目次文献略語

民事執行法概説

不動産の強制競売 3/4


関西大学法学部教授
栗田 隆

5 売却


5.1 売却方法

種類
売却方法は、極めて技術的なことであるので、多くは規則に委ねられている。民事執行法では、入札と競り売りがあげられ(64条)、前者は、さらに期日入札と期間入札とに分れる(規34条・35条以下、46条以下)。これらはいずれも、できるだけ多くの買受希望者を集めて、それらの者に買受価格の競争をさせる形式の売却方法である(価格競争売却)。これを実施しても成功する見込みがない場合のために、特別売却(規則51条)の方法が用意されている[24]。これは、高額での売却よりも迅速な売却に重点を置いた売却方法であり、現行規則上は少なくとも一回の価格競争売却を実施した後に選択されうる補充的な売却方法である。

売却方法の選択
価格競争売却の3つの方法には、それぞれ一長一短がある。どれを選択するかは、裁判所書記官が不動産の特徴や当該執行裁判所における競売参加者の質等を考慮して決める(64条1項)。現在のところ、期間入札が主流となっている。買受申出を郵便や信書便により送付する方法でもなすことができるため、買受申出が妨害される可能性が最も少ないからである。期間入札の実務については、奈良地裁:競売ガイダンスに実務書類のサンプルを含めて詳しい説明がある。

売却のスケジュール
各地裁において売却のスケジュールが数ヶ月先まで予め設定されている。不動産物件情報サイトスケジュールを参照(各地裁のスケジュールのページへのリンク集である)。

5.2 売却実施命令と売却情報の提供

裁判所書記官による売却実施命令
裁判所書記官は、まず、価格競争売却の3つの方法のうちのいずれをとるかを決定する。以下では、期間入札の方法がとられたものとして説明する(その他の売却方法については、規則を参照)。裁判所書記官は、続いて、入札期間、開札期日および売却決定期日を定め、執行官に売却実施命令を発する(64条3項・4項、規則46条)。

裁判所書記官のこれらの処分に対しては、執行裁判所に異議を申し立てることができる(64条6項)。異議申立てを受けた執行裁判所は、執行停止の仮の処分をすることができ、異議についての裁判に対しては不服を申し立てることができない(64条7項・10条6項前段・9項)。

売却の実施は、不動産競売全体の一部にすぎず、執行官が執行裁判所の補助機関として行う。

裁判所書記官による売却公告
裁判所書記官は、買受希望者の誘引のために、入札期間開始日の2週間前までに売却公告を行う(規36条49条)。これは、売却不動産の表示、売却基準価額、売却日時等を記載した書面を裁判所の掲示場に掲示する方法によりなされる(規則4条1項。公告事項については、64条4項、規36条1項・49条参照)。補充的に、不動産所在地の市町村に公告の掲示の嘱託をしなければならないが(補充的公告)、次に述べる裁量的公示がなされた場合には、この補充的公告は省略できる(規36条2項・49条)。

裁量的公示規4条3項)
追加的・裁量的公示として、裁判所書記官は、公告事項の要旨を日刊新聞紙に掲載し、又はインターネットを利用する等の方法により公示することができ(規4条3項)、事実また、よくなされている。ただし、2000年10月の段階では、公示方法に改善の余地のある例が目立つ。大津地方裁判所がなす新聞公示は、横書きで、かつ、土地付建物・マンション・土地の大分類の後は、価格順に掲載されていて、見やすい。ところが、大阪地裁などの新聞公示は、縦書きで、しかも、大分類の後は事件番号順に掲載されている。一定の地域の物件あるいは一定の価格帯の物件にのみ関心のある者も、すべての物件表示に目を通すことが必要となっていて、不便である。

インターネットによる情報提供
インターネット(その中のWWW)を利用した広告(公示)も行われるようになっている[R30]。新聞広告の場合よりもはるかに多くの情報が掲載され、しかも、検索も容易である。インターネットの利用は、競売物件の広告の段階を超えて、競売物件資料(物件明細書・現況調査報告書・評価書のいわゆる三点セット)の一般公開(公示)にまで進んだ[20]。不動産競売物件情報サイトの出現である[23]。このサイトからの情報提供が本格的に行われるようになったのは、2002年8月2日からである[31]。それ促した理由の一つは、これらの資料の閲覧場所の混雑であろう。東京地裁では、これらの資料閲覧のための順番取りまで生じたとのことである。インターネットを利用した情報提供により、一つの競売物件資料を同時には一人しか見ることができないという問題が解決され、多数の閲覧希望に応ずることができるようになった。

インターネット公示におけるプライバシー問題
ただ、これらの資料にはプライバシーに関する事項も含まれており 誰もが匿名で閲覧することができるので、この公示については平成14年6月26日最高裁判所規則第6号により民事執行規則第4条3項が改正され、法的基礎が与えられた(もっとも、国民のプライバシーが関係する領域の情報の一般公開であることを考慮すると、法律に根拠規定を置くほうがよいであろう)。プライバシー保護のために、2003年3月の時点では、債務者や不動産所有者等の個人名は仮名(A,B等)にされているが、それ以外の情報は、建物の見取図や室内の写真も含めてほとんどすべて公開されている(一部だけの公開は、買受希望者が物件の評価を誤る虞があると指摘されている[32]。もっとも、写真はプライバシーに関わる度合が高く、一部非公開とされたり、公開対象に含める場合でも人物の顔などについてはマスク処理がなされている)[21]。

内 覧(64条の2
競売対象不動産の状況をよりよく把握するために、執行官が現況調査に際して写真撮影をし、その写真を現況調査報告書に添付するのが通常である。建物の内部がきれいに片づけられている写真をみると購入意欲をそそられ、乱雑に散らかっている写真を見ると溜息をつくことになる。

写真でかなり状況を把握することができるが、建物を典型例とする競売不動産の内部の状況を把握するためには、不動産の内部に立ち入って直接見分するのが最善である。そこで、ITバブル崩壊後の不況の際に、不良債権の処理の促進のために競売制度の改善が求められ、その一つの方策として、内覧制度が設けられた(平成15年法律134号により新設)。

内覧は、差押債権者の申立てに基づき、執行裁判所の命令により、執行官が実施する。執行官は、内覧申込期間と内覧日時を指定して、内覧希望者を募り(規則51条の3)、内覧の日時に自ら不動産内に立ち入り、かつ、内覧希望者を立ち入らせる(法84条の2第5項)。

内覧の実施は、不動産占有者の生活領域への侵入になるので、占有者の利益保護が問題となる。
いずれの場合であっても、執行官は、内覧実施日時を占有者に通知しておくことが必要である(規則51条の3第1項末段)。

容易に想像することができるように、この内覧は、執行妨害に悪用されやすい。内覧実施日に占有者が暴力団員風の男を友人として招待していれば、内覧者は購入をひるみやすい。内覧参加者の中にそのように人間がいる場合も、同様である(この場合については、執行官は64条の2第6項の措置により対抗することができる)。差押債権者は、不動産の種類や占有者の特質等を考慮して内覧の実施を申し立てるか否かを決めるべきである。

5.3 買受申出

買受申出の法的性質
買受申出は、執行手続上は執行機関に対する売却許可を求める申立であり、手続法規と手続安定の要請に従う。他方、実体的には、私法上の売買における買受申込であり、特則がなく、また手続的要請に反しない範囲では、民法の規定が適用される。買受申出に要素の錯誤等の意思表示の瑕疵がある場合には、それを売却不許可事由として主張することができ、代金が納付されて配当が実施された後は、執行債務者に対してそれを主張することができる。詐欺・脅迫を理由として買受申出が取り消された場合も同じである。売却許可決定確定後・代金納付前の段階では、意思表示の瑕疵の効果(無効または取消し)を第三者に対抗することができる範囲で、執行裁判所は、75条1項の類推適用により、意思表示の瑕疵を理由に売却許可決定を取り消すことができると解すべきである。

買受申出資格
農地や採草放牧地を別にすれば、特に資格制限はない。執行債権者も買受申出ができ(68条の278条3項参照)、しばしば有力な買受申出人である。ただ、債務者の買受申出は、次の理由により禁じられている(68条)。(α)執行債務者が買い受けると、完全な満足を受けることのできなかった執行債権者は再度競売申立をすることができ、競売の繰返しという無駄が生じる。(β)その無駄を避けるためにも、債務者は、購入資金を有するのであれば、その資金で債務の弁済を行うべきである。(γ)債務者は、買受人になって代金を支払わないことによって競売を遅延させるおそれがある。保証金の不返還(80条1項後段)は、彼については、代金不払に対する有効な歯止めにはならない。次回の競売において売却代金の一部になって彼の債務の弁済に当てられ、彼の損失にはならないからである。

とは言え、ここでいう債務者の範囲は、買受競争の促進のために、ならびに競売不動産の所有者が当該不動産上に現に築いている生活関係の維持を可能にするために、限定的に解釈することが望ましい。したがって、68条の適用を受けるのは、強制競売にあっては執行債務者に限られる。執行債務者の連帯債務者や連帯保証人には、上記の論拠(特にα)は一般論としては妥当しないので、68条の債務者には該当しない。執行債務者の家族等も同様である。

