。ただ、その評価は、参照債務となっている証券の格付けあるいは証券の発行体の格付けを基に行われるようであり、格付機関が客観的な資料に基づいて公正に格付けをする限り、モラルハザードの問題はこれを通じて抑制されることが期待できる。何をクレジットイベントとするかの問題についても、同様なことが妥当する(特に、倒産や支払不履行以外の事由をクレジットイベントにする場合が問題となる)。以上につき、[ムーディーズ*2003a]15頁−17頁参照。もっとも、金融危機のたびに、証券の発行体の依頼を受けて発行体から手数料を徴収してなされる格付けの信頼性が疑問視されことにも注意しなければならず、それ故に、その民事責任も議論されるようになった[83]。

プロテクションの買手が参照債務の不履行の確率が高いことを知りながら、それに関する資料を格付会社及びプロテクションの売手の双方に開示せずあるいは必要な指摘をせずに、格付会社が高い格付けを行なうことを放置して、低いプレミアムでプロテクションを購入した場合には、その非開示が取引上の誠実義務に反すると評価されるときには、暴利行為として民法90条により無効になりうると解すべきである。

参照法人及び  最も基本的なCDSにおいては、参照法人は一人であるが、複数の参照法人を一つのグループにして取引の対象とすることもある(バスケット型CDS)。

参照法人とプロテクションの売手との関係  CDS取引は、プロテクションの売手と買手の間の取引であり、参照法人(債務者)が売手にプロテクションの売り(リスクの引受け)を委託することはないようである。これを前提にすると、CDSが保証契約類似の契約と把握される場合でも、事前求償権は問題にならない(真性の保証契約がCDS契約と呼ばれている場合は、もちろん別である)。

プロテクション請求権の保全  クレジットイベントが発生したときに、プロテクションの売手が所定の義務を履行するか否かは、彼の財産状況に依存する。売手自体が破産した場合には、個々のCDS取引の内容に応じて、保証契約あるいは損害担保契約の場合と同様に(前述参照)、プロテクションの買手が破産債権者として破産手続に参加することを認めてよいが、ともあれプロテクションの価値は著しく失われる。この点の危険を回避するために、(α)プロテクションの売手を参照債務者とする別のプロテクションを他の者から購入すること、あるいは、(β)プロテクションの売手(例えばAIGのような保険会社)の株価が一定の水準を下回れば、参照債務に相当する額の担保を提供させることがある。また、(γ)次に述べるファンド付のCDSにより担保を予め提供させておくこともある。

ファンド付CDSないし合成CDO (Synthetic Collateralised Debt Obligation)
プロテクションの売手自体が破産することによりプロテクションの価値が失われる危険を回避するための方法として、プロテクションの売手に予め資金を提供させ、その資金をプロテクションの売手とは別個の者に管理させる方法がとられる(ファンド付きのCDS)。具体的な方法は、例えば次のようになる。

例1

  1. ある債権者が複数の債務者に対して債権を有しており、債権者がそれらの債権の信用リスクを他人に移転したいと考えている。その債権の利率は、年5%である。
  2. 債権者が、それらの債権のリスク移転のために、その目的のために設立された法人(SPV)と債権の元本のみを保証するCDS契約を締結する。債権者がその法人に支払う1年あたりのプレミアムを債権元本額の2%が相当であるとする。
  3. SPVは、保証した債権元本額に見合った証券を発行し、投資家に販売する。投資家から支払われた代金でもって、安全確実な国債を購入し、債務者について破産手続が開始された場合等に債権者に生ずる損害をその国債の売却代金でもって補填するものとする(その旨を投資家に販売する証券の発行条件としておく)。国債の利率を例えば4%とすると、SPVは、投資家に国債の利息と債権者からのプレミアムの合計額(投資額につき年6%)を得、それを利息として投資家に支払うことができる。発行コストは、投資家に売却する際に証券の価格に上乗せする方法で回収することも、投資家に支払う利息から控除する方法で回収することもできる。もしSPVに利益を留保する必要があるのであれば、それも、同様の方法によることができる。
  4. この証券の販売を容易にするために、必要であれば、発行証券を複数の層(トランシェ)に分け、層間で優先順位をつける([杉原=細谷=馬場=中田*2003a]2頁)。また、複数の債務者全部について倒産手続が開始される確率は低い。したがって、最先順位のトランシェの証券は、その元本が償還されなくなる確率は極めて低いので、比較的高価格で(つまり低利回りで)売却できる。

この場合には、リスク資産を原債権者に帰属させたまま、そのリスクを他に移転させる形で二次的な債券が組成される点に特徴がある。また、この債券の元利金の支払原資は、(α)証券の代金で購入された資産(国債)と(β)CDSのプレミアムの複合である。このような特徴をもつ債券は、Synthetic CDOと呼ばれる(「合成債務担保証券」と訳されることがある。[杉原=細谷=馬場=中田*2003a]1頁)。このタイプの債券は、代金で購入される資産の運用益(利息)にCDSのプレミアムが加わるため、利回りが比較的高くなる。この債券の販売にあたって好利回りの点が強調され、CDSによるリスク引受が強調されないままとなると、買手は、好利回りの金融商品という外装につられて、実のところ、担保まで提供して保証人の責任を引き受けているのである。その債権のクレジットイベントが発生したときに、投資家は予想外の損失を被る。その意味で危険な商品である。この場合には、投資家は、国債に投資しているのではなく、原債権者の保有するリスク資産に投資したのであり、その点が強調されるべきである。

例2
  1. ある参照法人Aの債券元本100億円のプロテクションの売手Xが危険を感じて、リスクを他に移転しようとしている。彼が売ったプロテクションの1年あたりのプレミアムが債権元本額の3%であるとし、2.5%のプレミアムでリスクを他に移転することができれば、十分に利益を得ることができると計算した。
  2. Xは、SPVを設立して、Aを参照法人とするプレミアム2.5%のCDS契約を締結し、かつ100億円を融資して年利4%の国債を購入させる。
  3. SPVは、
    1. 100億円の国債を裏付資産とする債券(CDO)を組成し、
    2. その利回りを年6.5%(=4%+2.5%)とし、
    3. 参照法人Aについて破産手続等が開始された場合には、裏付資産である国債を売却してA発行の債券100億円をXから購入する形でリスクを引き受ける旨の条件を付して
    4. Xから受けた100億円のつなぎ融資の利息相当額を上乗せして売却する。
  4. SPVは、発行したCDOの売却代金でもって、Xから借り受けた100億円を弁済する。
用 語
誤解のあることを恐れつつも、CDOの語義について説明しておこう。

