目次文献略語


民事執行法概説

民事執行の概略


関西大学法学部教授
栗田 隆


1 信用秩序の基盤としての民事執行法



2 民事執行の4つの形態と執行機関


文 献

4つの形態
民事執行法では、義務者あるいは財産所有者の意思を抑圧して権利の強制的実現を図るための手続として、次の2つが規定されている。

そのほかに、私法の領域では、共有物の分割の場合のように、物を公正な価格で売却することが必要なことがある。この競売は、金銭債権の強制的実現のためのものではないが、民事執行法所定の売却手続はこの要請にも応えることができる。そこで、この要請に応えるために、次の手続が規定され、これも民事執行の一つの形態と位置づけられている(法1条)。

また、金銭債権の実現のための強制執行を実効性の高いものにするためには、その満足に充てられるべき財産(責任財産)の発見が必要である。それは、従来執行債権者が自己の負担でなすべきものとされていたが、実際上さまざまな困難があったので、平成15年の改正で、責任財産発見を支援するために、次の手続が用意された。

執行機関2条167条の2
上記の各種類の民事執行について、それを担当する国家機関あるいは執行処分を行う国家機関を執行機関という(前者は2条に、後者は3条に即した表現である)。これには、次の3つがあり、それぞれ法令で定められた種類の執行について、債権者からの申立てを受けて実施する(2条・167条の2第1項)。

執行裁判所
民事執行は、国民の一人である債務者の生活領域への侵害を伴うので、法律の定めるところに従って適正に行われなければならない。そのため、裁判所が執行機関となる執行以外についても、裁判所の関与が必要となる。そこで、民事執行法は、執行裁判所の概念を設け、これにさまざな役割を与えている。その主要な役割は、次のことである:(α)裁判所が執行機関として定められている執行について、みずから執行機関として執行処分を行うこと;(β)執行官・裁判所書記官が執行機関である執行について、執行官・裁判所書記官を監督し、それらの者がする執行処分あるいはその遅怠に対する執行異議について裁判すること(3条11条1項、167条の3167条の4第2項等)。「執行裁判所」は、この2つの役割を含んだ概念であるが、裁判所が一方の役割を果たすだけの場合でも、執行裁判所と呼ばれる(例えば44条)。

執行裁判所の語は、官署としての裁判所の意味でも(44条90条2項・167条の3など)、事件を担当する特定の裁判官から構成される執行機関あるいは裁判機関の意味でも使われる(4条・5条・11条・など)。もっとも、民事執行事件については口頭弁論を経ることは必要的ではなく(民執法4条)、執行機関あるいは裁判機関を構成する裁判官が交替しても、おおむね新裁判官が事件記録を閲読することで足り、弁論の更新(民訴249条2項・3項)は必要ない(もちろん、記録の閲読だけでは不十分であるならば、新裁判官は利害関係人や参考人を審尋する(5条))。そのため、両者の区別にあまり神経質になる必要はない[4]。

執行共助機関
不動産の強制競売の手続などは、権利関係が不動産登記簿に公示されている関係で、デスクワーク中心に進めることができ、裁判所が執行機関(執行を主宰する機関)となるが、デスクワークだけで全てを処理することができるわけではない。財産の所在する現場に赴く必要がある事項もいくつかある。例えば、不動産の現在の状況を調査する現況調査(57条)がそうであり、これについては執行官に協力(共助)を求めることになる。この場合の執行官の位置付けは、執行機関としての裁判所を共助する機関(共助機関)である。不動産の売却の実施も同様に執行官が行う[6]。また、不動産の評価は、不動産の評価について専門的知識を有する者(通常は不動産鑑定士)に評価を依頼することになる。