担保競売にあっては、消除主義が適用されので、実行担保権の債務者兼所有者が競売不動産を買い受けても、上記の論拠(α)は妥当しない。しかし、それでも、188条により68条が準用されている以上、準用をまったく否定するのも適当ではないから、実行担保権の被担保債権につき弁済義務を負っている執行債務者(所有者)についてのみ準用を認めるべきである([中野*民執v5]473頁)。物上保証人や第三取得者(民法390条)はもちろん、執行債務者の家族などは、これに含まれず、買受申出ができる[11]。

農地や採草放牧地の所有権の移転については、農業委員会又は都道府県知事の許可が必要であり(農地法3条)、執行裁判所は買受申出人を、農業委員会等の発行する買受適格証明書を得た者に限定しなければならない(規33条・36条1項6号)。

買受申出の保証
買受人が代金を納付しない場合には、再度競売を実施しなければならない。そのような事態をできるだけ防止するために、買受申出人は執行裁判所が定める額・方法による保証を提供しなければならない(66条規48条)。保証の額は、入札・競り売りでは、売却基準価額の2割が原則であるが、裁判所はこれより高い額を定めることもできる(規39条49条)。特別売却における保証額は、執行裁判所が裁量で定める(規51条3項)。

次順位買受けの申出
最高価買受申出人が代金を納付しない場合には、この者が提供した保証金を没収して、配当原資にまわすことができる(80条1項)。そして、次の2つの条件が満たされる場合には、次順位の額での買受申出人に売却しても問題はなく、また、再競売をできるだけ避けるために、そうすることが望まれる:
  1. 保証金(通常、売却基準価額の2割)と次順位の買受申出額との合計額が最高価買受申出額以上であり、かつ
  2. その申出額が買受可能価額以上である。

そこで、67条において次順位買受申出の制度が設けられた(手続につき、規41条3項・49条も参照)[1]。最高価買受申出人の買受申出が代金不納付により効力を失った場合には、執行裁判所は改めて売却決定期日を開いて次順位買受申出について売却許否の決定をする(80条)。この可能性が存在する間は、次順位買受申出人が提供した保証は、執行裁判所が保管する。

5.4 執行官による期間入札の実施

期間入札については、規則49条により期日入札に関する規定がかなり準用されているが、ここでは期日入札についての説明は省略して、期間入札について説明することにしよう。なお、入札書の記載事項・添付書類につき規則38条2項−4項参照。

買受申出の受付
期間入札においては、入札期間内に提出される入札書の秘密保持が重要となり、買受申出は、次の2つの方法のいずれかによらなければならない(規47条)。
買受希望者は、入札書が封入された封筒と共に、買受けの保証を証明する文書を提出しなければならない(規48条)。保証金の額は、売却基準価額の2割とされており、保証金額から買受申出価額が推測されてその秘密が漏れることはない。執行官は、保証提供の証明文書を点検し、提出された入札書の入った封筒を開封することなく保管し、開札期日に開封する。
買受希望者は、更に、次の文書を執行官に提出しなければならない(規49条38条)。
共同買受けの場合には、買受けを希望する者たちの関係および持分を明らかにして、執行官の許可を受けなければならない(規49条38条5項)。

法人の代表者資格証明書
法人が競売申立債権者としてすでに代表者資格証明書を提出している場合でも、買受けの意思を明確にするために、再度資格証明書の提出が必要である。代表者資格証明書を提出することなくなされた買受申出を執行官が無効と判定して他の者を最高価買受申出人とした後では、資格証明書の追完は許されない(大阪高等裁判所 平成4年9月7日 第4民事部 決定(平成4年(ラ)第195号))。それ以前であれば追完が許されるかが問題となるが、期間入札の場合には、入札期間内に民執規則所定の方式に従った有効な入札申出がなされていることが必要であると割り切ってよい[25]。

最高価買受申出人の決定
執行官は、開札期日に入札人等を立ち会わせて開札し、有効な入札のうちで最高額の入札をした者を最高価買受申出人と定めて、その氏名・名称と入札価額を告げ、開札期日の終了を宣言する(規49条41条3項)。最高価額での入札人が複数いる場合(例えば、全員が買受可能価額で入札した場合)には、開札期日に出席しているその入札人にその場で再入札をさせる。開札期日に全員が出席していない等の理由により再入札する者が一人もいない場合には、くじで最高価買受申出人を定める(規42条)。なお、最高価額での入札の効力に疑問が生ずる場合には、最高価買受申出人の決定の問題は難しい問題となることがある。
入札の効力に関する判例をいくつか挙げておこう。

5.5 予備的買受申出をした差押債権者のための保全処分(68条の2

1990年頃をピークとするバブル経済の崩壊に伴い不動産の時価が顕著に低下し、この価格下落傾向は、下落幅を縮小させながらも、2002年の時点でもまだ続いていた([才田*2204a]92頁のグラフ等を参照)。そのため、売却を実施しても買受申出人が現れない場合が目立つようになった。不動産の売却を実施しても買受申出がないことの代表的な原因として次のことがある。
  1. 債務者・占有者の行為による売却困難  暴力団員風の人間が不動産を占有していて、不動産が売却されても容易には立ち退かないことを示唆あるいは誇示する行為をする場合が典型例である。
  2. 不動産の属性等による売却困難  崖地や有毒物質が混入して除去作業の必要な土地のように、売却不動産の特殊な形状・用途等により市場性に欠ける場合がそうである。

そこで、平成10年(1998年)の民事執行法改正法は、第1の場合について68条の2の保全処分を用意し、第2の場合について68条の3を用意した。まず、前者について説明しよう([栗田*1999a]も参照)。

趣旨と要件
執行の現場では、さまざまな形で売却を困難にする行為(執行妨害)がなされる。暴力団員風の人間が不動産を占有していて、不動産が売却されても容易には立ち退かないことを示唆あるいは誇示する行為をすることなどは、古典的な代表例である。執行実務は、55条の保全処分を活用して、こうした事態に対処してきたが、対処しきれない現実がある。そこで、55条の要件をある面では厳しくし、他の面では緩和して、売却を困難にする行為をする(おそれのある)債務者・占有者の占有を予め排除することができるようにするために、平成10年に68条の2が新設された。これは、競売不動産の価値の保全を図る55条の特則であるとともに、予備的買受申出をした差押債権者が目的不動産を占有して買受希望者に内覧させることをも可能にする売却促進のための規定でもある。主要な要件を55条と比較しながら挙げておこう。
  1. 入札または競り売りの方法による売却を実施させたが買受申出がなかったこと(55条より加重された要件)。
  2. 差押債権者が他に買受申出人がいなければ自分が買い受ける旨の申出をし、その保証を提供したこと(予備的買受申出。加重された要件)。
  3. 保全処分の相手方となる者(債務者・占有者)が売却を困難にする行為をしまたはその行為をするおそれのあること(緩和された要件)。
  4. 相手方は、買受人に対抗できる占有権原を有しない直接占有者に限定される。すなわち、保全処分は次の場合にのみ許される(68条の2第4項・55条2項)[27]。
    • 債務者が不動産を占有する場合
    • 占有者の占有権原が消除基準債権者(従って買受人)に対抗できない場合

効果
上記の要件の下で、執行裁判所は、差押債権者の申立てにより、申立人に担保を立てさせて、次の事項を内容とする保全処分を命ずることができる。
  1. 債務者又は不動産の占有者に対し、不動産に対する占有を解いて執行官又は申立人に引き渡すことを命ずること。
  2. 執行官又は申立人に不動産の保管をさせること。
裁判所は、これに併せて、必要に応じて、公示保全処分を命ずることができる。申立人が保管する場合には、彼の責任において、買受希望者に競売不動産の内部を閲覧させることもでき、これにより競売希望者が増加することも期待されている([後藤=小堀*1998a]62頁、[法務省*1999a]63頁)。

要件と効果の関係
要件2と要件4により、保全処分の相手方が当該不動産を明け渡すべき時期が間もなく到来し、不動産を占有することについて彼が有する利益が小さくなったことが導かれる。その小さい利益を買受人の所有権取得前に消滅させるには、買受申出がなかったという現実(要件1)と、相手方が売却を困難にする行為をしたこと又はするおそれがあること(要件3)で足りる。なお、差押債権者が買受人になって債務者・占有者を排除する道もあるが、差押債権者の多くを占める抵当権者(金融機関)にとっては、それは本来の業務外のことであり、金融システムの健全化の視点からは好ましいことではない。一般人が買受けしやすい環境を整えるべきであり、この保全処分はそのための制度の一つである。

売却を困難にする行為
「売却を困難にする行為」の代表例は、不動産が売却されても容易には立ち退かないことを示唆あるいは誇示する行為である。獰猛そうな大型犬を入口につなぐ等により、交渉相手とすることを避けるのが適当と一般人に思わせる行為も含まれる。相手方が占有していること自体が「売却を困難にする行為」と評価することができるか否かについては、意見が分かれようが、占有者が暴力団員である場合などには、それも肯定せざるを得ない。否定説をとった場合には、「その行為をするおそれ」の認定を緩和することになる。