CDO (Collateralised Debt Obligation) のObilgationは、権利義務関係を意味する。債権者から見れば権利(債権)である。CDOにあっては、通常は、証券化された債権である。Collateralisedの語の基礎となるcollateralの意味は、「派生的な」あるいは「二次的な」であるが、そのほかに「追加的な担保によって保証された」あるいは「見返りの」の意味もあり、名詞形では単に「担保」の意味で使われる場合もある。Collateralisedがこれらの内のいずれの意味を直接の基礎としているのか判然としないが、いずれにせよObligationの裏付資産がDebtであること、ないしはDebtを基礎にしてObligationが作られているという関係にあることを意味している。Debtは、Obligationの裏付けとなる資産が債権債務であることを意味する。全体では、「債権を裏付けにして作られた二次的な権利(債権)(を化体する証券)」を意味する。資産担保証券(Asset Backed Security)の一種でもある。裏付けとなる債権が貸付債権(Loan)である場合には、CLOと呼ばれるように、CとOとの間の文字はいろいろ変わる。

Synthetic CDOには様々な類型のものがあり、本質的要素(必要最小限度の要素)が何であるのか判然としないが、ここで問題にしているのは、プロテクションの最終的な売手と買手との間に媒介法人(SPV)が介在し、SPVがプロテクションの売手から拠出された資金でもって買手に生ずることのある損失を補填するためのファンドを保有している形態のものである。

リスクの一部移転
債務者が債務不履行に陥った場合に、債権の全額が不履行になるとは限らず、多くの場合には、その一部についてのみ弁済が得られなくなるだけである。さらに、リスク移転の対象が、債務者を異にする複数の債権をプールしたもの(債権群)である場合には、債務不履行が生ずる可能性がある部分は小さく、大数の法則により予見可能となる。そこで、リスク保護の必要な債権あるいは債権群の一部についてのみリスク引受が行われることがある(例えば、20%であるとしよう)。

この場合に、債務者から一部弁済がなされたときに、リスク引受人の義務は、保証の場合と同様に、未弁済額がある限り存続すると解釈するのが当事者の意思に合致しよう(ただし、この点は、リスク引受人の義務内容に関わる重要な点であるので、契約で明確にしておくべきである)。これを前提にすると、保証やCDSによってリスク引受のなされていない部分は、債務者の財産からの回収が確実な限り、リスク引受のなされている部分よりも優先順位が高いことになる。そのためであろうか、この部分はスーバーシニアと呼ばれる。それが債権全体の70%から80%に及ぶ場合もあるようである。その場合に、債務者の弁済率が70%を下回ると、スーパーシニア部分にも回収不能リスクの高い部分が生ずる(例えば、債務者からの弁済率が70%であるとすると、債務者から弁済されない部分(30%)のうち、リスク移転契約よってカバーされない部分(30%−20%=10%)が回収不能になる)。スーパーシニアの語に惑わされないようにしなければならない。

リスク移転の階層化(順位化)
一つの債権ないし債権群全体についてリスク移転を行う場合でも、債務不履行が生ずる確率を考慮して、回収不能になる見込みが高い部分と低い部分とに切り分けて、回収不能となる確率の高い部分については、高いプレミアムを支払って、補填が確実に行われることを期待できるリスク移転(例えば、ファンド付のCDS、つまりシンセティックCDOによるリスク移転)を行い、その余の部分については補填の確実性がやや劣るリスク移転(例えば、ファンドなしのCDSによるリスク移転)ですませることもある。

リスク引受人が破産した場合の破産法上の取扱い
債権の帰属を変更することなく債務不履行のリスクを他に移転させる方法としては、前述のように、保証、保険及びCDSがある。CDSの内でここで取り上げる必要のあるのは、保証や保険とは異なる法的性質のものであるので、ここでは、次の2つを取り上げることにしよう:一つは、停止条件付金銭給付契約であり、他の一つは停止条件付債権買取契約である。これらの方法によりリスクを引き受けた者について破産手続が開始された場合に、債権者のリスク引受人に対する権利がどのように処遇されるかを概観しておこう。
  1. 保証  これには105条が適用される。債権者は、主債務者に対する債権額で破産手続に参加し、配当を受ける。配当がなされた限度で保証人の主債務者に対する事後求償権が発生し、これが破産財団に属する。
  2. 保険  これには保険法96条2項(商法旧651条)が適用され、遅くとも破産手続開始から3月を経過した時点で保険契約は効力を失う。それまでに保険事故が生ずれば、保険金請求権は破産債権となる。
  3. 停止条件付債権買取契約ないし債権買取予約  これには105条の適用はない。停止条件付債権買取契約及び買取予約(債権者に予約完結権を与える契約)は、買取義務者が破産手続開始決定を受けたことにより、履行不能となる。債権者は、そのことにより生ずる損害の賠償請求権を破産債権として行使することができるかが問題となるが、特段の合意がなければ、債権買取りの効力が生じた時点で代金債権が発生するにとどまり、損害賠償請求権は生じないと考えてよいであろう。債権者(債権の売主)は、将来の発生する債権買取代金債権を破産債権として行使することができる(103条4項)。債権買取予約にあっては、予約完結権の発生後に、それを行使するのが債権者にとって有利か否かは、状況に依存する。すなわち、債務者について破産手続が開始され、その後に買取義務者について破産手続が開始されたときに、債権者は、通常、債務者について破産手続が開始された時点(又は開始申立てがなされた時点)で発生した予約完結権を行使して、買取義務者に対して代金請求権を取得し、買取義務者の破産手続にその代金債権をもって参加することになろう;その場合に、債権者は、債務者の破産手続にはもはや参加できないので、予約完結権を行使するのがよかったか否かは、双方の破産手続における配当率に依存する。この点では、保証契約との差が大きい(保証契約の場合には、主債権者は、主債務者の破産手続にも、保証人の破産手続にも参加することができる)。
  4. 停止条件付金銭給付契約  別段の合意がなければ、債権者は停止条件付金銭給付請求権を破産債権として破産手続に参加することができる(104条3項)、最後配当の除斥期間の満了までに停止条件(クレジットイベント)が発生すれば配当に与かることができるが、そうでなければ配当から除斥される(198条2項)。 債務者Aについて破産手続が開始された後でリスク引受人Bについても破産手続が開始された場合に、債権者CがAの破産手続にも、Bの破産手続にも参加することができるかは、停止条件付金銭給付契約の内容に依存することになろう(「Cが停止条件付金銭給付請求権を行使する場合には、CのAに対する債権はBに移転する」との合意がなされていれば、CはAの破産手続に参加することができない)。