一つの手続の分担(執行官から裁判所への連係)
一つの執行については、一つの執行機関が手続の最初から最後までを担当(主宰)するのが通常であるが、最初は執行官が担当し、次に裁判所が担当する場合もある。例えば、動産執行については、債権者の申立てを受けて差押え・換価までは執行官が担当するが、換価金を債権者に与える段階については、執行官が担当するとは限らない。(α)複数の債権者に売得金を配当する必要がある場合に、債権者間で配当について協議が成立しないときは、配当をめぐる争いを適正に解決するために、裁判所が配当を実施し、(β)それ以外の場合には執行官が配当等を行うものとされている(139条・142条)。(α)の場合には、執行官が手続の前半を担当し、執行裁判所が後半を担当するという連係プレーになる。

手続の分離
不動産の競売では、執行機関である裁判所が売却不動産の引渡しまで行うのが本来であるが、前述の裁判所の特質をも考慮すると、不動産の引渡しは、競売手続の外に置く方が手続の整理がしやすい。そこで、不動産の引渡しのための強制執行に必要な引渡命令を発するところまでを競売手続に取り込み、その引渡命令に基づく明渡執行の手続は、競売手続から分離されており、後者の執行機関は執行官である(所有権移転登記は、競売手続内で裁判所書記官による嘱託の方法で行われる(82条1項))。

執行官制度
執行官の組織上の地位は、長い歴史の中でさまざまな制度改革を経て、現在では、手数料を主たる収入源とする公務員という地位に落ち着いている。しかし、国際的に見れば、執行官またはこれに相当する執行担当者の組織上の地位は、様々である。ドイツでは、執行官の権限を民間人に与え、民間人が公的な監督の下でこれを行使するという改革モデル(「権限委任」型の改革モデル)の実現が試みられているとのことである([柳沢*2008a]等参照[CL1])。

民事執行の刑法的保護
執行の現場は、債権者と債務者の利害が激しく対立する修羅場である。少なからぬ債務者が、手段を選ばずに執行による苦痛から逃れようとする。極端な例をあげれば、競売により売却された建物の明渡強制執行の際には、債務者が白刃を振りかざして、執行官に同行してきた債権者に襲いかかったり、絶望した債務者が建物に灯油をまいて焼身自殺を図ることもある。巧妙な債務者は、暴力団と結託して競売を妨害したり、場合によれば、暴力団員が債務者に少額の金銭を渡して建物を賃借した外観を整えて、債権者に高額の立退料を要求したり、買い手が付かないようにして仲間が安価で買い受けることができるようにすることもある。

こうしたことを防ぐために、民事執行法は、債権者に様々な法的手段を用意しているが、しかし、それだけでは十分とは言えない。信用秩序の法的基盤である民事執行制度の機能を維持するためには、刑罰法規による保護も欠くことができない。民事執行法204条以下の規定の外に、刑法にも民事執行の保護に資する規定が多数ある。主だった規定として、次のものがある。なお、刑法96条の2以下にいう「強制執行」には,民事執行法1条所定の「担保権の実行としての競売」が含まれる(平成23年改正前の96条の2についての先例であるが、最高裁判所 平成2年7月14日 第1小法廷 判決(平成19年(あ)第2355号)参照)。


3 強制執行の概略


「狭義の執行」と「広義の執行」
権利の実現のために執行機関の関与する執行手続が規定されていて、その規定にしたがって執行がなされる場合に、それを狭義の執行という。金銭執行や代替執行あるいは間接強制は、狭義の執行に属する。

離婚判決は、その確定により離婚(夫婦関係の消滅)という法律効果が生ずる形成判決である。離婚判決を提出してする離婚の届出は、報告的届出に過ぎない。しかし、この届出をすることにより初めて戸籍が改められるのであり、離婚判決によって生ずべき法律状態はこの戸籍の改編まで進まないと実現されない。しかし、そこには、民事執行法所定の執行機関が関与する執行手続はない。このように、判決によって実現されるべき法律状態が執行手続によらずに実現される場合に、それを広義の執行という(この言葉の定義上「広義の執行」は「狭義の執行」を含まず、両者は排斥関係にある。ただし、前者が後者を包摂するように定義する立場もある)。

