![]() |
民事訴訟法講義
裁判所3/3 関西大学法学部教授 栗田 隆 |
![]() |
このような一般的な保障とならんで、具体的な事件において裁判官が事件あるいはその当事者等と特別な関係がある場合に、その裁判官を個別事件の職務執行から排除することが、裁判の公正を保ち、更に進んで、裁判の公正について国民の信頼を得るために、必要となる。そのための制度として、より公正な立場にある裁判官が得られることを前提にして([小島*1980a]9頁以下)、次の3つの制度が設けられている。
最高裁の裁判官全員に共通な除斥事由のため最高裁としての機能を果たしえない結果になるような例外的な場合には、最上級審としての裁判を拒否することができないという必要の前に、除斥・忌避制度は後退せざるをえない(東京地判昭33.6.30行政例集9巻6号1263頁)。
除斥の効果
除斥原因のある裁判官は、法律上職務の執行から当然に除斥される(裁判に関与すべきでないという状態になる)。除斥原因の存在について裁判官・当事者が認識していることは不要である。
除斥原因のある裁判官は、除斥原因が生じた時から、当該事件についての一切の職務執行から排除される(職務執行をなしえなくなる。但し、裁判官が現実に交代するのは、回避又は除斥の裁判があってからである)。次の点に注意:
除斥の裁判(25条)は、除斥原因の存在を確認する意味をもつにすぎない。除斥の裁判がなくても、除斥原因のある裁判官がした訴訟行為は無効であり、判決前であれば、除斥原因のない裁判官により当該訴訟行為がやり直されなければならない。また除斥原因のある裁判官が判決に関与したことは、絶対的上告理由(312条2項2号)および再審事由となり(338条1項2号)、訴訟手続を違法なものとする。
(a)訴訟指揮に関する不満がある場合には、それは異議・上訴により是正を求めるべきであり、忌避事由には当たらないのが原則である。その実際的理由は、訴訟指揮や証拠の採否に関する判断は本案の問題と密接に関係しており、その当否を本案手続とは別個の決定手続で判断するのが適当でないということである([畔上*1960a](2)12頁以下)[10]。
(b)公正な裁判に対する当事者の不信感が裁判官の性格、能力等の一般的資質に由来する言動により惹起される場合には、裁判官弾劾制度や分限制度によるべきであり、忌避申立は認められない。
裁判官と当事者との関係が忌避事由として主張された事件として、次のような例がある。いずれも忌避事由として認められなかったが、最後の場合については、忌避事由に該当するとすべきである(多数説)。
裁判官の面前で弁論しあるいは弁論準備手続で申述した後は、忌避申立権が原則として失われる(24条2項)。その根拠については、裁判官の面前での弁論ないし申述は裁判官の信頼の表明と理解することができるからその後の忌避申立を許す必要はないし、またそれを許すと訴訟遅延につながるということが一般に挙げられている。24条2項における弁論は、12条の場合とは異なり、訴え却下の陳述あるいは弁論延期の申請も含まれる。しかし、期日前における陳述(申請・申立など)は含まれない。他方、忌避事由がその後に生じた場合を含め、当事者がその後に初めて忌避事由の存在を知ったときは、忌避権喪失の根拠となる裁判官の信頼の基礎が覆るので、忌避事由の存在を知らずに弁論・申述をなしたことが証明されれば、忌避権は失われない。
除斥・忌避の申立は、裁判官を特定し、除斥・忌避の原因(及び、24条2項但書きによって忌避する場合には、忌避原因を知った時期)を具体的に明示して、その裁判官の所属する裁判所に対してする(規則10条1項)。簡易裁判所の裁判官についても、裁判機関である地方裁判所(25条)ではなく、所属簡易裁判所に申立てる。期日において申立てるときは書面でも口頭でもよいが、その他の場合には、書面でしなければならない(規則10条2項)
除斥申立てには申立手数料は不要であるが、忌避申立てについては民訴費用法3条・別表第一(17イ)に所定の手数料を納付しなければならず、納付がない場合には、直ちに申立てを却下できる。