いずれの類型のリスク引受契約においても、(α)リスク引受料(プレミアム)が期間に応じて設定されているとみるべき場合には、契約が効力を失った後に未経過期間が残存するのであれば、その期間に対応する料金は不当利得として返還されるべきであり、その請求権は破産債権になる。また、(β)リスク引受人について破産手続が開始されたため、債権者が新たなリスク引受契約の締結することが必要になる場合に、その費用を契約の不履行による損害として賠償請求できるか、債権者はその賠償請求権を破産債権として行使することができるかは、個々のリスク引受契約ごとに検討されるべきである。特段の合意がなければ、賠償請求権を破産債権として行使することが肯定されるためには、54条1項の適用又は類推適用が肯定される場合であることが必要である。同項の適用・類推適用のない場合でも、破産債権である非金銭債権の特質を考慮して、非金銭債権の評価(103条2項1号イ)の一つの方法として、代替的契約をなすことの費用額をもって評価することも許されてよい。なお、(α)の不当利得は(β)の損害(代替的契約を締結する際に支払う必要のあるプレミアム)に含まれうるので、その限りで、両請求権は部分的に請求権競合の関係に立つ。なお、双務契約の相手方が履行済みのために、彼の破産者に対する履行請求権が破産債権になる場合とのバランスを考慮すると、(β)の損害(代替的契約費用相当額)の中には、契約締結のための交渉費用を含めるのは適当ではないであろう。

リスク引受人について破産手続の開始に至ることなく私的整理が行われるときには、多くの場合に、CDS契約の合意解除が必要になるものと予想され、そのための交渉が困難な仕事になるようである。

6.6 その他の保証類似行為

支払保証委託契約・保証引受契約
これは、債務者が、債権者に対して負っている債務について、受任者(金融機関等)に支払保証を委託する契約である。代表例は、訴訟費用の担保の提供方法として民事訴訟規則で規定されている「支払保証委託契約」である(民訴76条民訴規29条。その外に、民執15条民執規10条)。この名称は、「保証委託契約」と混同しやすい点で難あるが、「支払」の語が付加されていることにより十分区別できよう。債権法改正案では、「保証引受契約」と呼ばれている([内田*2009a]175頁)。

契約の特質・内容・効果 債権者は、受益の意思表示により、支払保証人に対して保証債権を取得する。この委託契約は、狭義の「第三者(債権者)のためにする契約」(民法537条)と異なり、次の点に特徴があり(特に1の特徴により)、広義の「第三者のためにする契約」に属する。
  1. 第三者(債権者)が受任者(保証人)に対して取得する権利(保証債権)を委任者(主債務者)が取得することはない。
  2. 第三者(債権者)が取得する権利(保証債権)は、第三者が委任者(主債務者)に対して有する債権(主債権=被保証債権)から分離して譲渡することができない。

さらに、民事訴訟法等で予定されている支払保証委託契約では、次のことが契約内容に含まれなけばならない。
支払保証委託契約・保証引受契約は、委任契約の一種であり、委託者(主債務者)又は受託者(保証人)が破産手続開始決定を受けることにより終了する(民法653条2号)。しかし、この終了の効果は既往には遡らず、債権者の保証債権はこれにより影響を受けないと解すべきである。この保証債権及び保証人の求償権の破産法上の取扱いは、保証委託契約及び保証契約が締結されている場合と同じである。

金額貸与の委任
内容  例えば、資金を必要とするAがBに融資を申し込んだところ、B自身は手許資金がないために、BがCにAへの融資を委任する場合に、その委任契約を「金額貸与の委任」という([寺田*1973a]2号196頁以下参照。ここで「金額」は、「一定金額の金銭」の意味であるから、「金銭貸与の委任」ということもできる)。CがAに融資した場合に、受任者が委任者に償還請求することができる費用となるのは、別段の合意がなければ、この委任契約の特質から、融資金そのものではなく、Aが弁済期に弁済しないことによりCに生ずる損失(その時点での未回収金額)となろう。A・B間では、通常、BがCに金額貸与の委任をすることの委任契約が締結されるが、その委任契約がないときは事務管理となろう。AがCに弁済をしないため、BがCに弁済をした場合には、BはAに対して求償することができ、この求償権は、この委任契約又は事務管理による費用償還請求権と位置づけられる。

歴史的にはこのような委任契約も行われていたようであり、債権者の担保保存義務(民法504条)の起源はこの契約にあると説明されている([寺田*1973a]2号22頁・48頁以下)。この種の委任契約は、現在ではあまり目にしないが、現在でも可能である。

破産手続における取扱い  Bについて破産手続が開始された場合に、104条1項の適用の有無が問題になる。金額貸与の委任も、保証契約そのものではないので、別段の合意がなければ、AがCに対して負う給付についてBがAの共同義務者になることはなく、104条1項の適用はないとしてよいであろう。Aについてのみ破産手続が開始された場合には、開始前の弁済及び破産配当により回収することができなかった不足額についてのみ、CはBに償還請求することができる。Bについてのみ破産手続が開始されれば、将来Aが弁済しないことにより生ずる費用の償還請求権のみが破産債権となるが、これは、将来の債権であり、Bの破産手続中にCのAに対する融資債権について弁済期が到来しなければ、この将来の債権(金額貸与の委任契約に基づく費用償還請求権)がBの破産手続における最後配当の除斥期間満了までに現在の債権になることはなく、したがって、これについて配当を受けることはできない(198条2項)。これを回避するためには、Cは、Aに対して融資する際に、「Bについて破産手続等の倒産手続が開始された場合には、Aは期限の利益を失う」との特約を入れておく必要がある。

信用補完契約(クレジット・サボート・アグリーメント(credit suppor tagreement))
内容 大企業(例えば自動車メーカ)が金融市場から多額の資金を調達する場合に、全額出資の金融子会社を設立して、その子会社に債券を発行させ、得られた資金をグループ内の会社(親会社や関連会社)に、あるいは販売金融として消費者に貸し付けるという方法を用いることがある。この場合に、子会社の信用補完のために、親会社が子会社と次の条項を含む合意をし、それをクレジット・サボート・アグリーメントと呼ぶことがある。ここでは、それを信用補完契約と訳しておこう。
  1. 親会社が金融子会社の株式の全部を保有し続けること(公権力により譲渡を命じられたという特別な場合は除かれる)。
  2. 子会社が手許資金・流動資産・クレジットコミットメントにより得られる資金で債券の償還をすることができないと見込まれる場合には、子会社は親会社に償還資金の提供を求めることができ、子会社は、親会社が提供した資金を償還のためにのみ用いること。
  3. 債券保有者も、一定の条件の下で、前記bの子会社への資金提供を親会社に対して直接求めることができる。
  4. 契約の解除は可能であるが、発行済み債券との関係では、その弁済が完了するまで解除の効力は生じない。
  5. この契約は、子会社によって発行される債券の保証ではなく、保証と解釈されてはならない。

