目次文献略語


民事執行法概説

不動産の強制競売 1/4


関西大学法学部教授
栗田 隆


1 総説


1.1 不動産の執行競売

両者を併せて、執行管理と呼ぶことにしよう。債権者は、執行競売と執行管理のどちらを選択してもよく、両者を併用することもできる(43条1項。43条1項と異なり、180条では「併用」の語がないが、併用可能である([谷口=筒井*2004a]53頁)。担保不動産収益執行には、強制管理の規定が大幅に準用されており、この概説では、法律の体系に従い、強制管理を中心に説明していく。ただ、強制管理の実例がそれほど多くないことも考慮して、これについての論述は簡略にする[7]。

1.2 競売対象としての不動産(43条)  

1.3 管轄裁判所


2 強制競売の開始 − 差押え(45条以下)


2.1 競売申立(規21条・23条以下)

強制競売の申立書には執行申立てに一般的な事項を記載し(規21条)、執行正本ならびに目的不動産の登記簿謄本等の所定書類(規23条)を添付しなければならない。強制執行は、執行機関により、申立債権者のために迅速にかつ安価な費用で行われるべきであると共に、債権者も可能な範囲で相応の協力をすべきである。(α)申立債権者は、手続の進行に資するために、不動産の所在地に至るまでの通常の経路及び方法を記載した図面等の所定の資料(規23条の2)を提出する。また、(β)「土壌汚染対策法」の施行に伴い,不動産競売の申立に際し,当該物件に関する土壌汚染の有無についての調査データ等参考となるものがある場合には,それも提出すべきである。なお、東京地裁において不動産の競売申立ての際に必要となる書類の詳細な案内は、下記のURLに掲載されている:http://www3.ocn.ne.jp/%7Etdc21/0100Fmousitate.pdf

請求債権額
民事執行の申立手数料は、執行債権額にかかわらず定額(平成14年現在で3000円)であるが、差押えの登記の登録免許税が債権額の1000分の4と定められていることとの関係で、債権者が強制執行を求める請求権(請求債権)の範囲(額)が重要となる。債権者は、執行債権全額について執行を求めることもできるが、そのほかに、執行債権の一部についてのみ強制執行を求めることもでき、その場合には、その旨およびその範囲を申立書に記載する(規21条4号)。

債権者は、登録免許税の節約のために、債権の一部についてのみ執行を求めることがある(一部請求)[13]。しかし、これは、他に競合債権者がいる場合に、配当の段階で問題を引き起こすことがある。すなわち、彼としては、彼の執行債権全額を基準にして配当を受けたいのであるが、彼が一部請求である旨を申立書に記載をした以上は、その記載を信頼した他の利害関係人の利益保護のために、配当の段階で請求債権額を拡張することは、特段の事情のない限り許されない。しかし、競売申立書に明白な誤記,計算違いがある場合には,その後の手続においてこれを是正することが許され,これを一部請求の趣旨と解することは相当でなく,配当裁判所は,是正後の債権額に従い配当表を作成すべきである。(担保競売の事件に関してであるが、最高裁判所 平成14年10月22日 第3小法廷 判決(平成13年(受)第1567号)参照)。

費用の予納
不動産の執行競売には現況調査や売却の実施等に費用が必要であり、申立人は、執行裁判所の裁判所書記官が手続に必要な費用として定めた金額を予納しなければならない(14条)。その金額は、執行実務において、請求債権額を基準にして概括的に定められている。東京地裁の場合は、2003年3月の時点で下記の通りである(http://www3.ocn.ne.jp/%7Etdc21/0100Fmousitate.pdf参照)。

請求債権額 予納金の額
2000万円未満 60万円
2000万円以上5000万円未満 100万円
5000万円以上1億円未満 150万円
1億円以上 200万円
二重開始事件で先行事件に含まれない物件があるときは上記の例による。それ以外の場合には原則として30万円。

2.2 競売開始決定(45条

執行裁判所は、競売申立書その他の提出文書に基づき、必要な場合には利害関係を有する者その他参考人を審尋の上(5条)、執行要件の具備を審理する。申立てを適法と認めるときは競売開始決定をし、不適法と認めるときは申立却下決定をする。申立人が手続に必要な費用として裁判所書記官により定められた金額を予納しない場合にも、申立てを却下する(14条4項)。

競売開始決定45条1項)
競売手続は競売開始決定により開始され、手続の第一段階である差押えが決定の中で宣言される(45条1項)。差押えは、被差押財産について債務者による処分を制限し、執行裁判所が売却権限(換価権能)を収納することを意味する。競売開始決定は、これにより最も影響を受ける債務者に送達されなければならないが(45条2項)、債権者には告知される(規2条2項)にとどまる。