相手方が使用収益していない場合
債務者が競売不動産を施錠することなく空き家として放置する場合には、第三者による不法占拠や失火の危険が高まるので、55条1項1号の保全処分(施錠命令)が認められる。施錠がなされれば価格減少のおそれを防止することができるので、同項2号の執行官保管までは通常は必要ない。債権者が同項1号の行為命令を申し立てることなく、68条の2の保管命令を申し立てた場合には、(α)55条1項1号の行為命令によるべきであるとして、保管命令の申立てを棄却する選択肢もあるが、(β)施錠をせずに放置する行為は競売建物の売却を困難にする結果をもたらす可能性の強い行為であり、68条の2の保管命令を認めてよい。他方、債務者が施錠して空き家にしている場合には、債務者が売却を困難にする行為をしていると評価することはできない。むしろ、空き家にしているという点では、自ら居住している場合と比較して売却しやすい状態にしているとさえいうことができる。しかし、買受希望者に建物内部を閲覧させて売却を促進するためには、この場合にも債権者保管を認めることが望ましい。これを可能にするためには、68条の2の保全処分の要件を次のように理解することが必要であり、また、そのように解したい。すなわち、この保全処分を認めるか否かは、売却の促進について債権者が有する利益と競売不動産の使用・収益を継続することについての債務者・占有者の利益との比較考慮の上でなされるべきことであり、法は、債務者等が実質的な使用・収益を継続している場合を前提にして、それを奪うことを正当化するために「売却を困難にする行為」という要件を課したのである。債務者等が実質的な使用・収益をしていない場合には、この要件が充足されないときでも債権者保管は許される。債務者が競売不動産に荷物を置いているに過ぎない場合には、荷物の性質・量にもよるが、それを継続する利益よりも売却の促進の利益の方が大きく、保管命令は許されるのが通常であると解したい。
事情変更による取消し・変更(3項)

事情変更が生じた場合には、裁判所は、申立てによりまたは職権で、保全処分を取り消しまたは変更することができる。55条の保全処分の場合と異なり、職権でもできるとされたのは、保管申立人に保管させた場合にその必要が生ずる可能性が高いからである([後藤=小堀*1998a]66頁)。

準用規定
すでに言及した規定以外に、次の規定が準用される(4項)。

5.6 買受申出がない場合の措置(68条の3

競売手続の停止
不動産の属性等により売却が困難である場合に対処するために、平成10年に、68条の3が新設された。執行裁判所は、次の要件のもとで強制競売手続を停止することができる(1項)。
競売手続の取消し
競売手続が停止されたことが差押債権者に通知され、差押債権者自身が売却を促進するために適当な買受希望者を探し出すことが求められる。それがなされなかった場合、競売手続は取り消される。正確には、次の場合である。

5.7 売却不許可事由(71条

民事執行法は、利害関係人の利益の保護のために、売却不許可事由を定め、かつ、それが執行妨害に利用されることを防ぐために、次のような重要な事由に限定した(71条)。

競売手続を開始・続行すべきでないこと(1号)  次のことがこれに該当する。
なお、担保競売における実行担保権の不存在・消滅自体がこれに該当するかについては、これを肯定する少数説もあるが、否定するのが通説・判例である(大阪高決昭和56.11.26判時1043-67、東京高決昭和60.5.15判時1184-77[百選*1994a]39事件など)。担保権の不存在等を理由とする執行取消文書を提出するか、または、不存在を執行異議(182条)において主張しなければならない。しかし、執行異議においてそれを主張したにもかかわらず、執行裁判所がそれについて判断することなく売却を許可することは、許されるべきでない(東京高決平成1年10月5日金法1255号30頁)。

最高価買受申出人の買受無資格・無能力等(2号・3号)  農地の競売の場合のように買受資格が限定されている場合には、最高価買受申出人が無資格者であれば、売却を不許可にしなければならない。このことは、執行裁判所が予め行政庁発行の買受適格証明書を有する者に限定する決定をしたか否かにかかわらない。権利能力や意思能力の欠如のみならず、行為能力の制限も買受申出を無効とするが、後者は、売却決定期日の終了までに適法な追認があれば売却不許可事由とならない(法20条民訴31条以下。民法20条による解決は、手続を渋滞させる)。無権代理も同様に売却不許可事由となる[14]。
なお、事件番号・金額の誤記などのような買受意思の欠缺・瑕疵による実体上の無効・取消し(民法95条・96条)は、2号の類推適用により売却不許可事由とすべきであるが、執行売却の秩序・信用に直接かかわることではないので、買受人の主張をまって調査すれば足りる。

背後者の無資格(3号)  買受資格のない者が資金を提供して他人に買受申出をさせることにより法令上の資格制限を潜脱することを防ぐために、買受申出人の背後者の無資格も売却不許可事由とされている。

悪質業者等の不当関与(4号)  執行事件においては各種の妨害行為を行って不正な利益を得ようとする者がしばしば登場する。それを阻止するために、売却の迅速性を犠牲にしてでも、そのような者への売却を不許可にすることとした。(α)これには、当該競売手続において不正を行った者のみならず(4号イ)、他の事件において不正を行った一定範囲の者も含まれる(4号ハ)。(β)売却許可決定を受けながら代金を納付しなかった者に再度売却を許可しても、代金を納付しない可能性があり、また売却許可により生じた義務の誠実な履行の確保のために、当該執行手続において代金を納付しなかった買受人および自己の計算においてその者に買受申出をさせた者(背後者)が現在の最高価買受申出人である場合には、売却は許可しないものとされた(4号ロ)。(γ)さらに、上記の趣旨を徹底させるために、上記の者が最高価買受申出人の代理人あるいは背後者である場合にも、売却を不許可にすることにした(4号柱書き)。

75条1項の売却不許可の申出があること(5号)

売却基準価額等の重大な誤り(6号)  適正価格での売却を保障するために、売却基準価額の決定、一括売却の決定もしくは物件明細書の作成の重大な誤り、またはこれらの手続の重大な誤りが売却不許可事由とされている。これらについて重大な誤りがあるために不当に高い価格で売却することになれば、競売手続の信用が害される。不当に安い価格で売却されれば、執行債権者・執行債務者の利益が害される。いずれの場合にも売却は不許可にしなければならない。重大な誤りのみが売却不許可事由となり、軽微な瑕疵は含まれない。例えば、評価人が売却建物の内部に立ち入ることなく評価をし、その評価額を基に売却基準価額が決定された場合には、売却基準価額の決定手続の重大な誤りであり、売却不許可事由となる(福岡高決平成1.2.14高民集42-1-25[百選*1994a]35事件(小川浩))。もっとも、手続の重大な誤りにもかかわらず売却基準価額が適正であることが明かな場合には、売却を不許可にする必要はないであろう。また、売却手続は関係人の協力を得て初めて円滑に運営されるものであり、関係人の非協力が重大な誤りの原因である場合には、その者がこの売却不許可事由を主張することは、許されるべきでない。

売却手続に重大な誤りがあったこと(7号)  1号から6号以外の事由により売却を不許可にすべき場合を包括する規定である。売却実施期日の指定・公告・通知の不備、最高価買受申出人の判定の誤りなどがあげられる。その売却代金をもってしては優先債権者に全額の満足を与えることができないこと自体は売却不許可事由とはされていないが、無剰余措置(63条)を取るべきことが明かであったにもかかわらず、それを怠ったため優先債権者の利益が害されることは、売却不許可事由となりうる。

5.8 売却許否の決定(69条−73条・75条)

売却決定期日69条
執行裁判所は、執行官により最高価買受申出人として指名された者への売却の許可・不許可を売却決定期日において、利害関係人に陳述の機会を与えた上で、決定する(69条)。競争に勝ち抜いた最高価買受申出人の所有権取得の期待、あるいは迅速な満足を受けることについての執行債権者の期待に応えるためには、最高価買受申出人が決定された時点で直ちにこの者への売却を許可することが望ましい。しかし、民事執行法は、これらの者を含めて関係人の利害の適正な調整および執行売却の信用の維持のために、71条において売却不許可事由を定め、それが一つでもあれば売却を不許可にすると共に、そのような事由が認められない場合には売却を許可するものとした。そして、それは売却手続を締めくくる重要な決定であり、相当な法律判断を伴うことがあるので、執行官が最高価買受申出人を指定する期日(期間入札の場合は開札期日。規則46条。規則49条・41条3項参照)とは別個独立に開かれる売却決定期日において、利害関係人に陳述の機会を与えた上で(70条)、執行裁判所がなすものとされた。

まとめ 上記のように、民事執行法では、執行官がまず最高価買受人を選定し、次に執行裁判所がその者への売却の許否を決定するという2段階を経て、買受人が決定される。この2段階方式においては、次の2つ意味がある。
売却許否の決定
売却不許可事由は重要なものに限定された代わりに、すべて職権調査事項とされている。執行裁判所は、執行記録および売却決定手続で収集した一切の資料に基づいて、最高価買受申出人に対する売却の許否を決定する。利害関係人は、自己の利益に関係のある売却不許可事由を主張することができる(70条)。ただし、自己の利益に関係しない事由もいったん主張された以上は、裁判所の判断資料となり、裁判所は売却の許否を判断するために、それを斟酌することができる。とりわけ4号の事由は、公正な売却手続の担保のための公益的不許可事由であり、債務者が主張した場合でも、裁判所はそれを斟酌して売却の拒否を決定することができるとしなければならない[4]。
売却の許否に関する決定については、執行抗告期間をすべての関係人に共通に開始させるために、言渡しという告知方法が採用されている(69条)。期日での言渡しにより、関係人の出頭・了知にかかわりなしに告知の効力が生ずる。

