目次文献略語

民事執行法概説

不動産の強制競売 1/4


関西大学法学部教授
栗田 隆

1 総説


1.1 不動産の執行競売

用語
強制執行
債務名義に基づく(債務名義に表示された権利の実現のための)執行
担保執行
担保権に基づく(被担保債権たる金銭債権の実現のための)執行
強制競売
強制執行としての不動産その他の財産の競売。動産に対する強制執行は、通常、「動産執行」の語が用いられるが、この概説では、執行機関が動産を換価する方法によりする強制執行(ないしその換価)も強制競売の概念に含めることにする。
担保競売
担保執行としての不動産その他の財産の競売。不動産の担保競売は、担保不動産競売と呼ばれる。
強制競売と担保競売[R3]
私人の生活利益の多くが金銭を以て評価され、金銭債権が私法上の法律関係において重要な位置を占めている。これに対応して、民事執行においても金銭執行が重要な執行手続となる。その中でも中核を占めるのは、価格が大きく複雑な権利関係が生じやすい不動産の競売である。不動産の執行競売は、強制執行の一種である強制競売として、あるいは担保権に基づく競売(担保競売)としてなされる。両者を合わせた意味で「不動産の執行競売」の語を用いることにしよう(できるならば「不動産競売」の語を用いたいが、これは、伝統的に、不動産の担保競売の意味で用いられてきた[15]。

担保競売の重要性
債務者が経済的に行き詰まり金銭執行を受ける段階では、彼が不動産を有していても、それに担保権とりわけ抵当権が設定されていることが多い。そのため、不動産の執行競売の多くは、抵当権の実行としてなされる[6]。強制競売と担保競売とで差押え後の手続にそれほど差異があるわけではなく(188条)、実際上の重要性が後者にあることを考慮すると、後者に重点を置きつつ、両者について一括して論述することもよい論述の方法である([中野*民執v5]は、この論述方法である)[17]。しかし、ここでは、条文に即して制度を説明する便宜上、できるだけ法律の体系にしたがって論述することにしよう。

不動産の収益からの満足
金銭債権の満足のための原資を不動産から得る方法としては、不動産を売却してその代金を得る方法の外に、不動産を管理してその収益を得る方法がある。それは、
両者を併せて、執行管理と呼ぶことにしよう。債権者は、執行競売と執行管理のどちらを選択してもよく、両者を併用することもできる(43条1項。同項と異なり、180条では「併用」の語がないが、併用可能である([谷口=筒井*2004a]53頁)。担保不動産収益執行には、強制管理の規定が大幅に準用されており、この概説では、法律の体系に従い、強制管理を中心に説明していく。ただ、強制管理の実例がそれほど多くないことも考慮して、これについての論述は簡略にする[7]。

1.2 競売対象としての不動産(43条)  

強制競売の対象としての「不動産」は、差押えの登記をし、登記記録上の諸権利を斟酌して売却し、売却による権利変動を登記により公示するという手続構造に適合する財産である。そのような財産が、民事執行法による競売対象となる「不動産」として一括される。その範囲は、民法上の不動産とは必ずしも一致しない。具体的には、次の3種類に分れる。

)民法上の不動産(所有権)   未登記でもよいが登記可能なもの(土地、建物、区分所有建物の専有部分)でなければならない(43条1項)。
  1. 所有権の登記がなされていない不動産については、差押えの登記は不登法76条2項の「所有権の処分の制限の登記」にあたり、その嘱託があると、登記官が職権で債務者名義の所有権の保存の登記をする。そのため、申立債権者は、債務者の所有に属することを証する文書を申立書に添付しなければならない(規23条1号後段・2号)
  2. 真実は債務者のものであっても、他人名義の登記がなされている場合には、債権者は債権者代位(民法423条。不登法59条7号参照)により所有権の登記を債務者名義にしてから競売を申し立てなければならない。詐害行為取消権を行使して、不動産を債務者に復帰させる場合も、現在の所有権の登記名義人を債務者にしてから競売の申立てをする。
  3. 土地の定着物で登記できないもの(例えば庭木[18])は、それだけを独立に不動産執行の対象とすることはできない。しかし、例えば、1億円の土地に枝振りのよい庭木が1本あって、それを掘り起こして売却すれば30万円で売れる場合に、20万円の執行債権のために土地を競売する必要はなく、庭木のみを執行対象とすれば十分である。この場合の執行方法は、動産執行である(122条1項カッコ書き参照)[11]。庭木に対する動産執行がない状態で土地が差し押えられれば、差押えの効力は庭木にも及び、庭木は土地と共に売却される。土地の差押えがなされた後では、庭木に対する動産執行は許されない。逆に、庭木が先に差し押えられた後で土地が差し押えられた場合には、土地の差押えの効力は庭木には及ばない。