この契約の機能は、支払保証委託契約ないし保証引受契約に類似する。ただし、保証契約の場合には、主債務者が履行期に債務を弁済にしない場合に初めて債権者は保証人に保証債務の履行を求めることができるのに対し、この信用補完契約では、履行期到来前に親会社に対して資金提供を請求でき、子会社が不履行に陥る事態を防止することができる点等に違いを見出すことができる。

破産手続における取扱い  子会社について破産手続が開始される場合には、それ以前において、親会社の資金提供義務は尽くされているはずであるので、子会社の破産管財人が親会社に対して資金提供を求めることはほとんど考えられないが、親会社自身についても破産手続開始されるような事態になれば、破産管財人が信用補完契約に基づいて資金提供を請求することができるかが問題になりうる。

)金融子会社が債券の発行により得た資金を親会社に貸し付けておらず、金融子会社が親会社に対して有する債権は、この信用補完契約に基づく資金提供請求権のみであるとしよう。子会社は、親会社から提供された資金を再び親会社に返還する義務を負うことになるから、信用補完契約は、破産手続開始時において双方未履行の双務契約である。親会社の破産管財人は、53条1項により契約を解除することができ、解除の効果は発行済み債券にも及ぶ。(α)これを保証契約との違いであるとして是認するか、それとも、(β)本質的な機能は保証引受契約と同一であるから、親会社の破産管財人は契約を解除することができないとするかが問題となる。

二つの選択肢のうちのどれを採るべきかを決定する前提として、後者の選択肢を採ると、どのようなことになるかを検討しよう。例えば、金融子会社が100億円の債券を発行していたとしよう。子会社の破産管財人は、親会社の破産手続おいて、100億円の資金提供を請求し、1割配当であるとすれば、10億円の償還用資金を得ることができる。この資金は、約定に従い特定の債券の償還のためにのみ用いられるべきであり、その他の破産債権への配当のために用いられるべきではない。親会社は、子会社の破産手続においてこの10億円の返還請求権を破産債権として行使することができるべきである(この返還請求を破産手続開始前に原因のある信用補完契約に基づく債権であると考えることができるかの問題が生ずるが、ここではそれを前提にする。信用補完契約を双方未履行の契約とみて、その履行が選択されたと考えれば、返還請求権は財団債権になるが、それでは、子会社の他の破産債権の負担において債券保有者が親会社から提供された資金により優先弁済を受けることになり、不当な結果が生ずる)。しかし、債券保有者は全額の満足を得ていないので、彼の破産債権は信用補完者の資金返還請求権に優先すべきであると考えられる(保証の場合であれば、104条2項の問題である)。そして、債券者が子会社の破産手続に参加すれば、親会社は資金返還請求権を行使することができないとしないと、子会社の債権者間の公平がとれない(保証の場合であれば、主債務者の一つの給付義務について、保証人が求償権を行使するとともに債権者が被保証債権を行使することはできないとの原則(104条3項ただし書)の問題になる)。債券保有者が子会社の破産手続に参加しない場合に、親会社が10億円の返還請求権を破産債権として行使し、その1割配当の場合であれば、1億円の配当を受けて、それが親会社の破産財団に属することになる。

上記の結果は、それ自体としてはそれほど問題はないが、信用補完契約の内容と整合するかは疑問である。信用補完契約においては、親会社について破産手続が開始された場合の処理については規定がないが、保証契約でないと明示されており、債券保有者が親会社に対して有する権利として明示されているのは、子会社への資金提供を求める権利であって、自己への支払を請求する権利ではない。親会社が破産手続開始後に提供した資金の返還請求権を破産債権とすることは、かなり特例的な取り扱いであろう。その点は別にしても、債券保有者が子会社の破産手続に参加している場合には、親会社の破産管財人は提供資金の返還請求権を破産債権として行使することができないという結果は、信用補完契約からは読み取れず、当事者の予期しない結果と言うべきである。また、債券保有者が子会社の破産手続に参加しない場合に、親会社の破産管財人は提供資金返還請求権を破産債権として行使することができるが、そうなると、親会社の破産手続は、子会社の破産手続において最後配当が行われるまで終了することはできないことになり、それが手続の渋滞の要因になる。信用補完契約の実質は保証引受契約であるとして、債券保有者に親会社の破産手続に直接参加することを認めれば、こうした問題は生じないが、しかし、これらの契約の違いに鑑みれば、信用補完契約の実質的機能は保証契約のそれに近いとはいえても、実質的に同一とまではいえない。したがって、上記の(β)の選択肢は、信用補完契約の内容と整合しないと考えるべきであり、(α)の選択肢をとるべきである。

(b)金融子会社が債券の発行により得た資金を親会社にのみ貸し付けている場合には、親会社に対する貸付金返還請求権を問題にすれば足りる。これに重ねて信用補完契約に基づく資金提供請求権を破産債権として行使できるとする必要はない。

位置付け  信用補完契約は、補完者に資力がある限り、保証契約よりも債権者にとって有利であるが、補完者について破産手続が開始される状況になれば、双方未履行の双務契約として破産管財人によって解除される結果、保証契約よりも債権者にとって不利であり、そのようなものとして保証契約とは異なる契約として独自の存在意義のある契約と考えるべきである。