売却許可決定
執行裁判所は、法定の売却不許可事由がないと認めるときは売却許可決定を言い渡す。この決定は、手続的には、最高価買受申出人の買受申出を認容する裁判であり、実体的には、買受申込に対する承諾の性質を有する。この決定が確定すれば、売買が確定し、最高価買受申出人は買受人となり、代金納付により所有権を取得する。

売却不許可決定
執行裁判所は、売却不許可事由があると認める場合には、売却不許可決定を言い渡す(69条・71条)。その後の手続は、認定された不許可事由の内容に従い、次のように区分される([中野*民執v3]420頁[中野*民執v5]481頁[中野*民執v6]497頁)。
先例を挙げあこう。
執行官が最高価買受人の選定を誤った場合の事後処理
執行官が買受申出の有効性についての判断を誤ると、最高価買受人の選定に誤りが生ずる。()執行官により選定された最高価買受申出人の申出額よりも高額の買受申出(以下「高額申出」という)を誤って無効と判断した場合には、最高価買受申出人への売却を不許可とした上で、開札期日を再度開いて高額申出人を最高価買受申出人に選定し、執行裁判所がこれへの売却の許否を決定する。この点についてはそれほど問題はない。()他方、執行官により最高価買受申出人に選定された者への売却が不許可とされるべきであるが、有効とされるべき高額申出が存在しない場合については、再度競売を行うべきか、それとも開札期日のやり直しで足りるかが問題となる。最高価買受申出人に選定された者の買受申出が無効であるにもかかわらず執行官がそれを看過した場合については、開札期日をやり直し、最高価買受申出人になるべきであった者を選定することが原としてよいが、その者がすでに買受意欲を失っていて、買受申出の保証を再度提供する意思がない場合にどうするかが問題になる。例えば、A・B・Cの3人の買受申出人がいて、この順で高額の買受申出をしたとする;当初 最高価買受申出人に選定されたAの買受申出が無効であるため売却が不許可になり、Bは買受意欲を喪失している場合に、あらためて開札期日を開いてCを最高価買受申出人に選定しても、本来最高価買受申出人になるべき者を選定したとは言い難い。しかし、この場合に、常に再競売をするのが適切であるかは、状況にも依存しよう。例えば、Bの買受申出額とCの買受申出額との差が僅少であり、その差額よりも、再競売を行うことによる費用増加額と先順位債権の利息増加額との合計額の方が得大きい場合には、競売申立債権者にとっては、再競売よりもCへの売却許可の方が有利であろう。執行債務者にとっても、その方がゆうりであると考えてよいであろう。したがって、この場合には、再開札期日においてCを最高価買受申出人に選定することを許容してよいと思われる。ただ、意見の分かれるてんであるので、Aへの売却不許可決定をするに際して、事後処理についての決定(前記の例では、再開札期日においてCまでを最高価買受申出人に選定することを許容し、Cも買い受け意欲を喪失している場合には再競売をすべき旨の決定)をすることを許容し、その後の手続の安定を図るべきものと思われる。

売却許可決定の留保(72条73条
次の場合には、例外的に、売却許可決定を留保する([中野*民執v5]482頁参照。いずれの場合にも、売却不許可事由があれば不許可決定をしなければならない)。
)売却実施の終了から売却決定期日の終了までに競売手続の一時停止に必要な文書(39条1項7号・183条1項6-7号)の提出があった場合には、売却許可決定は当然に留保される。詳しくは後述参照。
)複数の不動産を一括売却によらずに売却した場合に、一部の不動産の買受申出額で各債権者の債権・執行費用の全部を弁済できる見込みがある場合には、超過売却をさけるために、執行裁判所はその不動産についてのみ売却許可決定をし、その他の不動産については売却許可決定を留保する決定がなされる(73条1項)。その後の処置は、次のようになる。
このような効果を有する留保決定により最高価買受申出人等は不安定な地位におかれることになるので、彼は買受申出を取り消すことができる(72条1項・73条3項)。

不動産の滅失・損傷と売却許否(53条71条5号75条
不動産の滅失・損傷が代金納付後に生じた場合には、その危険負担はすべて買受人が負う。滅失・損傷がそれ以前に生じた場合には、その程度と買受人が救済を求める時期により、取扱いが次のように異なる。
)不動産の滅失が代金納付前に判明した場合  競売手続は職権で取り消される(53条)。
)不動産の損傷が代金納付前に判明した場合  損傷の時期により取扱いが異なる。
  1. 買受申出前に損傷が生じ、それが売却許可決定確定前に判明していた場合には、売却基準価額の変更の要否の問題となり、その変更を要する程度の損傷を無視して売却した場合には、そのことが71条6号の売却不許可事由となる。
  2. 買受申出前に生じた損傷が看過され、現況調査報告書や物件明細書等に顕出されることなく手続が進められ、売却許可決定確定後にそれが判明した場合にも、買受人の保護の必要性は1の場合と異ならない。この場合には71条の適用の余地はないので、75条の類推適用により買受人を保護することになる[19](この場合には、損傷とその看過を最高価買受申出人等の責めに帰しえないことを要件とすべきであるとの見解が有力である)。ただし、この場合の損傷は、民法570条ただし書との関係で、隠れた瑕疵(損傷)に該当するものは除かれる。
  3. 買受申出後に生じた損傷は、それが最高価買受申出人・買受人の責めに帰しえない事由による場合には、75条の規定による救済(売却不許可の申出)が与えられる。この救済の申立ては、売却許可決定確定後でも可能である。売却許可決定確定前の段階では、不許可申出があったことを売却不許可事由として主張することができる(71条5号)。

 なお、75条にいう損傷を物理的損傷に限定するのは適当ではなく、例えば、競売建物内で自殺があったこと、あるいは、借地上の建物の競売において敷地所有者からの建物収去・土地明渡請求認容判決が確定したことなど、その他の事由による交換価値の低下を含むものと拡張解釈すべきである[2]。
)代金納付前の滅失あるいは損傷が代金納付後に判明した場合  代金がすでに配当された後では、買受人は執行手続外で担保責任を追及するほかない。代金納付後配当前であれば、競売手続内での原状回復の余地がないではないが、この場合にも買受人は競売手続外で救済を受けるべきであるとする見解が多い。

限界事例  買受人が代金を納付した日に競売建物内に入ってみたら、現況調査後に建物内に入って自殺した債務者の白骨死体があった。これを発見した買受人は、直ちに、買受意欲を喪失し、その日の内に納付した代金の返還を求めた。裁判所はどうすべきか。

75条は、その文言上代金納付前にのみ適用があるが、しかし、納付後も、代金はまだ配当されておらず、また、所有権移転登記等の嘱託がなされていない段階では、買受人の利益を保護するために、類推適用がなお許されるとしてよい。配当等がなされた後、あるいは、所有権移転登記等がなされた後では、75条の類推適用は困難である。そうしたことを考慮すると、代金納付前に買受人が競売建物を内覧する機会を設けておく方がよいと思われる。代金納付前のことであるので、内覧に際しては、執行官が付き添って建物を内覧させることになるので、裁判所が内覧させることを執行官に命じ、費用は、内覧を希望する買受人に負担させ、57条3項を準用する(立法論)。あるいは、代金納付後に例えば3日間に限り買受人に最後の確認の機会を与え、その間は登記の嘱託及び配当等をしないとの取扱いも認められてよいであろう。

5.9 売却許否の決定に対する執行抗告(74条

売却許否の決定に対しては執行抗告をすることができる(74条1項・10条2項)。なお、売却許可決定に対する執行抗告は、債務者により所有権喪失時期の引き延ばしのために、あるいは買受人により代金納付時期の引き延ばしのために、濫用されることがある。その防止が必要であることに注意しなければならない。

抗告権者
執行抗告ができるのは、売却許可決定または不許可決定により自己の権利が害されることを主張する者に限られる(74条)。
売却許可決定に対しては、次のような者が抗告できる。
これに対して、用益権や仮処分の存続は物件明細書の記載により影響されないので、これらの効力を主張する者は、自己の権利が買受人に引き受けられるべきものであるにもかかわらずその旨が物件明細書に記載されていないことを理由に執行抗告することはできない。目的不動産が自己の所有に属すると主張する第三者も、執行抗告できない[13]。

売却不許可決定に対しては、次のような者が抗告できる。
抗告理由74条
売却許可決定に対する執行抗告では、次のことを理由としなければならない(74条。なお、10条3項以下にも注意)。
  1. 民訴338条1項所定の再審事由のあること(74条3項)

売却不許可決定に対する執行抗告では、次のことを理由としなければならない。
なお、担保不動産競売においては,担保権の不存在又は消滅を売却許可決定に対する執行抗告の理由とすることはできない(抵当権について、最高裁判所 平成13年4月13日 第2小法廷 決定(平成12年(許)第52号))。