)民執法上の「みなし不動産」 (43条2項)  これに該当するのは、次のものである。
  1. 民法上の不動産の共有持分  ただし、債務者の共有持分が登記されていない場合には、(a2)の場合と同様に共有持分の登記をしてから競売を申し立てる。
  2. 登記された地上権・永小作権およびその登記された共有持分  ただし、未登記の場合には、権利執行によるか、(a2)の場合と同様に債務者名義の登記をしてから不動産執行を申立てる。

)特別法上の「みなし不動産」   工場財団などのいわゆる不動産財団や、登記された立木、鉱業権など(工抵14条1項、鉱抵3条、立木2条、鉱業12条・13条)。

以下では、論述を簡潔にするために、民法上の不動産のみを対象にする。

差押禁止規定
不動産は、一般に価格の大きい財産であり、重要な責任財産であるので、民事執行法のみならず他の法律においても、差押禁止規定はほとんど置かれていない。その例外となるのが、宗教法人法第83条である。同条は、「宗教法人の所有に係るその礼拝の用に供する建物及びその敷地で」、その旨の登記をしたものは、担保執行および破産手続開始の場合を除き、「その登記後に原因を生じた私法上の金銭債権のために差し押えることができない」と規定している。信教の自由(憲法20条)の尊重の現れと言えよう。

1.3 管轄裁判所(44条

強制競売事件は、不動産所在地を管轄する地方裁判所が専属的に管轄する(44条1項・19条)。建物が複数の地方裁判所の管轄区域にまたがって存在する場合には、建物の執行については各裁判所が競合的に管轄権を有し、かつ、土地については、各土地の所在地を管轄する裁判所のほか、建物について競売申立てを受けた裁判所も競合的に管轄権を有する(44条2項)。土地と建物とを同一の競売手続において一括して売却することを可能にするためである。移送につき44条3項参照。

ホテルの本館と別館あるいは大規模遊園地のように、複数の不動産が有機的一体をなしていて、それらが複数の地方裁判所の管轄区域にまたがって存在する場合に、44条2項の要件を満たさないときでも、それら複数の不動産を一括して売却することが望ましいこともあろう。その前提として、事件を1つの地方裁判所に集約する必要があるが、そのための規定は設けられていない。また、民条執行法が規定する管轄は専属管轄ではあるので、移送は明文の規定なしに安易に許容されうるものではない。しかしそれでも、有機的一体をなす不動産群の売却を円滑にかつ有利に行うために特に必要があるのであれば、その不動産群のうちの主要部分または比較的重要な部分が所在する地を管轄する裁判所において全部の不動産の競売を行うことができるように、44条3項を適類推用して、他の裁判所はその裁判所に事件を移送することができるとしてよいであろう。

1.4 競売の刑法的保護

競売不動産の所有者ないし所有会社の経営者の多くは誠実な人間であろうが、中には財政的に行き詰まっていく過程で暴力団員やそれに準ずる者と結託して競売を妨害しようとする者もいるし、暴力団員が甘言を弄して所有者あるいは賃借人に近づいて不動産の占有を開始して立退料等の名目で不正な利益を得たり、あるいは他の買受希望者を排除して自ら安く買い受けて高く転売することにより法外な利益を貪ろうとする。こうした行為は、刑事制裁をもって禁圧されなければならない。

いくつかの判例を挙げておこう。

2 強制競売の開始 − 差押え(45条以下)


2.1 競売申立て(規21条・23条以下)