不服申立て(45条3項)
競売申立却下決定に対しては、執行抗告ができる(45条3項・14条5項)。これに対し、競売開始決定に対しては執行異議ができるにとどまる。後者の場合には、濫抗告による手続の停滞を防止する必要があり、かつ、その後の手続段階での救済の余地があるからである(もっとも、手続の最終段階である売却許可決定に対する執行抗告で主張することができるかについては、現在では否定説が多数説となっている)。

差押えの登記の嘱託(48条
競売開始決定が下されたときは、裁判所書記官は直ちに(従って、債務者への開始決定送達前に)差押えの登記の嘱託をしなければならない(登記原因は、競売開始決定)。差押えによる処分の制限は民法177条の物権の変更に当たり、正当な利害関係を有する第三者との関係は、登記の先後により決せられる[3](破産手続開始決定による処分権限の制限の場合[14]とは異なる。

嘱託を受けた登記官は、執行債務者が現在では目的不動産の所有者として登記されていない等の理由により嘱託を却下すべき場合には、却下決定書を嘱託者に送付する(不登法16条2項・25条)。差押えの登記がなされないと目的不動産を競売することができないので、執行裁判所は、この却下を相当と認めるときは、53条により競売手続取消決定をする。他方、却下事由がなければ、登記官は、登記簿に差押えの登記をして、登記事項証明書を執行裁判所に送付する(48条2項)。

差押えの効力の発生時期(46条1項)
差押の効力は、(α)競売開始決定が債務者に送達された時、または、(β)差押えの登記がなされた時のいずれか早い時に生ずる。通常は、差押えの登記の嘱託が先になされるので(48条1項には「直ちに」の文言があるが、45条2項にはないことに注意)、差押の効力は(β)の時に生ずるのが通常となる。それにもかかわらず46条1項が(α)の時を原則的な発生時として規定しているところに、差押えの効力は、本来、開始決定が債務者に送達されたときに発生ずるべきであるとの考えを読みとることができる。

差押えの効力発生後の付随的措置(49条
差押えの効力が生ずると、次の付随的措置がなされる。
 ()裁判所書記官は、物件明細書の作成までの手続に要する期間を考慮して、配当要求の終期を定める(49条1項)。終期後の配当要求は、租税債権者 あるいは先取特権者の要求といえども排除され、これにより無剰余措置(63条)の実効性が担保される。したがって売却の実施は、配当要求の終期後になされ、配当要求の終期は、そのことを考慮して、売却準備手続の終了前に到来するように定められるべきである。

 ()裁判所書記官は、配当要求の終期を定めたときは、次の措置をなす(49条2項)。

債権届出の催告の目的は、剰余の有無の判定、売却条件の確定に主眼があるが、手続参加を保障する趣旨を含む。優先債権者が過大な届出をしたため63条により手続が取り消された場合には、その債権者は申立債権者に対して損害賠償義務を負うことがある。優先債権者が過少に届け出たため、配当額が実体上受けるべき額よりも少なくなった場合の取扱いについては、見解は分れている(後述する)。催告に応じてなされる債権届出は、債務者に対する権利主張の性質を有するものではないので、時効中断の効力を有しない(最判平成元年10月13日民集43巻9号985頁・[百選*1994a]29事件[塩崎勤=賛成])。

2.3 差押えの効力(46条

差押の効力の発生時期(46条1項)については前述した。以下では、それ以外の問題を取り上げよう。

客観的範囲
差押えの効力の及ぶ範囲は、明文の規定はないが、担保競売のみならず強制競売においても、原則として、抵当権の効力の及ぶ範囲と同じに考えてよい[9]。目的不動産の他に、附加一体物(民法370条)、すなわち、附合物(民法242条)、従物(民法87条。建物の畳・建具など)[8]あるいは従たる権利(地役権など)にも及ぶ。未分離の天然果実にも及ぶ(民法371条)。

借地上の建物の競売の場合に、建物の差押えの効力が借地権(地上権・賃借権[1])にも及ぶかについては、場合を分けて考察するのがよい。

売却権限の収納
差押えにより、執行機関は目的物の売却権限を収納する。差押えが有効になされていなければ、執行機関は国民の財産をその意思に反して換価する権能を有しない。