抗告審の審判
一般の執行抗告と同じであるが、若干の注意すべき点がある。
 (α)原決定の取消しにより不利益を受ける者がいる場合には、その者を相手方に指定して、主張の機会を与えなければならない(74条4項)。例えば、債務者が売却許可決定の取消しを求めて執行抗告する場合には、買受人となるべき者・執行債権者が相手方となる。
 (β)執行抗告が不適法ならば却下し、理由がなければ棄却する。売却不許可決定に対する執行抗告において、原審が認定したのと異なる不許可事由を認定できる場合にも、抗告を棄却する。
 (γ)他方、抗告を認容して原決定を取り消す場合に、抗告審自身が原決定と異なる内容の裁判をすることは、執行の迅速性の点からは好ましいが、その裁判によって新たに自己の権利を害されると主張する者が予想される場合に、その者の抗告権を害しないかが問題となる。そのような場合には、事件を差し戻して売却の許否の決定を原審に委ねることが原則として適当である。とりわけ、抗告審が自ら売却許可決定をすることは、抗告人以外の者の抗告権を封ずる虞がある([中野*民執v5]487頁に従う。[栗田*1984a]62頁の見解を改める)。しかし、債権者も買受申出人もそれぞれ一人だけという単純な事件においては、原審の売却不許可決定に対して買受申出人と債権者の双方が執行抗告をしたのであれば、審理の結果抗告審自身が売却許可決定をすることに問題はないであろう。一方のみが抗告した場合には、他方を債務者と共に相手方にした上、抗告審が売却許可決定を下すことも認めてよいであろう。
 (δ)抗告裁判所の決定は、相当と認める方法で告知すれば足りる。差戻しの場合には、執行裁判所は、あらためて売却決定期日を開いて、売却許否の決定を言い渡す(売却許可決定を留保すべき場合は別)。

5.10 執行停止文書・取下げ・取消文書と売却手続(72条76条

利害調整の必要
債務者は執行停止文書等を提出して競売を阻止することができるのが原則ではあるが、保証を提供して買受申出をした者、あるいは最高価買受申出人となって代金納付の準備をした者からすれば、自己の関与しない事由により売却が中止されて買受けの期待が裏切られることは不利益なことである。彼の利益と債務者の利益との調整は、72条・76条により、次のように図られている[29]。なお、買受人が代金を納付して所有権を取得した後は、執行停止文書・取消文書の提出によりそれを覆すことはできない。

一時的執行停止命令39条1項7号の文書)
これは、(α)売却決定期日の終了までに提出された場合には、執行停止の効力を有する。ただし、売却実施の終了後に提出された場合には、不安定な立場におかれることになる最高価買受申出人等に買受申出の取消しが認められる。また、他の事由により売却を不許可にすることは、一時的執行停止の趣旨に反しないので、妨げられない(72条1項)。(β)売却決定期日後に提出された場合には、その売却実施によって買い受けることができる者がなくなったときに限り、執行停止の効力を生ずる(72条2項)。

弁済受領文書・弁済猶予文書39条1項8号の文書)
これらは、売却実施の終了(最高価買受申出人の決定)前に提出された場合には、執行停止の効力を有する。その後の提出は、その売却実施によって買い受けることができる者がなくなったときに限り、執行停止の効力を生ずる(72条3項)。

競売申立ての取下げの制限
競売申立の取下げは、申立人の都合で手続を終了させるものである。買受申出人の所有権取得の期待を保護するために、買受申出があった後に競売申立てを取り下げるには、最高価買受申出人等が決まった後で、その者の同意を得ることが必要である。他に差押債権者があり、自己の取下げによって最高価買受申出人等の買受けの期待が害されないとき(62条1項2号に掲げる事項について変更が生じないとき)には、その同意は不要である(76条1項)。

執行取消文書−その139条1項4号・5号)
執行申立てを取り下げる旨を記載した和解調書の提出あるいは執行免脱のための担保の提供も、最高価買受申出人等の同意がなければ執行停止の効力を生じない(76条2項)。これらは、債務者が債権者の抵抗を排して時間と労力をかけて取得するものとは言えず、債務者の利益より最高価買受申出人等の利益を優先させるのが適当だからである。

執行取消文書−その239条1項1号−3号・6号)
これが代金納付時までに提出された場合、執行手続は取り消される。売買契約の成立に相当する売却許可決定の確定後の時期についてもこのことを認めているのは、買受人の利益よりも執行取消文書を迅速に得ることができるとは限らない債務者の利益を優先させたものである。確定した売却許可決定でさえもこの執行取消しにより効力を失うという意味では、売却許可決定は解除条件付きということができる。

提出時期 執行取消文書1(4号・5号) 弁済受領文書・弁済猶予文書(8号) 一時的執行停止命令(7号) 執行取消文書2(1号−3号・6号
最初の買受申出がなされてから売却実施終了まで 最高価買受申出人等の同意が必要(76条2項) 執行停止の効力あり(39条2項・3項により制限されていることに注意)
執行停止の効力あり
執行が停止され、取り消される
売却決定期日の終了まで 原則として執行停止の効力なし(72条3項) 執行停止の効力がある=売却許否の裁判の保留(他の事由による売却不許可決定は可能)(72条1項)
代金納付まで 原則として執行停止の効力なし(72条2項)
代金納付後
買受人の所有権取得に影響なし

5.11 最高価買受申出人等のための保全処分(77条

最高価買受申出人あるいは買受人は、買受申出時の状態で競売不動産の引渡しを受けることに利益を有する。この利益の保護のために、77条において保全処分制度が規定されている。

要件
)債務者又は不動産の占有者が価格減少行為等をし、又は価格減少行為等をするおそれがあること。平成15年改正により、単純な価格低下行為も55条の禁止対象とされたので、この点での55条と77条の要件の差異は小さくなったが、なお次の点に差異がある[12]。すなわち、
)代金納付の意思のない最高価買受申出人等がこの保全処分命令をふりかざして債務者や占有者を不当に圧迫することがないようにするために、次の金銭の納付が要件とされている。
効果
上記の要件の下で、執行裁判所は、最高価買受申出人又は買受人の申立てにより、引渡命令の執行までの間、次に掲げる保全処分又は公示保全処分を命ずることができる。
行為命令の保全処分(1号)  執行裁判所が必要があると認めるときは、公示保全処分を含む。
執行官保管の保全処分(2号)  執行裁判所が必要があると認めるときは、公示保全処分を含む。
占有移転禁止の保全処分(3号)  この保全処分の特質により、公示命令は常に必要である。

55条2項の準用により、名宛人に関して次の制限がある(77条2項)。
  債務者 その他の占有者
行為命令 (制限なし) 消除基準債権者(従って買受人)に対抗できないこと
執行官保管 不動産を占有していること 消除基準債権者(従って買受人)に対抗できないこと
占有移転禁止 不動産を占有していること 消除基準債権者(従って買受人)に対抗できないこと

77条の執行官保管に付された不動産の引渡しを得るには、買受人は引渡命令を得なければならないのが原則である(77条1項の「引渡命令の執行までの間」の文言は、この趣旨を含む)[18]。

準用規定
すでに言及した規定以外に、次の規定が準用される(2項)。
次の規定は、準用されない。
55条の保全処分との対比
77条の保全処分命令の理解のために、55条の保全処分との主要な差異を整理しておこう。
55条の執行官保管の保全処分との関係
55条1項2号により執行官保管に付されている不動産については、買受人は、売却許可決定が確定した時点で77条の保管命令を申し立てるべきである。55条の保全処分命令は、買受人の代金の納付後は、本来、その目的を失って、効力を早晩失うべきものだからである。もっとも、

6 買受人の権利・義務


6.1 代金納付−所有権移転(78条−80条)

文 献
代金納付義務
確定した売却許可決定において買受人とされた者は、代金納付義務を負う(消費税は課せられない)。もっとも、執行裁判所あるいは執行債権者が代金支払請求の訴えを提起することは予定されておらず、買受人が代金を納付しない場合には、彼は保証金の返還請求権を失うだけである(80条1項後段)。その意味で、保証金は、解約手付けの性質を有する。
なお、買受人は、買受代金のほかに、所有権移転登記の登録免許税等の諸費用を負担することになるので(82条4項)、その支払のための金銭も用意しておくべきである(旭川地裁入札の注意事項末尾を参照)。

納付手続
買受人は、裁判所書記官の定める期限までに代金を納付しなければならない(78条1項)。この期限は、規則56条により売却許可決定確定後1月内の日とされているが、実務はこの規定を訓示規定と解し、買受人の資金調達の都合を考慮して1月以上の日を期限とすることがある。納付期限は、特に必要があると認めるときは、変更することができる(78条5項)。納付期限の定め、およびその変更の処分に対しては、執行裁判所に異議を申し立てることができる(78条6項)。異議申立てを受けた執行裁判所は、執行停止の仮の処分をすることができ、異議についての裁判に対しては不服を申し立てることができない(78条7項・10条6項前段・9項)。