強制競売の申立書には執行申立てに一般的な事項を記載し(規21条)、執行正本ならびに目的不動産の登記事項証明書等の所定書類(規23条)を添付しなければならない。強制執行は、執行機関により、申立債権者のために迅速にかつ安価な費用で行われるべきであると共に、債権者も可能な範囲で相応の協力をすべきである。(α)申立債権者は、手続の進行に資するために、不動産の所在地に至るまでの通常の経路及び方法を記載した図面等の所定の資料(規23条の2)を提出する。また、(β)「土壌汚染対策法」(平成14年法53号)の施行に伴い,不動産競売の申立てに際し,当該物件に関する土壌汚染の有無についての調査データ等参考となるものがある場合には,それも提出すべきである。なお、東京地裁において不動産の競売申立ての際に必要となる書類の詳細な案内は、次のページに掲載されている:東京地裁 不動産競売事件(担保不動産競売,強制競売)の申立てについて;大阪地裁 不動産執行申立てに必要な書類等

請求債権額
民事執行の申立手数料は、執行債権額にかかわらず定額であるが(債務名義1通につき,平成14年現在で3000円、平成29年11月17日現在で4000円)、差押えの登記の登録免許税が債権額の1000分の4と定められていることとの関係で、債権者が強制執行を求める請求権(請求債権)の範囲(額)が重要となる。債権者は、執行債権全額について執行を求めることもできるが、そのほかに、執行債権の一部についてのみ強制執行を求めることもでき、その場合には、その旨およびその範囲を申立書に記載する(規21条4号)。

債権者は、登録免許税の節約のために、債権の一部についてのみ執行を求めることがある(一部請求)[13]。しかし、これは、他に競合債権者がいる場合に、配当の段階で問題を引き起こすことがある。すなわち、彼としては、彼の執行債権全額を基準にして配当を受けたいのであるが、彼が一部請求である旨を申立書に記載した以上は、その記載を信頼した他の利害関係人の利益保護のために、配当の段階で請求債権額を拡張することは、特段の事情のない限り許されない。しかし、競売申立書に明白な誤記,計算違いがある場合には,その後の手続においてこれを是正することが許され,これを一部請求の趣旨と解することは相当でなく,配当裁判所は,是正後の債権額に従い配当表を作成すべきである(担保競売の事件に関してであるが、最高裁判所 平成14年10月22日 第3小法廷 判決(平成13年(受)第1567号)参照)。

費用の予納
不動産の執行競売には現況調査や売却の実施等に費用が必要であり、申立人は、執行裁判所の裁判所書記官が手続に必要な費用として定めた金額を予納しなければならない(14条)。その金額は、執行実務において、請求債権額を基準にして概括的に定められている。
大阪地裁の場合は、2017年11月の時点で下記の通りである(不動産執行申立てに必要な書類等の中の「民事執行予納金」)。
東京地裁の場合は、2017年11月の時点で下記の通りである(不動産競売事件(担保不動産競売,強制競売)の申立てについて 参照。2003年3月の時点でも同じ)。

請求債権額 予納金の額
2000万円未満 60万円
2000万円以上5000万円未満 100万円
5000万円以上1億円未満 150万円
1億円以上 200万円
二重開始事件で先行事件に含まれない物件があるときは上記の例による。それ以外の場合には原則として30万円。

2.2 競売開始決定(45条

執行裁判所は、競売申立書その他の提出文書に基づき、必要な場合には利害関係を有する者その他参考人を審尋の上(5条)、執行要件の具備を審理する。申立てを適法と認めるときは、競売開始決定をし、不適法と認めるときは申立却下決定をする。申立人が手続に必要な費用として裁判所書記官により定められた金額を予納しない場合にも、申立てを却下する(14条4項)。

競売開始決定45条1項)
競売手続は競売開始決定により開始され、手続の第一段階である差押えが決定の中で宣言される(45条1項)。差押えは、被差押財産について債務者による処分を制限し、執行裁判所が売却権限(換価権能)を収納することを意味する。競売開始決定は、これにより最も影響を受ける債務者に送達されなければならないが(45条2項)、債権者には告知される(規2条2項)にとどまる。

不服申立て(45条3項)
競売申立却下決定に対しては、執行抗告ができる(45条3項・14条5項)。これに対し、競売開始決定に対しては執行異議ができるにとどまる。後者の場合には、濫抗告による手続の停滞を防止する必要があり、かつ、その後の手続段階での救済の余地があるからである(もっとも、手続の最終段階である売却許可決定に対する執行抗告で主張することができるかについては、現在では否定説が多数説となっている。基本的な救済手段は、請求異議の訴えを提起して、執行不許の判決を得て、それを執行裁判所に提出することである)。