「広義の執行」の一種としての意思表示の擬制
土地の売主に対して、買主への所有権移転登記手続に協力することを命ずる判決は、共同申請主義(不登法60条)の下で、登記義務者としてなすべき申請の意思表示をせよという内容の給付判決である(これが、民事執行法の立場からの理解である。金銭の給付と登記申請との引換給付を命ずる判決については、、民執法174条1項ただし書・2項を適用する必要があるので、そのように理解するのが正しい。しかし、民法の研究者の中には、不登法63条1項が判決による単独申請を認めているから、登記義務者の登記申請の意思表示は必要なく、したがって、登記手続を命ずる判決は意思表示(登記申請)を命ずるものではないとの理解を示す者もある)。

登記申請を命ずる判決を代表とする意思表示を命ずる判決等については、命じられた意思表示を債務者に実際にさせるのは迂遠であり、当該判決の確定あるいは裁判上の和解等の債務名義が成立したときに、その意思表示があったものと擬制し、権利者がその判決等を意思表示の名宛人に提出することにより意思表示が到達したとする方が簡明である。意思表示を命ずる判決の執行は、このように意思表示の擬制によりなされる(民執法174条1項本文)。ただし、債務者の意思表示が債権者の証明すべき事実の到来にかかるとき(例えば、代金の支払と引換に登記申請をすべきとき)、あるいは、債務者の証明すべき事実が存在しないことにかかるとき(例えば、≪債務の弁済を一回でも怠れば債務者所有の不動産の所有権が債権者に移転する≫旨の合意に基づき所有権移転登記の申請をすべきとき)には、執行文の付与の時に意思表示が擬制される。

いずれにせよ、意思表示の擬制は、執行機関の関与を必要としない(執行文の付与は、民事執行法に規定されているが、債務名義作成機関がなすべき行為であり、執行手続の一部ではない)。したがって執行機関が関与する執行手続を経ることなく債務名義で命じられた法律状態が実現されるので、この執行は、「広義の執行」に分類される。

執行債権と執行方法との対応
執行債権と執行方法との一応の対応関係を示せば、次の表のようになる(この表において、ある種類の執行債権について複数の執行方法があるとされている場合でも、執行方法に課せられた要件により、一つの執行方法しか選択できない場合もある)。

 

執 行 債 権

金銭債権 物の引渡・明渡請求権 その他の代替的作為請求権 不代替的作為請求権 不作為請求権 意思表示請求権







直接強制 金銭執行(財産換価執行)

         
物の引渡・明渡執行  

       
引渡請求権の差押え  

       
代替執行    

 

 
間接強制

(肯定説もある)
意思表示の擬制          

以下では、不動産に対する金銭執行(そのうちでも、強制競売)を例にして、強制執行の概略を述べることにしよう(法45条 以下)。

3.1 自力救済の禁止

3.2 債務名義

3.3 請求異議の訴え

3.4 責任財産と第三者異議の訴え

3.5 金銭執行


4 担保執行の概略



5 メ モ


条文の構成
民事執行法の規定(条)には、項数の多いものがある。執行裁判所の処分が決定の形でなされる場合に、次の事項について個別的に規定されることが多いからである。
  1. 判断資料の収集、特に、相手方の審尋の可否ないし要否
  2. 事情変更による取消しないし変更の可能性
  3. 執行停止の仮の処分の可能性
  4. 決定が送達されるべき者の範囲
  5. 決定が一定の者に送達された時に効力が生ずる場合に、その旨
  6. 不服申立ての可否。特に、執行抗告の可能性(10条1項参照)
  7. 決定が確定した時に効力が生ずる場合に、その旨(22条3号カッコ書き参照)
  8. 執行期間
  9. 送達前の執行の可能性(民訴119条、民執29条参照)

55条等を見ながら、こうした事項の配列の順序にある程度の規則性があることを確認しておくと、条文を読むのが楽になる。なお、上記1・2・3の順序は条文により異なり、固定しているわけではない。4以降は、概ねこの順序で項が立てられている。


6 参考書


史 料


7 審議会



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Author: 栗田隆
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1998年 2月 2日−2017年11月16日