目次文献略語

民事訴訟法講義

口頭弁論 1


関西大学法学部教授
栗田 隆

1 審理の方式(87条


1.1 裁判形式と審理方式

民事訴訟法は、(α) 申立て(裁判要求)の形式と(β) 審理の方式と(γ)裁判の形式との間に一定の関係を持たせている。
訴え・控訴・上告 = 必要的口頭弁論 = 判決
訴え及び判決に対する上訴(控訴・上告)に対しては、公開の法廷で口頭弁論を行い、口頭弁論に出された資料に基づいて判決で裁判するのが原則である(87条139条)。この口頭弁論を必要的口頭弁論という。必要的口頭弁論の概念は、口頭弁論に提出されなかった資料(事実と証拠)を裁判の基礎にしてはならないとの趣旨を含む。

上記の原則には、次の例外がある。
その他の申立て = 任意的口頭弁論と審尋 = 決定・命令
判決に至るまでの訴訟手続の途中で生ずる様々な問題についてまで口頭弁論を必要的としていたのでは、事件の迅速な処理ができない。そこで、その審理には口頭弁論は必要的ではないとされ(本案と密接に関連する事項については、後述する)、その裁判は、判決以外の形式でなされる。
これらの形式で裁判する場合には、口頭弁論に出された資料に基づいて裁判するという原則は維持されず、次の2つの審理方式を適当に用いた比較的自由な審理手続で裁判資料を収集する(87条1項ただし書・187条)[15]。

任意的口頭弁論  口頭弁論を開くか否かは裁判所が任意に(つまり、必要に応じて)決定する(87条1項ただし書)。審理方式はこれに限定されていないので、裁判所は、口頭弁論に現れなかった資料も斟酌して裁判することができる。この点が必要的口頭弁論との重要な差異である。期日の指定や当事者双方の呼出し、法廷での弁論の実施、証人を宣誓させて尋問する等の証拠調べの方法は、必要的口頭弁論の場合と同じである。

審尋  法廷外で行なうことのできる簡易な審理方式である。これは、収集すべき資料により次の2つに分けられる。
本案と密接に関連する事項の審理方式と不服申立[1]
87条1項但書の明文の規定にもかかわらず、決定・命令の中には必要的口頭弁論に基づいてなされるべきものがあるとするのが伝統的な見解である。例えば、訴訟指揮等に対する異議(150条)のような本案と密接に関連する事項についての裁判がそうである。この問題は、328条と関係する。同条は、「口頭弁論を経ないで訴訟手続に関する申立てを却下した決定」に対して抗告を認めており、そこでいう口頭弁論は必要的口頭弁論を指し、必要的口頭弁論に基づいてなされるべき決定の存在が予定されていると読むことができるからである(多数説はそのように読み、少数説はこれに反対する)。これら2つの規定の関係については、次の考えがある(多数説・少数説の名称は便宜的なものである)。

多数説(口頭弁論の法理)は、328条の文言を優先させて、必要的口頭弁論に基づいてなされるべき決定の存在を認める。訴え変更不許の裁判や攻撃防御方法の却下の申立てについての裁判は、必要的口頭弁論に基づいて[2]なされるべきものであり、したがって、328条にいう「口頭弁論を経ないで」という要件を満たさないので、抗告できないという。多数説によれば、申立ては次のように区分される。
少数説(本案関連性の法理)は、87条の文言や沿革を重視し、すべての決定は任意的口頭弁論で足りるとする。しかし、本案[4]に密接に関連する事項についての裁判に対する不服申立ては、終局判決に対する上訴手続の中で審理するのがよく(283条)、独立の不服申立てを認める必要はない。そこで、328条1項は、独立の不服申立てを認めるべき裁判をその他の事項についての裁判に限定する趣旨で、「口頭弁論を経ないで」なされる裁判と表現したにすぎないと理解すべきである。例えば、証拠の申出がすでに十分に証拠調べがなされていて、更に証拠調べをする必要はないとの理由で却下される場合のように、本案と密接に関連する事項に関する申立てであっても、口頭弁論期日をあらためて開かなくても裁判できる場合があるのだから、一律に必要的口頭弁論を経て裁判すべきであるというのは適当ではない([鈴木*1984a]11号8頁以下・15頁)。

少数説が正当であろう[20]。

1.2 必要的審尋

決定や命令で裁判する場合に、当事者や第三者を審尋することが要求されている場合がある。次の裁判がこれに該当する。
この審尋は、当事者等の言い分を聴くという意味での審尋である [3] 。当事者の主張については、裁判所は、口頭弁論において聴いても、口頭弁論外で聴いてもよい。