差押えの登記の嘱託(48条
競売開始決定が下されたときは、裁判所書記官は直ちに(従って、債務者への開始決定送達前に)差押えの登記の嘱託をしなければならない(登記原因は、競売開始決定)。差押えによる処分の制限は民法177条の物権の変更に当たり、正当な利害関係を有する第三者との関係は、登記の先後により決せられる[3](破産手続開始決定による処分権限の制限の場合[14]とは異なる。

嘱託を受けた登記官は、執行債務者が現在では目的不動産の所有者として登記されていない等の理由により嘱託を却下すべき場合には、却下決定書を嘱託者に送付する(不登法16条2項・25条)。差押えの登記がなされないと目的不動産を競売することができないので、執行裁判所は、この却下を相当と認めるときは、53条により競売手続取消決定をする。他方、却下事由がなければ、登記官は、差押えの登記をして、登記事項証明書を執行裁判所に送付する(48条2項)。

差押えの効力の発生時期(46条1項)
差押の効力は、(α)競売開始決定が債務者に送達された時、または、(β)差押えの登記がなされた時のいずれか早い時に生ずる。通常は、差押えの登記の嘱託が先になされるので(48条1項には「直ちに」の文言があるが、45条2項にはないことに注意)、差押の効力は(β)の時に生ずるのが通常となる。それにもかかわらず46条1項が(α)の時を原則的な発生時として規定しているところに、差押えの効力は、本来、開始決定が債務者に送達されたときに発生すべきであるとの考えを読みとることができる。

2.3 差押えの効力(46条

差押の効力の発生時期(46条1項)については前述した。以下では、それ以外の問題を取り上げよう。

客観的範囲
差押えの効力の及ぶ範囲は、明文の規定はないが、担保競売のみならず強制競売においても、原則として、抵当権の効力の及ぶ範囲と同じに考えてよい[9]。目的不動産の他に、附加一体物(民法370条)、すなわち、附合物(民法242条)、従物(民法87条。建物の畳・建具など)[8]あるいは従たる権利(地役権など)にも及ぶ。未分離の天然果実にも及ぶ(民法371条)。

借地上の建物の競売の場合に、建物の差押えの効力が借地権(地上権・賃借権[1])にも及ぶかについては、場合を分けて考察するのがよい。
売却権限の収納
差押えにより、執行機関は目的物の売却権限を収納する。差押えが有効になされていなければ、執行機関は国民の財産をその意思に反して換価する権能を有しない。

処分禁止
差押えにより債権者が把握した交換価値を確保し、かつ手続の安定を図るために、債権者の満足を不当に害することになる処分行為は無効となる。例えば、
他方、
相対的処分禁止
不動産が差し押えられても、それはまだ債務者のものであり、売却されることなく手続が終了する場合もあるので、差押えによる処分禁止の効力は、競売手続の安定的追行に必要な範囲に限定される。(α)それは。絶対的処分禁止ではない。債務者は、差し押えられた不動産について売却や抵当権設定等の処分行為をなすことができ、それに基づく登記もなされるうる。(β)しかし、差押え後の処分行為は、差押債権者に対抗できない(相対的処分禁止)。どの範囲の債権者に対抗できないとすべきかについては、次の2つの立法主義がありうる。
現行法は、手続相対主義を前提にして立法されている。執行手続に適法に参加した一般債権者について、参加の時期に関わりなく債権額に応じて平等に配当を与える建前を平等主義といい、先に手続参加した者が後で参加した者に優先するとの建前を優先主義というが、日本法は、フランス法にならい、平等主義を採用している。一般債権者について平等主義を採用すると、差押えを巡る法律関係を単純化するためには、差押えの効力については手続相対主義が好ましいからである。

個別相対主義は、利害関係人の利益状況をきめ細かく取り上げて処理するという点では優れているが、次のような解決困難な問題が生じうるからである。例えば、債務者Sの債権者Gの申立により差押えがなされた後にSがHのために抵当権を設定し、その後にSの債権者Aが配当要求をしたとしよう。今、各債権者の順位をそれぞれG・H・Aで表し、順位関係を等号と不等号であらわすと、個別相対主義では次のようになる([注釈*1983a] 299頁(近藤崇晴)参照)。
  1. G>H>A (個別相対主義)
  2. G=A  (一般債権者平等原則)

