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民事執行法概説不動産の強制競売 1/4
関西大学法学部教授 栗田 隆 |
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担保競売の重要性
債務者が経済的に行き詰まり金銭執行を受ける段階では、彼が不動産を有していても、それに担保権とりわけ抵当権が設定されていることが多い。そのため、不動産の執行競売の多くは、抵当権の実行としてなされる[6]。強制競売と担保競売とで差押後の手続にそれほど差異があるわけではなく(188条)、実際上の重要性が後者にあることを考慮すると、後者に重点を置きつつ、両者について一括して論述することもよい論述の方法である([中野*民執v4]は、この論述方法である)[17]。しかし、ここでは、条文に即して制度を説明する便宜上、できるだけ法律の体系にしたがって論述することにしよう。
不動産の収益からの満足
金銭債権の満足のための原資を不動産から得る方法としては、不動産を売却してその代金を得る方法の外に、不動産を管理してその収益を得る方法がある。それは、
強制競売の対象としての「不動産」は、差押えの登記をし、登記簿上の諸権利を斟酌して売却し、売却による権利変動を登記により公示するという手続構造に適合する財産である。そのような財産が、民事執行法による競売対象となる「不動産」として一括される。その範囲は、民法上の不動産とは必ずしも一致しない。具体的には、次の3種類に分れる。
(a)民法上の不動産(所有権) 未登記でもよいが登記可能なもの(土地、建物、区分所有建物の専有部分)でなければならない(43条1項)。
(b)民執法上の「みなし不動産」 (43条2項) これに該当するのは、次のものである。
(c)特別法上の「みなし不動産」 工場財団などのいわゆる不動産財団や、登記された立木、鉱業権など(工抵14条1項、鉱抵3条、立木2条、鉱業12条・13条)。
以下では、論述を簡潔にするために、民法上の不動産のみを対象にする。
差押禁止規定
不動産は、一般に価格の大きい財産であり、重要な責任財産であるので、民事執行法のみならず他の法律においても、差押禁止規定はほとんど置かれていない。その例外となるのが、宗教法人法第83条である。同条は、「宗教法人の所有に係るその礼拝の用に供する建物及びその敷地で」、その旨の登記をしたものは、担保執行および破産手続開始の場合を除き、「その登記後に原因を生じた私法上の金銭債権のために差し押えることができない」と規定している。信教の自由の尊重の現れと言えよう。
強制競売事件は、不動産所在地を管轄する地方裁判所が専属的に管轄する(44条1項・19条)。建物が複数の地方裁判所の管轄区域にまたがって存在する場合には、建物の執行については各裁判所が競合的に管轄権を有し、かつ、土地については、各土地の所在地を管轄する裁判所のほか、建物について競売申立てを受けた裁判所も競合的に管轄権を有する(44条2項)。土地と建物とを同一の競売手続において一括して売却することを可能にするためである。移送につき44条3項参照。
請求債権額
民事執行の申立手数料は、執行債権額にかかわらず定額(平成14年現在で3000円)であるが、差押えの登記の登録免許税が債権額の1000分の4と定められていることとの関係で、債権者が強制執行を求める請求権(請求債権)の範囲(額)が重要となる。債権者は、執行債権全額について執行を求めることもできるが、そのほかに、執行債権の一部についてのみ強制執行を求めることもでき、その場合には、その旨およびその範囲を申立書に記載する(規21条4号)。
債権者は、登録免許税の節約のために、債権の一部についてのみ執行を求めることがある(一部請求)[13]。しかし、これは、他に競合債権者がいる場合に、配当の段階で問題を引き起こすことがある。すなわち、彼としては、彼の執行債権全額を基準にして配当を受けたいのであるが、彼が一部請求である旨を申立書に記載をした以上は、その記載を信頼した他の利害関係人の利益保護のために、配当の段階で請求債権額を拡張することは、特段の事情のない限り許されない。しかし、競売申立書に明白な誤記,計算違いがある場合には,その後の手続においてこれを是正することが許され,これを一部請求の趣旨と解することは相当でなく,配当裁判所は,是正後の債権額に従い配当表を作成すべきである。(担保競売の事件に関してであるが、最高裁判所 平成14年10月22日 第3小法廷 判決(平成13年(受)第1567号)参照)。