その他の論点  (1)ここで取り上げている信用補完契約にあっては、その条項(c)により、親会社について倒産手続が開始されている場合は別として、そうでない限り、子会社が債券の償還をしないとき、債券保有者は親会社に対して償還用資金を子会社に提供することを請求する権利を有する。その点で、その条項は第三者のための契約である。債券保有者が有する請求権は、資金を自己に給付することを求める権利ではなく、債務者である子会社に給付することを求める請求権である。この点に迂遠さがあるが、契約の文言に素直に従う限り致し方ない。ただ、提供された資金が債券の償還以外の目的に使われることを阻止するためには、子会社が有する資金提供請求権を差し押さえて、その取り立てをする方がよいであろう。債券保有者以外の者は、この請求権を差し押さえて自己の債権の満足に宛てることはできない。それはこの請求権の目的に反するからである。(2)子会社の支払不能後・破産手続開始前に償還用資金が子会社に支払われた場合に、子会社がその資金を用いて債券保有者に弁済することは否認の対象にならないとしてよいであろう。この弁済と債務負担は、債務の内容(特に利息)が債務者に不利に変わるのでない限り、結局のところ、債務の借り換えだからである(不利に変更された場合には、当該部分のみを否認すれば足りよう)。(3)親会社が子会社に対して債務を負っている場合に、子会社の支払不能後・破産手続開始前に資金提供をしたことにより生ずる資金返還請求権を自働債権にして、子会社の親会社に対する債権と相殺することも、72条2項3号又は4号により許容される(72条1項2号・3号の適用を受けない)。(4)親会社から子会社に償還用資金が提供される前に子会社について破産手続が開始され、親会社については破産手続が開始されないという事態は、ほとんど生じないとは思われるが、それでも検討しておくべきである。この場合でも、親会社が子会社に対して債務を負っていなければ(つまり相殺の問題が生じなければ)、親会社から提供された資金はその目的に従い債券の弁済にのみ用いられるべきである。この結論を正当化するためには、親会社が取得する資金返還請求権は、破産債権としなければならない。信用補完契約を双方未履行の双務契約とみた場合には、破産管財人がその履行を選択したときに相手方に生ずる債権は財団債権になるのが本来であるが(148条1項7号)、これは、未履行契約の履行が破産債権者全体の利益になる場合の規定であり、特定の債権者のために履行が選択される場合には、別段の配慮が必要であり、今問題にしている場合については、破産債権にしかならないとすべきである。そのように解すれば、債権者が債券保有者から親会社に入れ替わることにより他の破産債権者が悪影響を受けることはない。もっとも、破産管財人が特定の債権者のために職務をする必要があるのかいう問題が生じよう(特に親会社が任意に弁済しない場合に、訴訟を追行すべきかの問題が生じよう)。償還用資金の提供請求権を債券保有者に譲渡すること(債券保有者のために破産財団から放棄すること)も許すべきであろう。ただ、ここまで来ると、子会社についてのみ破産手続が開始された場合には、信用補完契約に基づく親会社の償還用資金提供義務は、債券買取義務に転化するとする方が単純である。しかし、契約の文言はそこまで踏み切ることをためらわせる。なお、信用補完契約には、子会社について破産手続が開始された場合には信用補完をしない旨の文言はなく、その旨の主張は許されない(明文の合意なしに、そのようなことを主張することは、欺瞞的である。信用補完契約は保証契約ではないことを強調する条項がおかれているが、子会社について破産手続が開始された場合には信用補完をしない旨の文言はない)。(5)親会社が子会社に対して債務を負っている場合には、親会社が子会社に提供した資金の返還請求とこの債務とを相殺することができるかが問題となる。親会社の債権は、破産手続開始前に締結された信用補完契約に基づく債権であり、破産債権であるとみれば、これを自働債権として、子会社の親会社に対する債権を受働債権とする相殺が許される。しかし、これは、破産財団に属する親会社に対する債権の換価金から債券保有者のみが満足を得るのと同じ結果になるので、債券保有者以外の破産債権者には非常に不利なことである。しかし、同様なことは、受託保証人が破産者に対して債務を負っている場合に、受託保証人が主債権者に債務を弁済した後で、保証委託契約に基づく事後求償権を自働債権として相殺する場合にも生ずることであり、許容してよいであろう。この点では、信用補完契約は、保証契約に近い。

その他
企業の金融取引においては、親会社が子会社・関連会社の信用補完のために様々な書面を作成し、関係人に交付することがあり、その法的な意味が問題となる。代表的類型として、次のものがある([若松*2002a]12頁参照)。
これらの合意ないし契約は、正規の保証契約の代替手段の面がある。すなわち、保証契約が締結された場合には、保証債務は偶発債務(主債務者が債務を履行しない場合に現実化する債務)であるので、直ちには貸借対照表に負債として記載する必要はないが、注記しなければならない(企業会計原則「第3 貸借対照表原則」1C)。発生の可能性の高いものについては(かつそれのみについて)引当金を計上する(企業会計原則注解第18。これらの資料は、オンライン企業会計原則-So-netに掲載されている)。そのため、債務者の親会社に保証契約の締結を回避しようとする圧力が生じ、このことが上記の代替手段を採る一つの要因となる。いわば、姑息な代替手段であり、親会社について破産手続が開始されたときに、貸借対照表に注記されていないもの(開示されていないもの)が保証と同等の効力を有する契約として突如浮上して、破産債権を増加させたり、あるいは財団所属債権との相殺により破産財団を窮乏化することを認めることは許されないとの議論も出てきやすい。しかし、まずは当事者間における契約の効力を定め、その効力に従って貸借対照表に注記すべきか否かを論定すべきである。

保証予約にもさまざまな類型が考えられるが、主として会計上の理由(保証人となるべき者の財務諸表に開示することを避ける目的)で利用されてきたものであるが、破産法上は保証契約と同様に扱ってよい(したがつて貸借対照表に注記すべきであろう)。なぜなら、
経営指導念書や与信念書が保証と同等の効力を持つか否かは、個々の事件における意思表示の解釈の問題となる。特定の融資案件について作成されたこれらの書面は、保証と同様な効力(経営指導念書にあっては、監督義務)が認められる場合もあろうし(親会社と子会社間で締結された経営指導念書は、一種の第三者のための契約となる)、否定される場合もあろう。

6.7 無限責任員の破産と法人の債権者(106条

法人の債務について無限責任を負う構成員を「無限責任員」と呼ぶことにしよう。典型的には、合名会社や合資会社の無限責任社員がこれにあたる。無限責任員は、法人の全債務について弁済責任を負い(無限責任社員について会社法580条1項[78])、保証人と同じ地位にある。法人の債権者は、無限責任員の破産手続に、手続開始時の債権額でもって、参加することができる(106条)[CL10]。内部的な損失分担を超えて法人の債権者に配当がなされた場合には、無限責任員(破産者)はその額につき、他の責任員に対して求償権を有する。また、法人自体に対して求償権を有するとともに、債権者が有していた権利を代位取得する(民法500条・501条)。これらは、破産財団に属する財産として、破産管財人が行使する。

持分を譲渡した無限責任社員は、その旨の登記前に生じた会社債務について無限責任を負い(会社法588条1項)、その限度で破産法106条の適用を受ける。

合名会社や合資会社の無限責任社員について破産手続が開始されると、彼は退社する(会社法607条1項5号(ただし2項に注意))。彼は法人に対して持分払戻請求権を有し(会社法611条)、これは、破産財団に属する財産として、破産管財人が行使する。会社以外の法人の無限責任員についても、別段の定めがなければ、同様である。

6.8 有限責任員の破産と法人の債権者(107条

法人の債務について有限責任を負う構成員を「有限責任員」と呼ぶことにしよう。典型的には、合資会社や合同会社の有限責任社員がこれにあたる。一般に、有限責任員も、未履行の出資義務の範囲で、法人債権者に対して直接に責任を負っていると理解されている(会社法580条2項)。しかし、法人債権者が有限責任員の破産手続に直接参加すると、破産手続が複雑となる。そこで、法人債権者の権利行使を認めないこととし、その代わり、法人が未履行の出資義務の履行を求め、これにより法人財産を充実させて法人債務の弁済を確実にすることとされた(有限責任員の法人債権者に対する責任の間接化)。