1.3 その他

人事訴訟における事実の調査(人訴33条
婚姻取消訴訟あるいは離婚訴訟に附帯して、子の監護者の指定その他 子の監護に関する処分及び財産分与に関する処分がなされる場合、並びに親権者の指定がなされる場合に、それらの附帯処分は、本来は(つまり、離婚訴訟に伴うのでなければ)、家事審判事項であり、子の福祉等のために柔軟な手続で判断資料が収集されるべき事項である。そこで、訴訟に伴いこれらの附帯事項について裁判がなされる場合にも、家事審判の場合と同様な柔軟な方法で判断資料が収集できる「事実の調査」という制度が設けられている(人訴33条)。
口頭弁論外で得られた資料
判決の基礎資料は、基礎資料となることを両当事者に明らかにし、両当事者の批判にさらすために、また裁判の一般公開原則を維持するために、口頭弁論に顕出されることが必要である。顕出のされ方は、資料の種類により異なる。
しかし、すべての資料が口頭弁論に顕出されるわけではなく(下記a)、また、口頭弁論期日での報告だけで足りるというわけでもない(下記b)[19]。
  1. 弁論準備手続の途中の経過  口頭弁論において報告することが要求されているのは、弁論準備手続の結果のみである(173条)。弁論準備手続における当事者の主張の経過も弁論の全趣旨(247条)の一部として事実認定の資料となると解されているが、この主張経過まで口頭弁論に報告することが要求されているわけではない。ただし、弁論準備手続の途中経過も、重要なものは口頭弁論に報告することが望ましい。
  2. 期日外における専門委員の書面による説明  専門委員が期日外において説明を記載した書面を提出したときは、裁判所書記官は、当事者双方に対し、その写しを送付しなければならない(規則34条の3第2項)。書面による説明が弁論準備手続の段階でなされた場合には、弁論準備手続の結果に含まれるか否かに従い、口頭弁論への顕出の要否が決まる。他方、口頭弁論手続の段階で書面による報告がなされた場合には、口頭弁論に顕出することが必要であると解すべきであろう(少なくとも、そうすることが望ましい)。

2 口頭弁論の方式に関する諸原則


2.1 公開主義(憲82条

一般公開[R36]
手続の公正を担保するために、「裁判の対審及び判決」は公開法廷で行うのが原則である(憲82条1項)。「公開法廷」は、事件に利害関係を有するか否かを問わず、誰もが傍聴できる状態にある法廷を指す[5][14]。裁判は、国民の権利義務を確定する結果をもたらす判決手続を指す。「対審」は口頭弁論を指し、「判決」は判決の言渡しを指す。合議体でする裁判の評議は非公開である(裁判所法75条1項)。

裁判の公開は、それ自体に価値があるものとされている([長谷部*2000a]21頁)。次の意義を有するからである。
  1. 当事者が裁判官あるいは相手方当事者から不当な圧迫・誘導を受けることなく訴訟を追行することに役立つ。
  2. 裁判所に提出された資料と判決内容とを比較して判決が正当なものであるか否かを批判する機会を当事者以外の者(国民)にも与えることにより、裁判の公正を担保することができる。
  3. 当事者の背後に利害関係人がいる場合に、当事者は利害関係人に訴訟を適正に追行していることを示す必要があり、公開法廷での訴訟追行はその必要を充足させる。
  4. 政治的・社会的に重要な事件について、国民に事件の経過・当事者の主張を知る機会を保障することになる[7]。

一般公開の原則の適用範囲
一般公開の原則は、近代民主主義社会において認められた人権保障(民事通常事件にあっては、特に憲29条による財産権の保障・13条による幸福追求権(人格権)の保障)を十全なものにするために、「法律上の実体的権利義務自体を確定する純然たる訴訟事件の裁判」に適用される。「従つて、性質上純然たる訴訟事件につき当事者の意思いかんに拘らず、終局的に事実を確定し、当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定するような裁判が、憲法所定の例外の場合を除き、公開の法廷における対審及び判決によつてなされないとするならば、それは憲法82条に違反すると共に同32条が基本的人権として裁判請求権を認めた趣旨をも没却するものといわねばならない」(最判昭和35.7.6民集14-9-1657、最判昭和40.6.30民集19-4-1114)。