現金一括納付と差引納付(差額納付)
買受代金は現金で一括払しなければならない。ただし、買受人が提供していた買受保証金等は、支払代金に充当され、その分だけこの段階での現金支払額は減少する(78条2項・3項)。
買受人が売却代金から配当等を受けることができる債権者である場合には、売却許可決定が確定するまでに執行裁判所に申し出て、納付すべき金額から自己の受取分を差し引いた差額だけを納付することが認められている(差引納付)。ただし売却代金が不十分なため配当が行われる場合には、買受人が受けるべき配当額について配当期日に異議の申出があれば、配当期日から1週間以内に、異議のあった金額を直ちに納付しなければならない(78条4項)[33]。この配当異議の申出があった場合には、配当異議の訴え等が提起されたことを2週間内に執行裁判所に対して証明されなければ、配当異議の申出は取り下げられたものとみなされるので(90条6項)、異議のあった金額を現金で納付することは必要なくなる。

差引納付の申出をした買受人が受けるべき配当額(以下「想定配当額」という)について異議の申出がなされなかった場合又はなされたが取り下げられた場合でも、買受人の実際の債権額が想定配当額よりも小さかった場合には、債務者は、そのことを主張して、その差額([想定配当額]−[実債権額])について不当利得の返還を請求することができる(当該債権について確定判決が存在する場合には、既判力による制約を受ける。35条2項参照)。この点は異論は見ない。しかし、債務者がさらに進んで、「買受人は代金の全額を納付していなかったことになるから、79条の適用はなく、したがって所有権を取得していない」と主張することができるかについては、見解が分かれる。旧法下の先例であるが、東京高判昭和53年7月26日判時903号53頁は、買受人が複数の担保権を有する競売申立人であるが、債務者がその一部の担保権の被担保債権を争い、実際の債権額は想定配当額より少ないから代金の完済がないと主張して買受人の所有権取得を争う場合について、次の理由により、債務者は買受人の所有権取得を争うことができないとした:(α)反対の見解を採ると、本件のような場合に、一旦完結した扱いをした競売手続を再び続行しなければならなくなる。(β)買受人が差引納付をすることなく代金全額を現金で納付した上で過大配当を受けた場合と同様に処理してよく、債務者や後順位債権者は買受人に対して不当利得返還請求をすることができるとすることで足りる。これに対して、[上原*2016a]は、次の理由により、債務者は買受人の所有権を争いうるとする:(α)配当異議申出者は、配当期日から2週間以内に配当異議の訴え等を提起しなければならないことの負担の大きさを考慮すると、この手続保障の存在とその懈怠を理由に債務者の所有権喪失を正当化することは困難である(131頁以下);(β)差引納付に正当性がないことを理由に所有権取得を否定される買受人の不利益は、債務者が受ける不利益と比較して、相対的に小さい(136頁)。

場合を分けて検討しておこう。以下では、不動産の代金額が5000万円であるとする。
  1. 債権者は一人だけで、彼が買受人になった;彼の手続上の債権額が3000万円であり、差引2000万円を納付して所有権移転登記を得た;しかし、彼の債権は実際には存在しなかった。この場合には、買受人の所有権取得を否定してよい。担保競売の場合には、184条の問題になり、同条は買受人が競売申立て債権者である場合には適用がないと解されているので、前記の結論が同条により妨げられることはない。もっとも、債務者の原状回復を求める請求権(所有権移転登記請求権や明渡請求権)と買受人が納付した代金の返還請求権とは同時履行関係に立つとすべきである。強制競売の場合には、債務者から買受人への所有権移転の基礎は有効な債務名義の存在であり、債務名義が有効に存在する限り、債務名義に表示された執行債権がたとえ不存在であったとしても、買受人は有効に所有権を取得するのが原則である。しかし、不当な競売申立てをした買受人よりも債務者を保護すべきであるとの視点から、買受人の所有権取得を否定してよいと思われる。なお、買受人が返還請求することができる金額は、この場合には、彼が現実に納付した2000万円のうち手続費用を控除して債務者に交付された金額とすべきであろう。他方、他に債権者が存在し、その者に配当等がなされる場合については、債務者の原状回復請求権と同時履行関係に立つべき買受人の代金返還請求権額は、競売手続がまったく無駄であったというわけではないことを考慮すると、手続費用控除前の2000万円としてよいであろう。
  2. 買受人の実債権額は2800万円であるとし、この点を除き他は上記1の場合と同様であるとする。この場合には、買受人は代金2200万円を納付すべきところ、まだ2000万円しか納付していないのであるから、79条の要件を充足しているとは言い難いのは確かである。しかし、担保競売にあっては被担保債権及び担保権が存在することにより、また、強制競売にあっては債務名義が有効に存在することにより、売却は有効になるのが原則であり、そして当事者間の公平の視点からその例外を認めるべき状況にあるかは疑問である。(α)不動産の代金の全部が支払われていないから所有権移転の効果は生じていないとしても、買受人が残代金200万円を支払えば所有権移転の効果が生ずることは認めるべきであろう。(β)買受人について破産手続が開始された場合には、2000万円の差引納付をした時点では所有権移転の効果が生じていないから、債務者は2000万円の支払と引換えに取戻権を行使しうると解するか、すでに所有権移転の効果が生じていて債務者は200万円の残代金支払請求権ないし不当利得返還請求権を有するにすぎず、それは破産債権になるとするかの問題が生じ、その問題は債務者と買受人の他の債権者との間の公平の問題になる;債務者は配当異議の申出により不当な差引納付を阻止する機会が与えられていたことを考慮すれば、後者の選択肢(所有権移転肯定説)をとるべきであろう。(γ)所有権移転否定説が主張するように、配当異議の申出の効果を維持するのに必要な配当異議等の提訴証明期間が短いことは確かである;しかし、現行法の解釈論として、所有権移転否定説を採用しなければならないほどに短いとは思われない(債務者が買受人となる債権者の債権額を争う機会は、競売申立て、配当要求又は債権届出がなされたときから存在するからである);また、仮に2週間では短すぎるのであれば、立法論になるが、所有権移転肯定説を維持することができるように、提訴証明期間を延長することにより解決すべきである。
  3. 第1順位の抵当権者(被担保債権額2000万円)の申立てに基づき競売がなされ、第2順位の抵当権者(届け出られた被担保債権額1000万円)が買受人となり、代金5000万円から想定配当額1000万円を差し引いた4000万円を納付して所有権移転登記を受けた。この場合に、所有権移転否定説を採った場合に、債務者が買受人に4000万円を支払うのと引換えに所有権の登記を債務者に戻して競売手続を続行することは現実的ではないであろう。その前提として、第1順位の抵当権者が受領した1000万円を債務者に返還させ、すでに抹消されている第1順位の抵当権を復活させることは、実際問題として困難であり、かつ、手続的に無駄だからである。したがって、この場合も、前記2と同様に、債務者は買受人に対して1000万円の残代金支払請求権ないし不当利得返還請求権を有するにとどまると解するのがよいと思われる。

前記2と3の場合に、債務者は買受人に対して残代金支払請求権を有すると構成することの趣旨は、残代金の支払がなければ、売買契約に類似する競売を解除する余地を認めることにある。もちろん、他の債権者が不動産の競売により得た満足に影響を与えないように原状回復を図るべきであるから、この解除により生ずる原状回復義務は次のように定められるべきである:(1)買受人が納付した金額に彼が実際の債権額に応じて受けるべきであった配当額等を加えた金額を債務者が買受人に支払う義務を負う;(2)買主は競売された不動産の登記及び占有を原状に服させる義務を負う;(3)両義務は、同時履行関係に立つ(民法546条の類推適用)。以下では、このような法的処理を「競売の解除」と呼ぶことにする。これは、買受人が残金を支払うだけの資金を有せず、債務者(所有者)が前記(1)の支払をするだけに資力を回復させている状況においてのみ現実性を帯びる問題であり、解釈論としてここまで進む必要性は高くないが、ないとは言えない。

しかし、次の理由により、買受人が負うのは不当利得返還債務であると構成するのがよいであろう。(α)前記東京高判が説示するように、差引納付を≪代金全額納付後に配当額を受けることと同等なもの(簡略にしたもの)≫と考えると、買受人が負っているのは未払代金債務ではなく、不当利得返還債務にすぎないことになり、「競売の解除」の余地はない。さらに、(β)「競売の解除」を認めるとと、原状回復の必要が生じ、法律関係が複雑・不安定になりやすい。(γ)不動産価格の上昇期には、「競売の解除」をして不動産を取り戻すことができることは、債務者にとって利益となるが、債務者は配当異議の申出をしなかったことによりこの解除の利益を失うと説明することもできる(債務者から解除の利益を奪ったとしても、買受人に不当な利得を与えることにはならず、解除の利益は、配当異議の申出の懈怠により喪失させてもよい程度の利益であるとみることができる)。