費用の予納
不動産の執行競売には現況調査や売却の実施等に費用が必要であり、申立人は、執行裁判所の裁判所書記官が手続に必要な費用として定めた金額を予納しなければならない(14条)。その金額は、執行実務において、請求債権額を基準にして概括的に定められている。東京地裁の場合は、2003年3月の時点で下記の通りである(http://www3.ocn.ne.jp/%7Etdc21/0100Fmousitate.pdf参照)。
| 請求債権額 | 予納金の額 |
|---|---|
| 2000万円未満 | 60万円 |
| 2000万円以上5000万円未満 | 100万円 |
| 5000万円以上1億円未満 | 150万円 |
| 1億円以上 | 200万円 |
| 二重開始事件で先行事件に含まれない物件があるときは上記の例による。それ以外の場合には原則として30万円。 | |
競売開始決定(45条1項)
競売手続は競売開始決定により開始され、手続の第一段階である差押えが決定の中で宣言される(45条1項)。差押えは、被差押財産について債務者による処分を制限し、執行裁判所が売却権限(換価権能)を収納することを意味する。競売開始決定は、これにより最も影響を受ける債務者に送達されなければならないが(45条2項)、債権者には告知される(規2条2項)にとどまる。
不服申立て(45条3項)
競売申立却下決定に対しては、執行抗告ができる(45条3項・14条5項)。これに対し、競売開始決定に対しては執行異議ができるにとどまる。後者の場合には、濫抗告による手続の停滞を防止する必要があり、かつ、その後の手続段階での救済の余地があるからである(もっとも、手続の最終段階である売却許可決定に対する執行抗告で主張することができるかについては、現在では否定説が多数説となっている)。
差押えの登記の嘱託(48条)
競売開始決定が下されたときは、裁判所書記官は直ちに(従って、債務者への開始決定送達前に)差押えの登記の嘱託をしなければならない(登記原因は、競売開始決定)。差押えによる処分の制限は民法177条の物権の変更に当たり、正当な利害関係を有する第三者との関係は、登記の先後により決せられる[3](破産手続開始決定による処分権限の制限の場合[14]とは異なる。
嘱託を受けた登記官は、執行債務者が現在では目的不動産の所有者として登記されていない等の理由により嘱託を却下すべき場合には、却下決定書を嘱託者に送付する(不登法16条2項・25条)。差押えの登記がなされないと目的不動産を競売することができないので、執行裁判所は、この却下を相当と認めるときは、53条により競売手続取消決定をする。他方、却下事由がなければ、登記官は、登記簿に差押えの登記をして、登記事項証明書を執行裁判所に送付する(48条2項)。
差押えの効力の発生時期(46条1項)
差押の効力は、(α)競売開始決定が債務者に送達された時、または、(β)差押えの登記がなされた時のいずれか早い時に生ずる。通常は、差押えの登記の嘱託が先になされるので(48条1項には「直ちに」の文言があるが、45条2項にはないことに注意)、差押の効力は(β)の時に生ずるのが通常となる。それにもかかわらず46条1項が(α)の時を原則的な発生時として規定しているところに、差押えの効力は、本来、開始決定が債務者に送達されたときに発生ずるべきであるとの考えを読みとることができる。
差押えの効力発生後の付随的措置(49条)
差押えの効力が生ずると、次の付随的措置がなされる。
(a)裁判所書記官は、物件明細書の作成までの手続に要する期間を考慮して、配当要求の終期を定める(49条1項)。終期後の配当要求は、租税債権者
あるいは先取特権者の要求といえども排除され、これにより無剰余措置(63条)の実効性が担保される。したがって売却の実施は、配当要求の終期後になされ、配当要求の終期は、そのことを考慮して、売却準備手続の終了前に到来するように定められるべきである。