会社について破産手続開始原因が存在しない場合について考えてみよう。破産手続が開始された有限責任社員が会社を退社するときは(会社法607条1項5号。2項に注意)、当該有限責任社員は、持分の払戻を受けることができる(会社法611条1項)。払戻請求権が現実に発生するか否かは、会社の財産状態に依存するが、債務超過でないことを前提にすれば、通常は払戻請求権が発生し、払戻が金銭によりなされることを前提すると(会社法611条3項)、これと会社が有する出資請求権とは相殺可能である。会社が極めて健全であり、会社に未払債務がない場合、すなわち会社債権者が存在しないには、会社財産の充実の問題は生じないが、それでも、出資請求権があれば行使され、それと持分支払請求権とが相殺されることになる。

会社が債務超過の状態にある場合には、早晩、会社についても破産手続が開始されることになるが、開始されているか否かにかかわらず持分払戻請求権は無価値であり、出資請求権と持分払戻請求権との相殺の問題は生じない。会社(又はその破産管財人)により出資請求権があれば行使され、会社財産の充実が図られる。

6.9 プロジェクト・ファイナンスにおける責任制限

リスクの大きい事業については、事業主体の負担を軽減するために、責任財産を当該事業のための特別財産(当該事業に用いられる財産、当該事業から得られる財産等)に限定した資金調達が行われることがある。プロジェクト・ファイナンスと呼ばれるものである([若松*2002a]参照[23])。

)責任限定を確実にするために、次のような措置がとられることがある。
  1. 当該事業のために別会社を設立する方法。その会社への融資契約において、設立母体たる会社の責任を追及しない旨の条項が挿入されることがある(融資者が事業リスクが大きく、設立母体会社による債務保証が必要であると判断すれば、その旨を明文化する必要がある)。
  2. 当該事業に用いられる財産を信託宣言(自己信託)により信託財産とし(信託法2条2項3号・3条3項)、かつ、責任限定信託(同法216条以下)とする方法。事業主体は、受託者として、(必要であれば、信託財産に担保権を設定して)融資を受け、信託財産からの収益を弁済に充てることになる。この場合には、事業主体が受託者として引き続き自己の名においてプロジェクトを進めることができる。責任限定信託とすることは、プロジェクトの失敗から事業主体(の他の事業)を保護するためである。その前提として、自己信託によりプロジェクトを構成する財産を信託財産とする必要がある。自己信託は、この前提を満たす点に意味があると同時に、事業主体(受託者)の倒産からプロジェクト用財産を隔離する効果も有する(担保権設定の必要性が低下する)。受託者は、受益権の全部を1年以上保有することはできないので(同法163条3号)、受益権の全部又は一部を他に譲渡することになるが、その代金をもって資金を調達することもできる(信託宣言により自益信託を成立させることことについては異論が多いので、可能な限り早い段階で共同受益者を作出すべきである)。

)上記のような措置をとらない場合には、事業主体たる会社は、≪当該事業への融資者が会社の他の財産から弁済を得ることができないこと≫を特約により明確にしておく必要がある(融資契約において、責任財産を限定する旨の特約で足りと思われるが、念のために、責任財産から弁済を受けることができなかった残債権を放棄する旨の特約を付しておく方が確実である)。当該事業が失敗した場合には、当該特別財産の任意清算となる。ただ、事業主体たる会社自体が破産した場合には、他の一般債権者は、当該事業のための特別財産からも弁済を得ることができるので、プロジェクト・ファイナンスの融資者は、その財産に担保権の設定を受けて、優先権を確保しておく必要がある。

6.10 余談−信用膨張と信用リスク移転契約

信用リスク移転契約も、経済社会の中の一つの道具であり、それ自体が社会全体の信用を膨張させる自動装置になるというわけではない。例えば、銀行の子会社が銀行の貸出債権(例えば住宅ローン)の保証を行う場合には、当該子会社(信用保証会社)の実質的な機能は、任意の履行がなされなくなったローンを法的手段を用いて回収することとみてよい。そこには、銀行の社会的好感度を保つために、債権回収という泥臭い業務を銀行の外に出すと共に、銀行退職者の受皿を用意するという意味合いさえある。そのような機能を有する信用保証会社への信用リスクの移転が信用膨張の道具となるという事態は、あまり考えられない。

しかし、道具は、使い方により利器にも凶器にもなる。このことは、信用リスク移転契約にも妥当する。金銭債権の債務不履行のリスクを最も把握しやすい立場にある者は、通常、原債権者である。したがって、金銭債権のリスクの移転は、リスク発生の具体的事情を知る者から知らない者への移転となり、そこに過大なリスク引受けの要因がある。原債権者以外の者による過大なリスク引受けは、原債権者による過剰融資の原因となり、社会全体における信用膨張となる。それは、
新種のリスク移転契約に潜むこの危険性に人々が慣れていない場合には、リスク移転契約がバブルを促進する機能を果たすことに注意する必要がある。2006年に崩壊が始まったアメリカの住宅バブルは、住宅取得者への過剰な信用供与が原因となっており、クレジットバブルと呼ばれることもある。バブルの生成(クレジットの膨張)には、新種の信用リスク移転契約が大きな役割を果たしていた。バブルの舞台装置として、次の2つを指摘することができよう。

)信用保証は、保証料が一定期間ごとに分割して支払われる限り、現実に発生する債務不履行による損失(立替払金と抵当権の実行等による回収金との差額)と保証料とのバランスを比較的安定的に保つことができ、ある時期に多くの信用保証を行うことが会社に多くの収益をもたらすというわけではなかろう。しかし、保証期間全体にわたる保証料の半額を契約締結時に前払させる保証契約と、前払された保証料を契約締結期の収益に計上する会計制度と、その収益が直接に担当者の報酬に反映されるような報酬体系を採用している会社にあっては、担当者は、信用リスクを十分に吟味することなくできるだけ多くの保証契約を締結する誘惑に駆られる。