不真面目な申立てを防止するために、忌避・除斥申立てから3日以内にその原因を疎明することが要求されている(規則10条3項)。除斥・忌避の裁判は裁判の信頼確保という公益に関するものであるから、裁判所は必要があれば職権による証拠調べをすべきである。期間内に疎明がまったくないときに、そのことを理由に直ちに申立てを却下することができるかについては、この期間を行為期間と解してこれを肯定する学説もあるが、他方、申立却下の裁判までに間に合えばよいとする説もある。3日の疎明期間は疎明のためのものであるから、主張された事由が正当な忌避原因となり得ない場合には、疎明の機会を与える必要はなく、疎明期間内であっても忌避申立を却下できる。
裁判と不服申立て
除斥または忌避の裁判は、地方裁判所以上の裁判官については、その者が所属する裁判所の合議体がなし、簡易裁判所の裁判官については、管轄地方裁判所の合議体がなす。25条2項はその合議体がいかなるものであるかについては何も述べていないから、裁判所法所定の合議体(同法9条・18条・26条3項)であればよく(但し同法40条に注意)、忌避を申立てられた裁判官所属の小法廷あるいは部の裁判官からなる合議体である必要はない。
忌避の裁判は、その性質上、申立てに基づいてのみなされる(24条1項参照)。除斥の裁判は、申立てにより又は職権でなされる(当事者に申立権がある。25条5項・26条1項参照)。ただ、職権で除斥の裁判がされるような事態になる前に、通常は、裁判官が自ら事件を回避(規則12条)するであろう。除斥原因のある裁判官が自ら回避しない場合には、職権での除斥の裁判もありうる[2]。
裁判は、任意的口頭弁論に基づき、決定の形式でなされる。
当事者は特定の裁判官の裁判を受ける権利を有しないから、除斥・忌避を認める裁判には、不服申立ができない。職権による除斥の裁判の場合でも同様である。他方、除斥・忌避を理由がないとする決定に対しては、即時抗告することができる(24条4項・5項)。
忌避申立権濫用の場合の簡易却下
忌避申立の濫用性が明白な事例において認められた簡易却下の理論も、理論として確立されると、逆にそれが濫用される可能性があり、その要件規制が問題となる。しかし、その記述は容易ではなく、次のような場合に簡易却下が認められやすいと言うにとどまらざるをえない。
これらの要因のうちで、(d)は、単独では簡易却下の理由となりにくいが、補助的な要因として考慮してよい。
なお、学説の中には次のような見解がある。
申立てについての裁判が確定するまでに裁判官がなした行為は、急速を要する行為(要急行為)を除き、違法であり、除去されなければならない。本案判決にまで至った場合には、上訴あるいは再審の訴えにより除去される。なお、この場合に、判決の言渡により当該審級での手続が終了した場合に除斥等の申立ての利益が失われるかについては、肯定説と否定説とが対立している[8]。
要急行為に当たるのは、証拠保全、仮差押え・仮処分、執行停止命令などである。但し、終局判決の言渡は忌避申立人が排除を求める中核をなすものであるから、いかなる場合でも急速を要する行為ではない(大決昭5.8.2民集9巻759頁)。
裁判官が回避するには、司法行政上の監督権のある裁判所(簡易裁判所の裁判官については裁80条3号・5号により地方裁判所)の許可が必要である。この許可は裁判官会議が行うのが本則であるが(裁12・20・29)、裁判官会議はこれを特定の裁判官に委任することができ(下級裁判所事務処理規則20)、また応急の措置として裁判所の長が仮に許可を与えることもできる(同19)。回避の許可は裁判ではないから、許可を受けた裁判官がその後に事件について職務を行っても、そのこと自体で違法となることはない。
忌避事由がある場合に回避することは裁判官の権能であり、義務ではないとのするのが通説的見解である(中務俊昌・民商32巻6号99頁以下)。しかし、最近では、忌避事由が裁判の公正を妨げる程度に関して除斥原因と同等以上である場合がありうるとして、回避義務を肯定し、回避義務違反の場合には、法令違反として上訴(控訴および312条3項の上告)による救済を認めようとする見解もある([佐々木*1984a] 84頁以下)。
また、23条から25条の規定は、平成16年の改正で新たに設けられた「高等裁判所又は地方裁判所において知的財産に関する事件の審理及び裁判に関して調査を行う裁判所調査官」に準用される(92条の9第1項)。裁判所調査官について除斥又は忌避の申立てがあったときは、その裁判所調査官は、その申立てについての決定が確定するまでその申立てがあった事件に関与することができない(92条の9第2項)。
1998年5月8日 −2005年8月3日