裁判所書記官    買受人+融資者
  |         |
(所有権移転  
(抵当権設定登記
登記等の嘱託書) 
の申請の委任)
  |         ↓
  └─────→
司法書士等====>登記所
納付資金の借入れ
買受人が代金を金融機関からの借入れにより調達することは、一部の裁判所で実務上の工夫により早くから行われていた。それを法的に認知するために、平成10年に82条が改正された。要点は、買受人への所有権移転登記の直後に融資者のための抵当権設定登記がなされる機会を確保することである。所有権移転登記の嘱託は、執行手続の範囲内である。他方、抵当権設定登記の申請は、範囲外である。両者を連結するのが、買受人と融資者とが共同で指定した「登記申請の代理を業とすることができる者」(司法書士など)である。裁判所書記官は、共同の申出がある場合には、被指名者に82条1項の登記の嘱託情報を提供し(嘱託書を交付し)、この者が登記所に嘱託情報を提供する(嘱託書を提出する)方法によって嘱託しなければならない(82条2項)。なお、裁判所がとくに指定した物件については、住宅金融 公庫の中古住宅購入融資を利用する道も開かれている[30]。

代金不納付の効果
買受人が代金納付期限までに代金を納付しないときは、売却許可決定は当然に効力を失い(80条1項前段)、売却のやり直しとなる。この望ましくない事態の発生の防止のために、その買受人の再度の買受申出は禁止され(71条4号ロ)、また、保証金は没収され(80条1項後段)、売却手続をやりなおして売却された場合に代金の一部になる(86条1項3号)。ただし、競売申立ての取下げ等により競売がおこなわれないことになれば、没収された保証金は代金不納付の買受人に返還される。他に適当な帰属先がないからである。

所有権移転
買受人との売買は売却許可決定により成立し、その確定により効力を生ずるが、買受人が所有権を取得する時期は代金納付の時である(63条2項1号あるいは77条1項により予め納付された金銭が代金全額に充当される場合には、売却許可決定確定の時)。執行債権あるいは競売の基礎となる担保権の不存在それ自体は、買受人の所有権取得を妨げない(執行債権の不存在の場合につき、最判昭和54年2月22日民集33巻1号79頁[百選*1994a]43事件、担保権の不存在の場合につき、184条)。他方、目的物が第三者の所有に属する等の場合には、買受人がその所有権を取得しうるとは限らないが、ともあれ、代金を納付した買受人の所有権取得を確実にすることは、競売手続の最重要課題の一つである。

所有権取得の範囲は、差押えの効力の及ぶ範囲と同じである。借地上の建物の買受人は、差押えの効力の及ぶ範囲で、借地権も取得する。ただし、賃借権については土地所有者による譲渡の承諾が必要である(東京地判昭和33.7.19下民集9巻7号1320頁・[百選*1994a]27事件)。承諾が得られない場合のために、承諾に代わる許可の裁判の道が開かれている(借地借家20条)。いずれの場合でも、敷金関係は新賃借人に承継されないのが原則である。賃貸人は旧賃借人に敷金を返還するので、借地権譲渡の許可の裁判をする際に、裁判所は付随的裁判として、新賃借人となる買受人に敷金の交付を命ずることができる(最高裁判所 平成13年11月21日 第2小法廷 決定(平成13年(許)第20号))。

6.2 危険負担・担保責任

危険負担
目的物の滅失・毀損についての危険負担は、75条の規定により、所有権移転時期と同じである(民法534条1項の特則)。ただし、軽微な損傷については、それ以前から買受人が負う(75条1項ただし書)。

担保責任
担保責任については、民法568条が規定している。同条1項にいう「民事執行法その他の法律の規定に基づく競売」には、強制競売のみならず、担保競売や換価のための競売も含まれる。

担保責任を追及できる場合に、債務者が無資力であれば、買受人は、売却代金から満足を得た債権者に対して二次的に返還請求することできる(民法568条2項)。権利の瑕疵についての担保責任の追求は、競売手続外で行われるのが通常であるが、配当前にそれが判明した場合には、競売手続内で行なうこと、すなわち買主の売買契約解除の意思表示に基づき売却許可決定を取り消し、納付された代金があればそれを買主に返還することを認める見解が有力である。代金の減額しかできない場合でも、配当手続内で救済しようとする見解も出されている。

6.3 登記嘱託82条

買受人が代金支払義務を履行すると、裁判所書記官は買受人への所有権移転登記を登記所に嘱託する(通常の売買の場合のような共同申請は行われない)。それとともに、売却により消滅・失効した担保権・用益権・仮処分の登記、および差押え・仮差押えの登記の抹消も嘱託する。登録免許税その他の費用は、買受人の負担となる(82条4項)。

裁判所書記官は、嘱託に際して、嘱託情報と併せて売却許可決定があつたことを証する情報を提供する(売却許可決定の正本を添付する)(82条3項)。
嘱託に従って登記がなされると、登記官は、裁判所書記官に買受人への所有権移転登記の登記識別情報を通知し(登記済証を送付し)、裁判所書記官は、遅滞なく、これを買受人に通知する(交付する)(不動産登記法117条)。

6.4 不動産の引渡し

買受人は、売却不動産の引渡しを売主の立場にある元所有者(執行債務者)に求めることができる。不動産を占有している第三者が買受人に対抗することのできる占有権原を有しない場合にも、同様である。これらの者が任意に引き渡さない場合には、買受人は、執行裁判所に引渡命令(83条)の発令を申し立てることができる。

55条の保全処分により執行官保管に付されている不動産の引渡し
代金を完納した買受人が55条の執行官保管に付されている不動産の引渡しを執行官から得るために引渡命令が常に必要であるか否かについては、次のように見解が分かれている。
  1. 必要説  常に必要であるとする見解[15]。77条の「引渡命令の執行までの間」という文言等を根拠とする。
  2. 折衷説  債務者から取り上げて保管している場合には代金の完納の証明で足り引渡命令は必要ないが、債務者以外の占有者から取り上げている場合には引渡命令が必要であるとする見解([田中*民執v2]211頁)。
  3. 不要説  特に留保を付すことなく、代金の完納の証明で足り、引渡命令は必要ないとする見解[16]。この見解は、保全処分においてすでに相手方の権原についても審理がなされていて、引渡命令で重ねて審理する必要はないことを実質的根拠とする。

保管命令の相手方が債務者以外の者である場合には、彼に対する引渡命令は、彼の占有権原が買受人に対抗できるものであることを訴訟(引渡命令に対する請求異議訴訟)により主張する機会を保障するために必要なことであり、それを省略するためには彼の同意が必要である。他方、債務者が保管命令の相手方である場合には、そのような機会を付与する必要は乏しい。この場合には、買受人が代金完納を証明すれば、引渡しを受けることができると解したい(折衷説に賛成する。[栗田*1999a]140頁以下)。

7 引渡命令(83条


文献  判例

7.1 総説

不動産の売却にあっては、観念的な所有権の移転および所有権移転登記とともに、目的物の引渡しが重要となる。目的物が不動産であるため差押えの時点で執行機関が占有を取得する必要はなく、買受人の代金納付後に執行債務者から買受人へ占有が移転されることになるが、その占有移転に債務者が任意に応じない場合に、買受人が債務者に対して引渡しの訴えを提起しなければならないのであれば、それだけ売却価額は低下し、競売手続は機能不全に陥る。不動産の競売手続は、債務者の意思を抑圧してその不動産を売却するものであるから、債務者の占有を奪って買受人に与えることも売却手続の中に取り込んでよい。民事執行法は、それを引渡命令という簡易な債務名義作成手続により実現した(83条)。引渡しの執行自体は、この債務名義に基づき別個の執行事件としてなされる。

引渡命令の性質 − 債務名義性と相手方の救済手段
引渡命令は、競売手続内の決定手続で作成され、22条3号の裁判として債務名義の性質を有する。引渡命令に表示される請求権は、競売により買受人が得た所有権に基づく引渡請求権である。特別に規定された発令要件があれば引渡請求権が存在するものとして引渡命令が発令されるが、実体法を離れた特殊な請求権が与えられているのではない([中野*民執v5]546頁)。請求権が存在しないにもかかわらず発令要件が充足されるために引渡命令が発せられる余地があることは当然の前提であり、そのような事態は占有者からの請求異議の訴えにより是正されることが予定されている。その点で、引渡命令は引渡請求権の存否の確定のための本案訴訟の提訴責任の分配の機能を果たす。

7.2 発令要件

申立権者
申立権者は、代金を納付した買受人またはその一般承継人に限られる。他方、特定承継人は申立権を有しない。簡易な手続で引渡執行の債務名義を作成するので、発令手続内での審査事項を減少させ、発令の誤りの原因をできるだけ少なくするためである。また、引渡命令の発令制度が不動産競売の付随手続であることからすれば、買受人の特定承継人のためにまで引渡命令を認める必要はないからである。共有持分の買受人が単独で買受不動産を占有することになるような引渡命令を申し立てることができるかについては争いがあるが、肯定すべきである(大阪高等裁判所 平成6年3月4日 第6民事部 決定(平成5年(ラ)第400号)、東京高決平成7.8.2判タ952-293([松村*1998a]賛成))[3]。