上記の二つの式は、論理的に矛盾している。この矛盾をさまざまな説明を付して法学的に解決することは、不可能というわけではない。しかし、矛盾を無理に解決しようとするのであるから、解決準則はきわめて複雑になる。一般の先取特権まで考慮すると、順序関係はさらに破壊される。例えば、上記のAが一般の先取特権者であるとすると、次のようになる。
  1. G>H>A (個別相対主義)
  2. G<A  (先取特権の効力)

一般債権者について平等原則を放棄して、優先主義を採用すれば矛盾は解消されるが、それができないことを前提にすれば、一般債権者平等原則との矛盾をもたらさない手続相対主義が簡明である。
  1. G>H, A>H (手続相対主義)
  2. G=A>H  (一般債権者平等原則+手続相対主義)

具体例による手続相対主義の説明
差し押えられた不動産が競売手続中に債務者により第三者に譲渡された場合には、その譲渡は、競売手続との関係では無視される。売却代金を債権者に交付して剰余があれば、剰余金は執行債務者(差押当時の所有者)に交付される(84条2項)。差押え後に設定された抵当権も無視され、抵当権者に配当がなされることはない(当該抵当権者が配当要求をなすことができる場合に配当要求した場合は別であるが、抵当権設定登記がなされたこと自体は、配当要求の資格を基礎づけない)。

用益制限(46条2項)
債務者は差押え後も不動産の所有者として目的物を使用収益することができる。しかし、すでに売却段階に入っており、売却される可能性が高いので、使用収益は、通常の用法の範囲に限定される(46条2項)。債務者がその範囲を逸脱し、かつ不動産の価格を低下させる場合には、債権者は、55条によりそれを制止することができる。

立法論としては、差し押さえられた不動産の売却を円滑にするために、債務者(及び将来の買受人に対抗することができない占有者)の占有権原を否定し、これらの者は売却前であっても競売不動産を執行裁判所(の補助機関である執行官)に引き渡さなければならないとすることも可能である。しかし、その解決が政策的に妥当であるかどうかについては、他のさまざまな事項も考慮する必要がある。例えば、経済状況が悪化し、多数の住宅が差し押さえられ、住宅価格が継続的に低下しているためになかなか買受希望者が現れず、差押えから売却まで日数を要するという状況下においては、売却前に債務者を排除することは、住宅の利用率を低下させ、社会全体から見れば経済的損失となる。また、差押えが売却の完了前おいて債務者は競売不動産の用益を継続することができるとの原則は、彼がホームレスになるることを遅らせる機能持つことになる。住宅価格の下落が続くことを前提にすると、売却には時間がかかり、それだけ彼が不動産からの立ち退きを迫られる時期は遅くなり、これにより多数のホームレスが発生するという社会不安が緩和されることになる。もっとも、最後の点については、債務者がホームレスに転落することは防ぐことは、社会福祉の問題であり、生活保護(住宅扶助)により図られるべきであるとの反論は可能である。

ともあれ、差し押さえられた不動産の債務者の用益権限ををどのようにするかは、さまざまな事項を考慮して決定されるべき問題であり、現行法の規律は、比較的妥当な立法的決断と評価してよい。

付随的効力
民事執行法以外の法が、差押えに次の効力を結びつけている。
差押不動産および競売手続の刑法的保護
差し押えられた不動産は債務者の所有物ではあるが、債権者のために売却されるべき不動産となっているので、債務者(所有者)もそれを損壊すれば刑法260条(建造物損壊罪)の例により処罰される(刑法262条)。強制競売・担保競売は刑法96条の3第1項の「公の競売又は入札」にあたり、これを偽計または威力を用いてその公正な実施を害する行為をした者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処せられる。賃貸借契約が存在しないのにあるように装うことは、この偽計行為にあたる(最高裁判所平成10年7月14日決定(平成10年(あ)第385号)。競売不動産をいわゆる占有屋が占拠して債権者・担保権者から立退料を要求する行為は、暴力的要求行為の一類型として、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」により禁止されている(同法9条12号)。[林*1997a]112頁以下参照。

2.4 差押えの効力発生後の付随的措置(49条

差押えの効力が生ずると、次の付随的措置がなされる。

配当要求の終期の設定(1項)
裁判所書記官は、物件明細書の作成までの手続に要する期間を考慮して、配当要求の終期を定める(49条1項)。終期後の配当要求は、租税債権者 あるいは先取特権者の要求といえども排除され、これにより無剰余措置(63条)の実効性が担保される。したがって売却の実施は、配当要求の終期後になされ、配当要求の終期は、そのことを考慮して、売却準備手続の終了前に到来するように定められるべきである。