)そして、原債権者が自己の融資した債権を信用保証付で売却することにより融資の原資を回収することができるようになると、信用膨張の社会的危険はさらに高まる。すなわち、住宅ローンのような長期の融資を実行した原債権者が債権を転売することなく保有して、分割弁済により順次回収される資金を次の融資にあてるという場合には、信用膨張のリスクは小さい(例えば、ある時に10億円の資金を用いて、1億円づつ10年間貸し付ける融資を10件行う場合には、次の融資は、1年後に回収した1億円で1件できるだけである)。しかし、貸付業者が融資債権を信用保証付で売却して資金を回収することができるようになれば、1件1億円の融資を10件行い、それを1月後に全部売却して次の10件の融資を行うことも可能となる。売却を容易にするためには、高利の融資を行う必要があり、高利の融資を利用する者は資力が乏しいのが通常であるが、担保となる不動産の価格が上昇期にある間は、名の通った会社の格付と信用保証があれば、債務者の信用力が乏しいことは陰に隠れ、融資債権は容易に売却できる。この債権売却による融資の回転が高速度で行われ、しだいに適当な融資先を見いだすことが難しくなり、最終段階では、返済能力が極めて乏しい者を対象に、高金利と引換えに当初の数年間の弁済を猶予するという条件で融資するところまで行った。いわゆるサブプライムローンである。融資を実行する者には、その融資のリスクはわかっている。しかし、債権買取りの形でリスクを引き受ける者には、それがわからない。リスクの階層化によりスーパーシニアなどという名が付されれば、危険性はますますわからなくなる。こうして、異常なまでに信用が膨張し、そして崩壊した。信用バブルの崩壊が最高潮に達したのが2008年のリーマンショックであった。

プロテクションの売手の財産的危機  CDSにあっては、クレジットイベントが発生した場合に、プロテクションの売手が所定の義務を履行するかは、彼の財産状況に依存する。売手自体が破産すれば、プロテクションは、無価値になる。プロテクションの買手は、この点の危険を回避する必要がある。そのために、プロテクションの売手(例えば2008年の金融危機の中心の一つとなったAIGのような保険会社)の株価が一定の水準を下回れば、売手は参照債務に相当する額の担保を買手に提供しなければならない旨の特約が結ばれていることがある。ここにも、大きな危険が潜んでいる。

)景気循環  プロテクションの買手が支払うべきプレミアムのかなりの部分は、CDS契約時に売手にまとめて支払われる。一括して支払われたプレミアムが、その時点で売手の収益に計上されるような会計処理がなされ、それが従業員の業績給に反映されるような給与制度が採用されている場合には、プロテクションの売手の従業員には、できるだけ多くのプロテクションを販売しようとする誘因が働く。好景気のときには、通常、CDS取引の参照債務の格付けが高いので、従業員は、大量のプロテクションを売却して多くの利益を計上し、多くの給与を得ようとする。優良な保険会社がプロテクションの売手となっているCDSによって保護されている債券は安心して買われるので、これにより、さらに信用が膨張する。例えば、多くの人が金融機関から融資を受けて不動産等を購入し、その貸付金債権を証券化した金融商品が再びプロテクション付きで売却され、その売却代金が再び融資に回されるという形で、CDSが景気の高進に寄与する。しかし、好景気が永遠に続くことはない。例えば、優良債務者がこれ以上融資を受けて不動産等を買うつもりはないというほどに融資が行き渡った後で収入の乏しい債務者に不動産等の購入資金が融資されるようになると、融資の焦げ付きが目立つとともに、不動産等の価格の上昇も止まる。その頃には、好景気の間に拡大した供給力よりも需要の方が小さくなり、景気後退になる。

)プロテクションの売手の危機  景気が後退してクレジットイベントが多発すると、プロテクションの売手(A)の経営危機が噂されるようになる。その内情(株価が下落すれば担保提供義務が生じ、それを履行できなくなればデフォルトになること)をよく知っているプロテクションの買手は、Aを参照債務者とするプロテクションをBから購入した上で、Aの株式を大量に空売りしてその株価を下げ、A社の資力を超える担保提供義務を発生させて、A社を倒産に追い込むことができる。これにより、A社の株の空売りから利益を得ることができるとともに、B社から約定の金銭を得ることができ、場合によればB社も倒産に追い込むことがでる。それを見込んでB社の株式を空売りしておけば、これからも利益を得ることができる。実際には、このシナリオ通りには行かないであろうが、ただ、最初のプロテクションの売手であるA社が破産寸前に追い込まれることは、実際にある。

)評価  このように、CDSは、リスク管理を一歩誤ると、信用を過度に膨張させ、そして、プロテクションの売手を破綻に追い込み、その売手を参照債務者とするCDS契約のプロテクションの売手をさらに破綻に追い込むという危険性がある。各自が自己の利益を追求するために契約を自由にできることは、自由主義社会の重要な基本原則であるが、しかし、自由に締結された契約の全てが社会の進歩に役立つわけではない。社会の進歩、人々の幸福につながらない契約は、制限されるべきである。典型例は、賭博契約である。CDSの社会的有用性は、どの範囲で認められるか。それが問題である。

プロテクションへの投資(リスクの投資)
ある参照法人について倒産処理手続が開始されることをクレジット・イベントとする期間5年、想定元本100億円のCDS契約を考えてみよう。議論を単純にするために、プレミアム(保証料)を年1%とし、5年間のプレミアム5億円全額が前払が合意され、その支払がなされたものとしよう。また、プロテクションの買手が参照法人に対して債権等を有していることは必要でなく、かつ、プロテクションの買手の地位を自由に譲渡できるものとしよう。このCDS契約は、停止条件付金銭給付契約であり、プロテクションの買手の地位は、譲渡可能な停止条件付金銭債権を有する者の地位となる。この債権を用いて利益を挙げる方法は、いくつか考えられる。
他にも利用の方法はあるのであろうが、ともあれ、このように参照法人の信用リスクが変動することによりプロテクションの価格が変動することを利用して、収益をあげることができるので、「プロテクションへの投資」が話題になることがある。時には、「リスクへの投資」と言われることもある。その趣旨は、次の点にある([ピムコ*2007b]がわかりやすい):債券投資は、本来的に、発行主体の倒産のリスクをともなう;そのリスクにあわせて利息を徴収することができるように、倒産リスクにあわせてプロテクションのプレミアムが決定されるのであるから、ある参照法人についてプレミアムを受け取ってプロテクションを売ることは、当該法人の債券に投資することに類似する。換言すれば、純粋に投資の視点から見れば、通常の債券投資では、投資家は、最初に債券発行主体に債券購入代金を支払うことによりリスクを買い、リスクに見合った利息を受け取り、リスクが現実にならなければ、最後に元本額の返還を受けるが(元本額については、損得なし)、リスクが現実化すれば、返還を受けることができないという形で損失を負う;CDSによるリスクの投資は、最初の債券購入代金の支払を省いたものであり、リスクが現実化すれば、プロテクションの買手に元本相当額を支払うことにより損失を負うことになる;両者の違いはこの損失の負いかたに現れるが、リスクに見合った利息ないしプレミアムを受領するという点で類似性がある。