(b)裁判所書記官は、配当要求の終期を定めたときは、次の措置をなす(49条2項)。
債権届出の催告の目的は、剰余の有無の判定、売却条件の確定に主眼があるが、手続参加を保障する趣旨を含む。優先債権者が過大な届出をしたため63条により手続が取り消された場合には、その債権者は申立債権者に対して損害賠償義務を負うことがある。優先債権者が過少に届け出たため、配当額が実体上受けるべき額よりも少なくなった場合の取扱いについては、見解は分れている(後述する)。催告に応じてなされる債権届出は、債務者に対する権利主張の性質を有するものではないので、時効中断の効力を有しない(最判平成元年10月13日民集43巻9号985頁・[百選*1994a]29事件[塩崎勤=賛成])。
客観的範囲
差押えの効力の及ぶ範囲は、明文の規定はないが、担保競売のみならず強制競売においても、原則として、抵当権の効力の及ぶ範囲と同じに考えてよい[9]。目的不動産の他に、附加一体物(民法370条)、すなわち、附合物(民法242条)、従物(民法87条。建物の畳・建具など)[8]あるいは従たる権利(地役権など)にも及ぶ。未分離の天然果実にも及ぶ(民法371条)。
借地上の建物の競売の場合に、建物の差押えの効力が借地権(地上権・賃借権[1])にも及ぶかについては、場合を分けて考察するのがよい。
売却権限の収納
差押えにより、執行機関は目的物の売却権限を収納する。差押えが有効になされていなければ、執行機関は国民の財産をその意思に反して換価する権能を有しない。
処分禁止
差押えにより債権者が把握した交換価値を確保し、かつ手続の安定を図るために、債権者の満足を不当に害することになる処分行為は無効となる。例えば、借地上の建物が差し押えられた場合に、借地権の放棄・借地契約の合意解除は、無効である(東京地判昭31.11.13下民集7-11-3208)。他方、その他の理由により建物のための土地の利用権原が不存在となっている場合に、土地所有者が建物収去を求めることは、妨げられない。また、借地借家法6条・28条等により更新拒絶が制限されている場合に、先順位の賃借権について契約の更新をなすことは、差押えの効力に反しない。建物賃借権の譲渡の承諾も、原則として差押えの効力に反しない(最判昭和53.6.29民集32-4-762・[百選*1994a]26事件)。
相対的処分禁止
不動産が差し押えられても、それはまだ債務者のものであり、売却されることなく手続が終了する場合もあるので、差押えによる処分禁止の効力は、競売手続の安定的追行に必要な範囲に限定される。(α)それは。絶対的処分禁止ではない。債務者は、差し押えられた不動産について売却や抵当権設定等の処分行為をなすことができ、それに基づく登記もなされるうる。(β)しかし、差押後の処分行為は、差押債権者に対抗できない(相対的処分禁止)。どの範囲の債権者に対抗できないとすべきかについては、次の2つの立法主義がありうる。
現行法は、手続相対主義を前提にして立法されている。執行手続に適法に参加した一般債権者について、参加の時期に関わりなく債権額に応じて平等に配当を与える建前を平等主義といい、先に手続参加した者が後で参加した者に優先するとの建前を優先主義というが、日本法は、フランス法にならい、平等主義を採用しており、一般債権者について平等主義を採用すると、差押えを巡る法律関係を単純化するためには、差押えの効力については手続相対主義が好ましいからである。
個別相対主義は、利害関係人の利益状況をきめ細かく取り上げて処理するという点では優れているが、次のような解決困難な問題が生じうるからである。例えば、債務者Sの債権者Gの申立により差押えがなされた後にSがHのために抵当権を設定し、その後にSの債権者Aが配当要求をしたとしよう。今、各債権者の順位をそれぞれG・H・Aで表し、順位関係を等号と不等号であらわすと、個別相対主義では次のようになる。
上記の二つの式は、論理的に矛盾している。この矛盾をさまざまな説明を付して法学的に解決することは、不可能というわけではない。しかし、矛盾を無理に解決しようとするのであるから、解決準則はきわめて複雑になる。一般債権者について平等原則を放棄して、優先主義を採用すれば矛盾は解消されるが、それができないことを前提にすれば、一般債権者平等原則との矛盾をもたらさない手続相対主義が簡明である。