判決手続は、通常、この意味での訴訟事件を処理するものであり、一般公開が要求される。しかし、その他の事件については、一般公開は要求されない。例えば、家事事件手続法33条は、家事事件の手続の非公開を規定している。その合憲性について、最高裁は、次のように説示している:「家事審判法9条1項乙類3号[現:家事事件手続法別表第2第2号]に規定する婚姻費用分担に関する処分は、民法760条を承けて、婚姻から生ずる費用の分担額を具体的に形成決定し、その給付を命ずる裁判であつて、家庭裁判所は夫婦の資産、収入その他一切の事情を考慮して、後見的立場から、合目的の見地に立つて、裁量権を行使して、その具体的分担額を決定するもので、その性質は非訟事件の裁判であり、純然たる訴訟事件の裁判ではない。従つて、公開の法廷における対審及び判決によつてなされる必要はなく、右家事審判法[現:家事事件手続法]の規定に従つてした本件審判は何ら右憲法の規定に反するものではない。」(最判昭和40.6.30民集19-4-1114)。

争点整理のための弁論準備手続(168条以下)は対審に含まれず、限定公開の手続で行われる(169条2項)[6]。もちろん、「裁判の公開」が有する前記の意義に照らせば、弁論準備手続も一般に公開される方が望ましい。しかし、多くの民事事件は個人的利害に関わるものであり、争点整理手続まで公開する必要は少ない。争点整理を非公開の弁論準備手続で行い、その結果を公開法廷における口頭弁論で陳述するにとどめること(173条)は是認される。他方、政治的・社会的に重要な事件となれば、争点整理手続の公開の必要も高まる。その場合には争点整理は、準備的口頭弁論(164条以下)で行なうべきである。

一般公開の担保と補強
公開原則の違反は、再審事由ではないが(338条参照)、絶対的上告理由である(312条2項5号。[長谷部*2000a]23頁以下参照)。公開されなかったことのみを理由に判決が破棄される。公開されたか否かは重要なことであるので、口頭弁論調書に明記されなければならない(規則66条1項6号)。公開されたことが調書に記載されていなければ、公開されなかったと判断することになる(160条3項参照)。

裁判の一般公開の原則は、訴訟記録の公開によって補強される(91条1項)。

一般公開の制限
民事訴訟で争われる利益は、多くの場合、私人の個人的利益である。裁判官が審理・裁判を公正に行うことを期待できる限り、裁判の公開は必ずしも必要ない。むしろ、裁判の一般公開が当事者の利益を害する場合がある。例えば、離婚訴訟においては、家庭内のプライバシーが法廷に顕出される[8]。知的財産権の侵害が問題となる訴訟では、営業上の秘密が一般公開に曝されることは、当事者にとって重大な不利益となることがある[17]。

)そこで、民事訴訟法において、次の制限規定が置かれている。
判決書も91条・92条にいう訴訟記録の中に含まれ、閲覧を制限することも可能である。ただ、憲法82条の趣旨からすれば、判決書の閲覧制限はできるだけ避けるべきである。そこで、当事者の営業秘密にかかわる事項を判断すべき事件において、その判断理由の詳細を別紙に書き、判決理由中ではその要旨と結論のみを記載するにとどめ、別紙のみを閲覧制限することにより判決書の閲覧制限を回避するという工夫もなされてよく、また既になされている(営業秘密にかかわる事項についての判断の詳細も直接判決書に記載したうえで、その部分の閲覧を制限するという方法をとっても結果は同じであるが、スマートさに欠ける)[21]。

)人事訴訟では、訴訟当事者等のプライバシーの保護が通常事件の場合以上に重要になる。人訴22条1項は、次の要件が全て満たされる場合に、証人尋問や当事者尋問等の非公開を認めている。
  1. 尋問事項  当事者本人・法定代理人又は証人が人事訴訟の目的である身分関係の形成又は存否の確認の基礎となる事項であって自己の私生活上の重大な秘密に係るものについて尋問を受ける場合であること
  2. 尋問を受ける者に生ずる不利益  当該事項について陳述をすることにより社会生活を営むのに著しい支障を生ずることが明らかであること
  3. 陳述の不可欠性  当該陳述を欠くことにより他の証拠のみによっては当該身分関係の形成又は存否の確認のための適正な裁判をすることができないこと
  4. 裁判官の全員一致  上記b,cの点を裁判官が全員一致で認めること。

人訴法22条による当事者尋問等の非公開も、もちろん、憲法82条2項による非公開の枠内にあり、82条2項の規定の具体化である(上記aからcの要件が充足されるときに公開法廷で尋問することは、「公の秩序または善良なる風俗を害する」ことになると立法府により評価された)。