処分禁止
差押えにより債権者が把握した交換価値を確保し、かつ手続の安定を図るために、債権者の満足を不当に害することになる処分行為は無効となる。例えば、借地上の建物が差し押えられた場合に、借地権の放棄・借地契約の合意解除は、無効である(東京地判昭31.11.13下民集7-11-3208)。他方、その他の理由により建物のための土地の利用権原が不存在となっている場合に、土地所有者が建物収去を求めることは、妨げられない。また、借地借家法6条・28条等により更新拒絶が制限されている場合に、先順位の賃借権について契約の更新をなすことは、差押えの効力に反しない。建物賃借権の譲渡の承諾も、原則として差押えの効力に反しない(最判昭和53.6.29民集32-4-762・[百選*1994a]26事件)。

相対的処分禁止
不動産が差し押えられても、それはまだ債務者のものであり、売却されることなく手続が終了する場合もあるので、差押えによる処分禁止の効力は、競売手続の安定的追行に必要な範囲に限定される。(α)それは。絶対的処分禁止ではない。債務者は、差し押えられた不動産について売却や抵当権設定等の処分行為をなすことができ、それに基づく登記もなされるうる。(β)しかし、差押後の処分行為は、差押債権者に対抗できない(相対的処分禁止)。どの範囲の債権者に対抗できないとすべきかについては、次の2つの立法主義がありうる。

現行法は、手続相対主義を前提にして立法されている。執行手続に適法に参加した一般債権者について、参加の時期に関わりなく債権額に応じて平等に配当を与える建前を平等主義といい、先に手続参加した者が後で参加した者に優先するとの建前を優先主義というが、日本法は、フランス法にならい、平等主義を採用しており、一般債権者について平等主義を採用すると、差押えを巡る法律関係を単純化するためには、差押えの効力については手続相対主義が好ましいからである。

個別相対主義は、利害関係人の利益状況をきめ細かく取り上げて処理するという点では優れているが、次のような解決困難な問題が生じうるからである。例えば、債務者Sの債権者Gの申立により差押えがなされた後にSがHのために抵当権を設定し、その後にSの債権者Aが配当要求をしたとしよう。今、各債権者の順位をそれぞれG・H・Aで表し、順位関係を等号と不等号であらわすと、個別相対主義では次のようになる。

  1. G>H>A (個別相対主義)
  2. G=A  (一般債権者平等原則)

上記の二つの式は、論理的に矛盾している。この矛盾をさまざまな説明を付して法学的に解決することは、不可能というわけではない。しかし、矛盾を無理に解決しようとするのであるから、解決準則はきわめて複雑になる。一般債権者について平等原則を放棄して、優先主義を採用すれば矛盾は解消されるが、それができないことを前提にすれば、一般債権者平等原則との矛盾をもたらさない手続相対主義が簡明である。

  1. G>H, A>H (手続相対主義)
  2. G=A>H  (一般債権者平等原則+手続相対主義)

具体例による手続相対主義の説明
差し押えられた不動産が競売手続中に債務者により第三者に譲渡された場合には、その譲渡は、競売手続との関係では無視される。売却代金を債権者に交付して剰余があれば、剰余金は執行債務者(差押当時の所有者)に交付される(84条2項)。差押後に設定された抵当権も無視され、抵当権者に配当がなされることはない(当該抵当権者が配当要求をなすことができる場合に配当要求した場合は別であるが、抵当権設定登記がなされたこと自体は、配当要求の資格を基礎づけない)。

用益制限(46条2項)
債務者は差押え後も不動産の所有者として目的物を使用収益することができる。しかし、すでに売却段階に入っており、売却される可能性が高いので、使用収益は、通常の用法の範囲に限定される(46条2項)。債務者がその範囲を逸脱し、かつ不動産の価格を低下させる場合には、債権者は、55条によりそれを制止することができる。

付随的効力
民事執行法以外の法が、差押えに次の効力を結びつけている。

差押不動産および競売手続の刑法的保護
差し押えられた不動産は債務者の所有物ではあるが、債権者のために売却されるべき不動産となっているので、債務者(所有者)もそれを損壊すれば刑法260条(建造物損壊罪)の例により処罰される(刑法262条)。強制競売・担保競売は刑法96条の3第1項の「公の競売又は入札」にあたり、これを偽計または威力を用いてその公正な実施を害する行為をした者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処せられる。賃貸借契約が存在しないのにあるように装うことは、この偽計行為にあたる(最高裁判所平成10年7月14日決定(平成10年(あ)第385号)。競売不動産をいわゆる占有屋が占拠して債権者・担保権者から立退料を要求する行為は、暴力的要求行為の一類型として、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」により禁止されている(同法9条12号)。[林*1997a]112頁以下参照。

2.4 競売申立ての取下げ・競売手続の取消し


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Author: 栗田隆
Contact: kurita@kansai-u.ac.jp
1998年 2月 2日−2005年9月9日