具体例による手続相対主義の説明
差し押えられた不動産が競売手続中に債務者により第三者に譲渡された場合には、その譲渡は、競売手続との関係では無視される。売却代金を債権者に交付して剰余があれば、剰余金は執行債務者(差押当時の所有者)に交付される(84条2項)。差押後に設定された抵当権も無視され、抵当権者に配当がなされることはない(当該抵当権者が配当要求をなすことができる場合に配当要求した場合は別であるが、抵当権設定登記がなされたこと自体は、配当要求の資格を基礎づけない)。
用益制限(46条2項)
債務者は差押え後も不動産の所有者として目的物を使用収益することができる。しかし、すでに売却段階に入っており、売却される可能性が高いので、使用収益は、通常の用法の範囲に限定される(46条2項)。債務者がその範囲を逸脱し、かつ不動産の価格を低下させる場合には、債権者は、55条によりそれを制止することができる。
付随的効力
民事執行法以外の法が、差押えに次の効力を結びつけている。
差押不動産および競売手続の刑法的保護
差し押えられた不動産は債務者の所有物ではあるが、債権者のために売却されるべき不動産となっているので、債務者(所有者)もそれを損壊すれば刑法260条(建造物損壊罪)の例により処罰される(刑法262条)。強制競売・担保競売は刑法96条の3第1項の「公の競売又は入札」にあたり、これを偽計または威力を用いてその公正な実施を害する行為をした者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処せられる。賃貸借契約が存在しないのにあるように装うことは、この偽計行為にあたる(最高裁判所平成10年7月14日決定(平成10年(あ)第385号)。競売不動産をいわゆる占有屋が占拠して債権者・担保権者から立退料を要求する行為は、暴力的要求行為の一類型として、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」により禁止されている(同法9条12号)。[林*1997a]112頁以下参照。
競売申立ての取下げ
競売申立債権者は、競売開始決定後でも競売申立てを取り下げることができる。しかし買受申出は相当程度の準備と決断の上になされるのが通常であるので、買受申出があった後は、申出人の所有権取得の期待的利益を保護するために、取下げが制限される。すなわち、最高価買受申出人(および次順位買受申出人が存在する場合には、さらにこの者)が決められた後に取下げをする場合には、この者の同意を得ることが必要である(76条1項本文)。但し、他に競売申立人がいるため買受申出人の利益が害されない場合は、同意なしに取り下げることができる(76条1項但書)。他に競売申立人がいない場合には、適法な取下げによって競売手続は当然に終了し、取消決定を経る必要はない。
職権による競売手続の取消し(53条)
執行売却をしても買受人に所有権を得させることができない事情が判明した場合には、それ以上の手続続行は無意味である。代金支払義務を負う買受人(となる者)の保護のため、執行裁判所は職権で競売手続を取り消す(53条)。例えば、次の場合がそうである。
買受人の代金納付前はもちろん、納付後であっても嘱託による所有権移転登記等が完了する前であれば、取消しを認めてよい。しかし、代金の配当等がなされた後は、手続はもはや完了しており、取消しはできない。嘱託により所有権移転登記等がなされた後、配当あるいは代金交付のなされる前の時期については、手続の取消決定により登記の原状回復がなされうるか否かによって、見解は分かれよう[10]。登記の原状回復が可能な限り、競売手続の取消しをするべきである。
債務者の申立てによる取消し
債務者は、執行取消文書を提出して、競売手続の取消しを求めることができる(40条1項)。
差押登記の抹消の嘱託
競売申立てが取り下げられたとき、あるいは競売手続を取り消す決定が効力が生じたときは(12条・40条2項に注意)、嘱託により差押えの登記が抹消される(54条)。