7 別除権者・準別除権者の手続参加


7.1 別除権者の手続参加−不足額主義(108条

破産者が担保物の所有者であると同時に被担保債権の債務者である場合には、担保権者は破産債権者の地位も有する。そして、破産債権者は破産手続開始時の債権額を基準にして破産手続に参加することができるとの原則をそのまま適用すると、破産手続開始後における担保権行使による満足を考慮することなく配当を受けることになる。しかし、それでは、破産財団所属財産たる担保物から一般債権者を排除して優先的に満足を受ける地位を保障されつつ、さらに一般財産から配当を受けることになり、一般破産債権者との公平を欠く。そこで、担保権者は、まず担保権を行使して優先的満足を受けた後に、なお不足額(未弁済額)がある場合に、その不足額を基準にして配当にあずかるべきものとされている(108条民法394条・341条・361条も参照)。

7.2 準別除権(108条2項)

債権者が破産財団所属財産以外の債務者の財産から弁済を得る権利を有する場合には、その権利は別除権ではないが、不足額主義を適用することが他の債権者との公平に合致する。そこで破産法は、次の2つの場合の債権者を準別除権者と呼び(111条3項かっこ書)、これにも不足額主義を適用すべきものとした(108条2項)。

その1 自由財産上の担保(2項前段)
破産者←─────────債権者
      |
      |担保権(準別除権)
      ↓
   破産者の自由財産

その2 最初の破産手続終了前に再度破産した場合(2項後段)
第1破産の財団←─────────第1破産の債権者
                |(第1破産前
    ┌───────────┘ からの債権者)
    |
    ↓
第2破産の財団←─────────第2破産の債権者
                (正確には、第1破産と
                 第2破産との間の債権者)
この場合には、第1破産の債権者は第1破産手続の終結前に第2破産手続に届出をなし得ることが前提になっている。これは(広い意味で)100条の例外と見ることができる。

7.3 不足額主義の拡張の可能性


受託保証人が主債務者の不動産上に求償権を被担保債権とする抵当権を得ていて、主債権者自身は担保権を有していない場合を考えてみよう。保証人が有する担保権は別除権であり、その被担保債権に不足額主義が適用されることは明らかである。他方、主債権について不足額主義の適用があるかは微妙である。不足額主義の適用がないとすると、次のような問題が生じよう。

)まず主債権者が破産手続開始当時の残存債権1000万円で破産手続に参加して、例えば10%配当を受けると、100万円の配当を得ることになる。保証人は、この破産手続には参加することができない(104条3項ただし書・4項)。主債権者が残りの900万円について保証人から弁済を受けたしよう。その後に保証人が抵当権を実行して、600万円を回収することができたとすると、300万円が未回収の求償債権となる。

)他方、主債権者が破産手続に参加することなく保証人から1000万円の弁済を受けると、保証人は、1000万円の求償権を取得し、かつ、主債権を代位取得し、保証人は破産手続に参加することができる。保証人が求償権でもって破産手続に参加する場合には、彼は別除権を有するので不足額主義が適用され、抵当権を実行して600万円を回収し、不足額の400万円を基準にして配当を受けることになる。配当率は他の破産債権の金額に影響されるが、(a)の場合と比較すると、1000万円の主債権に代えて、400万円の求償権が破産債権として行使されるのであるから、配当率は、(a)の場合(配当率10%を仮定している)を上回る。それを仮に12%としよう。すると、彼は、48万円の配当を受ける。最終的な彼の損失は、400万円−48万円=352万円である。

上記の(a)の場合と(b)の場合における保証人の損失額の差額52万円は、結局のところ、(a)の場合に他の破産債権者の受ける不利益であると言うことができる。この不利益は、(a)の場合に不足額主義が適用されないことから生ずるものである。他の破産債権者との関係では、主債権者と保証人とは一体的に考えて、求償権と同様に主債権も実質的には破産者の財産上の担保権により担保されていると評価してよい。したがって、(a)の場合にも不足額主義の適用の道を開くべきである。そのための方法として、次の2つが考えられる。

8 破産手続外での破産者の財産からの弁済受領


8.1 外国で弁済を受けた破産債権者の手続参加(109条

破産事件に関する日本の裁判所の国際管轄権は、債務者が日本に営業所、事務所、住所、居所、財産を有する場合に限られる(4条1項)。したがって、日本の裁判所により選任された破産管財人が破産者の在外財産に対して管理・処分権を行使することは、当該外国において承認される可能性が高い。しかし、常に承認されるというわけではない。そのため、日本の破産管財人が管理処分することのない在外財産から、破産手続開始後に、破産債権者が任意に又は当該外国の執行手続若しくは倒産処理手続により弁済を受ける場合がある。

その弁済を受けた場合でも、破産債権者は、日本での破産手続開始後の外国での弁済額を控除することなく、日本における破産手続開始当時の債権額で破産手続に参加することができる(その債権額を破産債権額として届け出ることができる)(109条)。

しかし、議決権の行使や配当との関係では、他の破産債権者に比して有利にならないように、外国での弁済受領額が考慮される。すなわち、

8.2 自由財産からの任意弁済の受領

前述のように、破産者が破産手続中にその自由財産から特定の破産債権者に任意弁済することは許容されるが、その場合に、その任意弁済額を配当手続においてどのように考慮すべきかが問題となる。(α)弁済額を控除した金額を破産債権額とすることも考えられるが、これでは破産債権額が手続中に変動することになり、おそらく手続が不安定になろう。むしろ、(β109条201条4項・209条3項を類推適用する方が簡明と思われる。ただし、(γ)破産者の意思は当該破産債権者に迅速により多く弁済したい点にあると考え、その意思を尊重するならば、破産手続中の任意弁済は、破産手続後の任意弁済と同様に、配当額に影響を与えないとすることも考えられる。

迷うところであるが、破産者の意思を尊重して、(γ)の選択肢を採るべきであろう。ただし、破産手続中における破産債権者の平等を重視して、(β)の選択肢をとることも有力な選択肢であり、その場合には、自由財産からの任意弁済と破産配当の合計額の破産債権に対する比率(総弁済率)が他の破産債権者の配当率を超えることになっても、配当金も任意弁済額も、破産財団に償還する必要はないとすべきである。その限りで、破産者の任意弁済の意思を尊重すべきであると考えたい(破産者がいつ任意弁済するかによって最終的な結果が異なることになるが、やむを得ないであろう)。


9 代理委員




練習問題




破産債権は、破産手続が行われている間、権利行使の面でどのような制限を受けるか。

破産債権となるのは、どのような債権か。

債務者が破産した場合に、債権者はどのように権利を行使すべきか。
[栗田隆のホーム]

Author: 栗田 隆
1996年3月20日−2005年10月5日−2015年9月0日