公告(2項)
裁判所書記官は、配当要求の終期を定めたときは、開始決定がなされた旨および配当要求の終期を公告する。

債権届出の催告(2項)[4]
次の債権者は、競売不動産から満足を受ける権利を有しており、差押えの登記前からその権利関係を登記により公示しているので、執行裁判所の裁判所書記官が債権(その存否並びに(存在する場合には)その原因及び額)の届出の催告をする。
租税債権等は、登記記録に公示されていなくても、その徴収を容易にする必要があるので、次の者にも債権届出の催告がなされる。
債権届出の催告の目的は、これらの者に手続参加を保障するとともに、剰余の有無の判定(63条参照)、売却条件の確定(59条2項ないし4項、61条ただし書参照)を適切に行うための資料の獲得にある。

次の担保権は、「売却によって消滅するもの」(87条1項4号)に該当せず、被担保債権が買受人に引き受けられるので(59条4項)、手続参加の保障の必要はなく、彼への催告は要求されていない。しかし、買受人がその被担保債権の弁済責任を負うので、物件明細書にその存在・内容を記載すべきであり(62条1項2号)、また売却基準価額(60条)の決定の際に考慮しなければならないから、執行裁判所は、被担保債権の存否・内容を知る必要がある。その方法としては、5条の審尋が無難であるが、質権については49条2項の類推適用により同項の催告も許されるとしてよいであろう(5条の審尋は執行裁判所が行い、催告は裁判所書記官が行う、との差違がある)。
届 出
優先債権者が過大な届出をしたため63条により手続が取り消された場合には、その債権者は申立債権者に対して損害賠償義務を負うことがある。優先債権者が過少に届け出たため、配当額が実体上受けるべき額よりも少なくなった場合の取扱いについては、見解は分れている(後述する)。

催告に応じてなされる債権届出は、債務者に対する権利主張の性質を有するものではないので、時効中断の効力を有しない(最判平成元年10月13日民集43巻9号985頁・[百選*1994a]29事件(塩崎勤、賛成))。

配当要求の終期の延期とその公告(3項・4項)
裁判所書記官は、特に必要があると認めるときは、配当要求の終期を延期することができる。 延期したときは、延期後の終期を公告しなければならない。

2.5 競売申立ての取下げ・競売手続の取消し

競売申立ての取下げ
競売申立債権者は、競売開始決定後でも競売申立てを取り下げることができる。しかし買受申出は相当程度の準備と決断の上になされるのが通常であるので、買受申出があった後は、申出人の所有権取得の期待的利益を保護するために、取下げが制限される。すなわち、最高価買受申出人(および次順位買受申出人が存在する場合には、さらにこの者)が決められた後に取下げをする場合には、この者の同意を得ることが必要である(76条1項本文)。但し、他に競売申立人がいるため買受申出人の利益が害されない場合は、同意なしに取り下げることができる(76条1項但書)。他に競売申立人がいない場合には、適法な取下げによって競売手続は当然に終了し、取消決定を経る必要はない。

職権による競売手続の取消し(53条
執行売却をしても買受人に所有権を得させることができない事情が判明した場合には、それ以上の手続続行は無意味である。代金支払義務を負う買受人(となる者)の保護のため、執行裁判所は職権で競売手続を取り消す(53条)。例えば、次の場合がそうである。
買受人の代金納付前はもちろん、納付後であっても嘱託による所有権移転登記等が完了する前であれば、取消しを認めてよい。しかし、代金の配当等がなされた後は、手続はもはや完了しており、取消しはできない。嘱託により所有権移転登記等がなされた後、配当あるいは代金交付がなされる前の時期については、手続の取消決定により登記の原状回復がなされうるか否かによって、見解は分かれよう[10]。登記の原状回復が可能な限り、競売手続の取消しをするべきである。

債務者の申立てによる取消し
債務者は、執行取消文書を提出して、競売手続の取消しを求めることができる(40条1項)。

差押登記の抹消の嘱託
競売申立てが取り下げられたとき、あるいは競売手続を取り消す決定が効力が生じたときは(12条・40条2項に注意)、裁判所書記官からの嘱託により差押えの登記が抹消される(54条)。

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1998年 2月 2日−2010年10月9日