相手方
買受人に対抗しうる占有権原を有しない占有者(債務者以外の第三者)を引渡命令により排除できるとすることは、買受希望者の排除や立退料の受領を目的とする不正な占有を阻止し、競売手続の実効性を高めるために必要なことである。しかし、執行債務者が売主として目的物の引渡義務を負うことは確実であるのに対し、第三者の占有権原については必ずしもそのような確実な判断はできない。その第三者に引渡命令を発することは、≪判決手続で占有権原を主張する機会を与えられることなしに占有を奪われることはない≫という占有者に一般に承認された利益を、彼が必ずしも関係しない事柄(債務者の債務不履行に基づき競売手続が開始されたこと)に基づき、彼から奪うことになる。通常の売買ではありえないことである。それゆえ、どの範囲の第三者に対して引渡命令を発することができるものとすべきかは、立法政策上の重要な問題となる。立法は動揺したが、平成8年改正及びその後の改正により、執行制度の機能維持のために、引渡命令の相手方となる第三者の範囲は拡充された。引渡命令の名宛人(相手方)となるのは、次の者である。
 (執行債務者  執行債務者は売主として買受人に対して引渡義務を負っているので、彼に対する引渡命令は、買受人が代金を完納したことのみを要件とする(83条1項)[7]。執行債務者の不動産の占有の有無は、要件とはならない。しかし実務では、賃貸建物の買受人が、法的知識の乏しい賃借人に対して、債務者に対する引渡命令を示して立退きを迫る例もあるので、不動産を占有していない債務者に対する引渡命令の発令に慎重な姿勢を示す裁判所もある。
 (執行債務者以外の者  債務者以外の者に対しては、買受人は所有権に基づき引渡しを請求できる。引渡命令の発令のためには、買受人の代金完納という一般的要件の他に、次の要件が充足されることが必要である(83条1項)。
任意の引渡しのないこと
買受人が債務者または占有者から任意の引渡しを得た場合には、引渡命令は発せられない(東京高決平成10.7.8判時1671号77頁[10]、[注解*1986b]261頁(中山一郎)、[鎌田*1981a]56頁など)。
執行債務者以外の者が引渡命令の相手方になる場合について、最近の先例を挙げておこう。

7.3 発令手続

管轄・申立て
引渡命令の発令は、執行裁判所の管轄に専属する。引渡命令の申立ては、代金納付の日から6月以内にしなければならない(83条2項。初日不算入)。ただし、民法395条により明渡猶予が認められる場合には、申立て期間は9月に延長される。明渡しを猶予されるのは、差押え当時の賃借人であり、その後の賃借人は含まれない。買受人が所有権を取得した後に占有の移転があった場合には、買受人は、直ちに引渡しを求めることができるが、この場合でも引渡命令の申立て期間は9月のままである([谷口=筒井*2004a]40頁)。

審理
引渡命令の申立てについては、決定手続で審理がなされる。執行債務者については審尋は不要であるが、第三者に対して引渡命令を発する場合には、手続保障のために審尋が必要となる。ただし、次の場合には審尋しなくてもよい。
発令要件の認定資料は、事件の記録である。占有者の占有開始時期・占有権原の有無は物件明細書の作成段階で明かにされているのが通常である。相手方を発令段階で審尋した場合には、審尋結果もこの記録に含まれる。発令要件は、証明されなければならず、疎明では足りない。

裁判
申立てが適法でかつ発令要件が証明される場合には、執行裁判所は相手方に対し、申立人に競売不動産を引き渡しまたは明け渡すべき旨の決定(引渡命令)をする。その他の場合には、申立てを却下ないし棄却する。土地の引渡命令において地上建物の収去を命ずることができるかについては争いがあるが、地上建物の収去は、引渡命令で命ずるには係争利益が大きすぎるので、原則として命ずることができないと解すべきであろう(執行妨害のための簡易建築物はその例外となる)。しかし、競売対象外の建物が競売土地上に存在することは、競売土地について引渡命令を発することの妨げとはならない([中野*民執v5]556頁注8、最高裁判所平成11年10月26日決定(平成11年(許)第25号)。建物が任意に収去されなければ、敷地部分の引渡しの執行が事実上不能になるにすぎない)。占有者が留置権を有する場合には、彼は買受人に対抗できる占有権原を有する者に該当するから、引渡命令は発せられない(引渡命令手続内で被担保債務額を確定することは予定されておらず、被担保債務の弁済との引換給付も許されない)。

明渡しを猶予された建物使用者に対する始期付引渡命令
民法395条により明渡しを猶予された者に対して、その期間の満了の翌日を始期とする引渡命令を発しうるかについては、見解の対立がある。
  1. 否定説  建物使用者に対する引渡命令の申立期間は9月に延長されている。始期付き引渡命令を認める必要はない。
  2. 限定的肯定説  民訴法135条の要件を満たすのであれば許されるが、要件を充足するか否かは個別の事件ごとに判断すべきである(例えば、占有者が猶予期間満了後も占有を続ける意思を表明している場合には許される)。
  3. 肯定説  引渡命令の制度と明渡し猶予制度の趣旨を考慮すれば、建物使用者への始期付引渡命令は、一般的に許容すべきである。([宮崎*2005]7頁以下、[上原*2003]43頁、[中野*民執v5]553頁)

肯定説を支持すべきである。その理由は、次の点にある([宮崎*2005]7頁以下が詳しい)。
  1. 建物使用者は、前所有者たる賃貸人から敷金の返還を得ることが困難であるために、また、従前の占有を維持することが好都合なことが多いので、猶予期間満了後も明渡しを拒むことが予想される。
  2. 執行裁判所が明渡し猶予期間満了前に始期付引渡命令を発令し、それが建物使用者に送達されることにより、彼も自己の置かれている法的立場を明確に認識できるようになり、予定を立てやすくなる。
  3. 占有者が物件明細書では395条の適用を受ける差押え前からの建物使用者であると記載されていたが、引渡命令の発令手続で差押えの効力発生後の占有者であると認定されると、彼に対する引渡命令の申立て期間はすでに徒過しており、引渡命令を得ることができなくなる。このリスクを買受人に負わせるのは適当ではない。このリスクは、肯定説を採ることにより回避することができる。

不服申立て
引渡命令の申立てを排斥する決定に対しては申立人が、引渡命令に対しては相手方が、執行抗告をすることができる。引渡命令は確定しないと効力が生じないので、申立てから確定までの間に占有が移転される余地がある。そのおそれのある場合には、77条の保全命令、または通常の保全処分を申立てなければならない。抗告審において、抗告人および相手方はどのような資料を提出することができるかについては、微妙な見解の相違があるが、手続的限定説が正当であろう[9]。
  1. 執行記録限定説  東京高等裁判所昭和59年9月21日第17民事部決定(昭和59年(ラ)第414号)・判例タイムズ544号131頁[8]は、競売事件記録上に表われていない事由を主張することはできないとした。[生熊*1990a]もこれを支持する。
  2. 手続的限定説  [中野*民執v5]553頁(552頁も参照)は、執行記録限定説は厳しすぎるとし、執行抗告の理由は引渡命令の要件・手続に関する事由に限られるが、新資料の提出は引渡命令手続の競売手続への付随性による制限に服するにとどまるとする。

占有移転禁止の保全処分による当事者恒定(83条の2
55条1項3号・77条1項3号・187条1項に規定されている占有移転禁止の保全処分・公示保全処分が執行されているときは、ほとんどの場合に、買受人は、その後の占有の移転を気にすることなく、その保全処分の被申立人を相手にして引渡命令を申し立てれば足りる。その引渡命令の執行力は、次の者に対しても及ぶからである。
ただし、占有移転禁止の保全処分の効力は、被申立人に対する引渡命令の執行力をこれらの者に拡張するにとどまり、これらの者に対して引渡命令を執行するには、さらに、承継執行文(27条2項)が必要である。現在の占有者が明らかにならない場合には、買受人は、占有者を特定しないまま承継執行文の付与を求めることができる(27条3項2号)。

競売不動産が真実は執行債務者のものではなく第三者のものであり、第三者がそのことを買受人に主張することができる場合でも、その第三者が保全処分の執行されていることを知りながら不動産の占有を開始した場合には、彼にも引渡命令の執行力は拡張される。彼は、請求異議の訴えにより自己に対する執行力を排除しなければならない。

7.4 引渡命令の執行

債務名義性
引渡命令が確定すると、22条3号の債務名義となる。その執行は、通常の場合と同様、168条の規定による。相手方は、引渡命令に表示された申立人の引渡請求権の不存在・消滅等を主張して、請求異議の訴えを提起することができる。この場合に、占有者がその異議事由を引渡命令手続で主張しえたか、あるいは主張したかは、問題とならない。

買受人側の承継
買受人に与えられた引渡命令が確定した後に彼が目的不動産を他に譲渡した場合でも、彼は引渡命令の執行を申し立てることができ、かつ、引渡命令の相手方は、買受人が所有権を移転したことを請求異議事由とすることができない(最判昭和63.2.25判時1284-66[百選*1994a]50事件)。買受人が譲受人に対して負っている目的物の引渡義務の履行を円滑にするためにはそうする必要があるからである。
買受人の承継人は、承継執行文を得て、執行を申し立てることができる(23条1項3号、27条2項)。買受人からの執行と承継人からの執行との競合を避けるためには、承継人が承継執行文の付与を得た時点以降は、買受人からの執行は許されず、それまでの間は、買受人が、承継人の売主の地位に於て、承継人に代わって、承継人の有する引渡請求権を代位行使するものと見るべきであろう(執行担当(広義の訴訟担当の一種である))。

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Author: 栗田隆
Contact: kurita@kansai-u.ac.jp
1998年6月5日−2010年10月16日