当事者公開
当事者公開には、2つの意味がある。この講義では、第2の意味で用いる。
  1. 「一般公開主義」に対立するものとして、「当事者にのみ裁判を公開する建て前」。当事者公開の語をこの意味に限定して用い、次の2の意味の当事者公開を双方審尋主義の内容に含める文献もある。例えば、[伊藤*民訴]220頁・217頁以下。
  2. 一般公開の原則がとられているか否かにかかわりなしに、審理過程は常に当事者双方に公開されていなければならない(当事者の立会権の保障)。これについは、先に説明した。

2.2 口頭主義

審理の際の当事者および裁判所の訴訟行為(特に、弁論と証拠調べ)は口頭で行なわれるべきであるとの建て前を口頭主義という。書面主義に対立する建て前である。公開主義がとられているので、傍聴人にも審理の過程が明らかになるように、口頭で訴訟行為をすることが要請される。

審理の効率・適正という側面から見ると、口頭主義には次のような長所と短所がある。
現行法では、口頭主義を原則としつつも、手続の確実・適正を期すために、各種の訴訟行為について書面化が要求されている。
口頭主義を理解するためには、このように書面が要求される事項も口頭弁論期日における口頭陳述が必要である(実際には、「訴状(あるいは準備書面)記載の通りです」の一言ですます)。このことを示す次の規定も見ておくとよい。

和解についての規律は、注目に値する。(α)和解は、当事者双方が口頭弁論等の期日(口頭弁論期日、弁論準備手続期日、和解期日。261条3項参照)に出頭してするのが原則である。和解条項が複雑になる場合が多々あり、当事者の意思確認を確実にするためである。 (β) 但し、出頭困難な一方当事者があらかじめ裁判所から示された和解条項案を受諾する書面を提出し、他の当事者が期日に出頭して和解条項を受諾したときは、和解が成立したものとみなされる(264条)。(γ)平成15年改正前においては、弁論準備手続において通信出頭者がいる場合には和解をすることができないとされていたが、同改正後は通信出頭者がいても和解する事ができるとされた。通信出頭が和解に必要な意思確認に耐えうると評価されるに至ったからである[10]。

2.3 継続審理(集中審理)主義

1つの裁判所が多数の事件の処理を担当し、各事件の審理が1日では完了しないため数回に分けなければならない場合に、数回の期日を一定の期間に集中させ、審理を継続的に行い、その事件の審理が完結してから他の事件の審理に移る方式を継続審理主義という。これに対して、数回の期日を分散させ、期日と期日の間に他の事件の期日をいれて、複数の事件を並行して審理する方式を、並行審理主義という。

審理の効率化のためには継続審理主義が望ましく、現行法はそれを実現しようとしている(人証について集中証拠調べを定める182条参照)。しかし、当事者・訴訟代理人の準備の都合もあり、また、裁判所が多数の事件を抱えていることもあって、並行審理主義に陥りやすい。

通常、訴訟代理人は、口頭弁論期日であれ、弁論準備手続の期日であれ、1回の期日ごとに依頼者に訴訟の進行状況を報告し、裁判所から釈明を求められれば、当事者と面談して事実関係を明らかにて報告(釈明)しなければならず、また、相手方からの主張に対してどのように対応するかも、当事者と協議をして決定することになる。こうした手順を踏んで、次回期日に陳述すべき内容を記載した準備書面を作成すれば、それも依頼者に送付して確認をとり、さらに、記載事項について相手方が準備に必要な期間をおいて、相手方に直送し、裁判所に提出しなければならない(規則83条・79条)。そして、裁判所も相手方も、提出された準備書面を予め閲読の上で次回期日に臨むのであるから、期日と期日との間にある程度の期間がおかれることはやむを得ない。いくつかの審理モデルでは、期日と期日の間隔は、1ヶ月である。

2.4 口頭弁論調書の作成(規則66条以下)

訴訟手続を後日の検証に耐えうる公正なものにするために、また、裁判官が訴訟の途中で交替した場合でも審理内容を引き継ぐことを可能にするために、口頭弁論の内容を記録した調書が作成される(規則66条以下)。口頭弁論調書は、口頭弁論に立ち会った書記官が作成する。調書の作成は、裁判所書記官の固有の職務である(裁判60条2項)。書記官は、裁判官の命令に従わなければならないが(同条4項)、その命令を正当でないと認めるときは、自己の意見を書き添えることができる(同条5項)。

口頭弁論調書の記載事項は、規則66条・67条で定められている。

調書の作成は、前述の重要な意義を有するものであるが、しかし作成負担は大きい。特に、証人、当事者本人及び鑑定人の陳述内容の記載の負担が大きい(以下では、これらの者を「証人等」という)[16]。調書作成負担を軽減することは、事件数の増加に伴って重要な課題となる。負担軽減は、次の方向でなされている。
各期日の口頭弁論調書は、遅くとも次回期日までに作成されるべきである。しかしそれでは、証人等について集中証拠調べがなされ、1回の期日では証拠調べが完了しない場合には、調書の作成に要する日数を考慮して次回期日を設定することになってしまう。録音テープ等の記録をもって調書への記載に代えることは、このボトルネックを解消するのに役立つ。

録音テープ等による記録
口頭弁論の内容をテープ等に記録することには、2つの意義がある。(α)口頭弁論調書作成の負担の軽減。前述の規則68条は、この視点からのものである。(β)口頭弁論調書の記載の正確性の確保。規則76条は、この視点から口頭弁論における陳述を録音装置を用いて記録することを認めている。録音対象は、証人等の陳述に限られず、当事者の弁論も判決の言渡しも含まれる。

3 専門委員等(92条の2以下


3.1 専門委員

訴訟により解決される紛争には、様々なものがある。その紛争は、事実に法を適用して解決される。裁判官は法律の専門家であっても、事実の専門家であるとは限らない。紛争事実関係が金銭の消費貸借契約のようなものであれば、その理解には通常の社会生活あるいは法曹養成過程で得られる知識で足りる場合が多いが、特許や医療あるいは建築関係の紛争となると、紛争事実関係を正しく把握するのに通常の裁判官が有する知識・理解力では不十分な場合が多々生ずる。

このような場合に、裁判官は、鑑定により事実や経験則に関する知識の補充を得ることができる。その方法としては、証拠調べとしての鑑定と釈明処分としての鑑定があるが、前者は、争点整理のために利用することを予定していない。後者は、争点成立のために利用することが予定されているが、鑑定人の選任が必ずしもうまくいかないのが実情であった。

そこで、争点整理段階あるいは証拠調べの段階で専門家が裁判官を広範囲にわたって補助する制度が必要であることが強く認識されるようになり、平成15年の改正で専門委員の制度が設けられた。専門委員の補助活動と当事者の訴訟主体としての権利をどのように調整するかが、専門委員制度の要点である。広報誌「司法の窓第63号」トピックス「専門訴訟」参照。

3.1 専門委員の任免・指定、除斥・忌避

専門委員は、専門的知見に基づいて裁判官に必要な説明をし、証拠調べにおいて説明あるいは質問をし、あるいは、和解手続において裁判官と当事者に必要な説明をする者である。その地位は、裁判所の非常勤職員であり、最高裁判所規則に従って任免される(92条の5第3項。手当等につき、同条4項参照)。

個々の事件において手続に関与する専門委員の指定は、当事者の意見を聴いて、裁判所(裁判機関)が行う(92条の5第2項)。員数は、1人以上である(同1項)。

専門委員は、裁判に与える影響力が大きいことに鑑み、除斥・忌避に関する規定が準用される(92条の6規則34条の9)。

3.2 専門委員の関与(92条の2

専門委員の関与については、関与が必要となる場面を次の3つに分けて規定が置かれている。

争点整理・進行協議の場面での関与(1項関与)  裁判所は、争点若しくは証拠の整理又は訴訟手続の進行に関し必要な事項の協議をするに当たり、訴訟関係を明瞭にし、又は訴訟手続の円滑な進行を図るため必要があると認めるときは、決定で、専門的な知見に基づく説明を聴くために、専門委員を手続に関与させることができる。この場合には、
証拠調べの場面での関与(2項関与)  これについては、次の2つの関与方法が定められている。
裁判長は、証人尋問の期日において専門委員に説明をさせるに当たり、必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、専門委員の説明が証人の証言に影響を及ぼさないようにするために、証人の退廷その他適当な措置を採ることができる(規則34条の4)。

和解の場面での関与(3項関与)  和解期日において当事者の主張に食い違いがある場合に、それが専門委員の説明により解消されうる誤解に基づくようなときには、専門委員の関与が有益である。さらに、裁判所が和解案を提示する場合にも、専門委員の説明を聞いた上で作成する方が適切な和解案ができよう。そこで、当事者の同意を得た上で、かつ、当事者が立ち会うことができる和解期日において、専門委員の説明を聴くために、彼を手続に関与させることができる。

3.3 その他

関与決定とその取消し(92条の4規則34条の8
専門委員は、裁判所の決定により手続に関与する。裁判所は、相当と認めるときは、申立てにより又は職権で関与決定を取り消すことができる(規則34条の8参照)。専門委員を実際に関与させたところ、当事者双方がその関与を不適当と判断して取消しを求める時には、関与決定を取り消すのが適当である。そこで、当事者双方の申立てがある場合には、取消しは必要的とされ(92条の4ただし書)、かつ、この場合には理由を明らかにする必要はないとされた(規則34条の8第2項ただし書)。

当事者の権利
専門委員の関与は当事者に公開され、当事者には、専門委員が裁判官に何を説明したかを知る機会(規則34条の3参照)、及び専門委員がした説明について意見を述べる機会が与えられる(規則34条の5)。

専門委員に対する情報収集の指示
また、裁判長は、専門委員に説明をさせるにあたり、必要があると認めるときは、専門委員に対し、係争物の現況の確認その他の準備を指示することができる(規則34条の6)。

通話による関与(法92条の3規則34条の2第2項・34条の7
専門委員が遠隔の地に居住しているとき、その他 裁判所が相当と認めるときは(例えば、専門委員が多忙のとき)、専門委員が関与する期日において、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が専門委員との間で音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、専門委員に同条各項の説明又は発問をさせることができる[11]。これよりも上質なコミュニケーション手段であるテレビ会議方式も、もちろん許される。

この方法を採用することについては、当事者の意見を聞かなければならない。同意は必ずしも必要ないが、3項関与の場合には、関与自体について当事者の同意が必要であるから、この通話方法による関与についても、結局、当事者の同意が必要となろう。

通話による関与がなされる場合には、1項関与・2項関与であるか、3項関与・進行協議期日関与であるかを問わず、裁判所は、通話者及び通話先の場所の確認をしなければならない(規則34条の7第1項・3項)。1項・2項関与の場合には、通話により説明または発問させた旨、及び、通話先の電話番号を調書に記載しなければならない(なお、通話先の電話番号に加えて、その場所を記載することもできる)(規則34条の7第2項)。


受命裁判官等の権限(92条の7規則34条の10
受命裁判官あるいは受託裁判官が争点整理や証拠調べあるいは和解等を行うときに、専門委員を関与させるか否か(92条の2)、関与させる場合の専門委員の指定(92条の5第5項)は、受命裁判官等が行う。それらの手続を行う裁判官が専門的知見に基づく説明を必要としている以上、その裁判官の判断で関与決定をすることができるとするのが適当だからである。ただし、証拠調べへの関与については、その重要性に鑑み、関与決定、その取消、及び専門委員の指定は、受訴裁判所がする(92条の7ただし書)。

92条の2から92条の4までに規定されているその他の事項については、それらの規定による裁判所及び裁判長の職務は受命裁判官等が行う。

3.4 知的財産事件における裁判所調査官(92条の8

知的財産事件は、科学や物理学・工学などに関する専門的知識が要求されることが多い。裁判官は、法律の専門家ではあるが、こうした科学技術分野における専門的知識を十分に有するとは限らず、また、科学技術の分野が猛烈なスピードで発展している状況を考慮して、平成16年の改正で、「知的財産に関する事件の審理及び裁判に関して調査を行う裁判所調査官」の制度が新設された。

裁判所は、必要があると認めるときは、知的財産事件において、裁判所調査官に次に掲げる事務を行わせることができる(92条の8)。
  1. 次に掲げる期日又は手続において、訴訟関係を明瞭にするため、事実上及び法律上の事項に関し、当事者に対して問いを発し、又は立証を促すこと。
    • 口頭弁論又は審尋の期日
    • 争点又は証拠の整理を行うための手続
    • 文書の提出義務又は検証の目的の提示義務の有無を判断するための手続
    • 争点又は証拠の整理に係る事項その他訴訟手続の進行に関し必要な事項についての協議を行うための手続
  2. 証拠調べの期日において、証人、当事者本人又は鑑定人に対し直接に問いを発すること。
  3. 和解を試みる期日において、専門的な知見に基づく説明をすること。
  4. 裁判官に対し、事件につき意見を述べること。

裁判に最終的な責任をもつのは裁判所であり、裁判所調査官は、裁判長の命を受けて上記の事務を行う。

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1998年11月5日− 20017年9月14日